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2.出会い
しおりを挟む魔女こと、サマンサ・ブラウンは魔女の慣例に従い、12歳でベテラン魔女に弟子入りし20歳で独り立ちした。師匠が独り立ちする弟子に贈り物をするのも慣例だ。植物系の魔法が得意なサマンサにはカボチャの種が贈られた。
「カボチャですか……?」
「ただのカボチャじゃない、微量だが魔力持ちの魔植物だ。アンタは植物魔法が得意だろ? もうすぐハロウィンだし魔法ランタンでも売って生活基盤を整えな。独り立ちの何が厳しいかって稼ぐことだからね」
「でも薬だって作れますよ」
「甘いっ! とびっきりの薬作って儲けようったって、知らない魔女から買う人間はいないよ。まずは顔繋ぎからさ。アンタの育てる薬草は質がいいんだから、焦らずしっかりやりな」
「……ししょう」
師匠の激励にホロリと涙をこぼし、住み込み仲間に手を振って独立した。
師匠の言う通り、知らない魔女から薬を買う人間はいなかった。でもハロウィンに使う魔法ランタンならお祭り気分で買ってくれる人は多い。そうして顔見知りを増やし、今はそこそこの暮らしができるまでになっている。
魔法を使えない人間と距離を取って暮らすのも魔女の慣例だ。大きな森の周りに点在している小さな村の外れに、小さな小屋を建てて住み着いた。魔女と言っても魔法が使えるただの人間なので食事が必要だし、仕事用の薬草もいる。畑を作っていろいろな作物を植えた。カブ、チシャ、豆、玉ねぎ、イモ、薬草、師匠に貰ったカボチャ。
ぽかぽか温かいある日の畑仕事のあと、ようやく出たカボチャの双葉を撫でながら眠ってしまった。初めての一人暮らしに気負って疲れが出たせいか、ぐっすりと。
何か濡れてるなと思って目覚めたら、生理の血が盛大に後ろ漏れしていた。慌てて家に駆け込み、体と服を洗ったサマンサは忘れていた。魔女の体液に含まれる魔力のことを。
魔女は使い魔と血の契約を結ぶ。つまり魔女の血を与えると契約が成り立ってしまうのだ。
次の日畑に行ったサマンサを待っていたのは、一株だけ異様に成長した魔カボチャだった。サマンサが近寄ると地面に伸ばしたツルで体を持ち上げ、土から根を引っこ抜いた。
「えええ!?」
驚愕のサマンサをよそにカボチャは根とツルで地面を移動し、サマンサの靴にスリスリとまるで猫のように体、というかツル全体を摺り寄せた。あからさまな懐きっぷりに昨日の後ろ漏れを思い出し、苦々しさがこみ上げる。
「生理の血でカボチャと使い魔契約とか……、最悪」
アンタはそそっかしい、と散々注意された師匠の声がよみがえる。憧れの使い魔、黒猫やカラスにほど遠い緑色のツルがわさわさ生えてるカボチャ。思わず途方にくれてしまった。使い魔として使えるかどうかの前に知能があるかどうかも怪しい。
情けなさと混乱で思考停止し、ひとまず問題を棚上げすることにした。ハロウィンも近付いてきたし、カボチャランタンを作って少しでも稼がなきゃいけないのだ。
「足から離れなさい」
そう言うとカボチャは大人しく離れたので、多少の知能はあるらしい。
カボチャは畑仕事をするサマンサの後ろをついてまわる。まだ短いツルと根でチョコチョコ歩く姿は健気で可愛く、キュンとしてしまった。
初めての一人暮らしで寂しかったところに懐いてくる生き物がいたら、心魅かれても仕方がない。たとえそれがカボチャのツルであっても。
畑全体に成長促進魔法を掛けたら、カボチャがねだるようにサマンサの靴に擦り寄ってきたのでカボチャにも掛けてあげた。成長促進魔法は毎日少しずつ掛けるのがコツだ。急激に成長させるとダメになるのも早い。
畑仕事が終わり家に帰るサマンサの後ろをカボチャが付いてくる。
「お前はダメよ。畑にいなさい」
元気よくぴょんぴょん跳ねていたツルが一気にしな垂れた。悪いことしたような気分になったが、それでもカボチャを使い魔として認めたくない気持ちのほうが大きくて無視をした。
翌日、可哀想だったかも、まだ落ち込んでたらどうしようと少しばかり気にしながら家を出た。畑に近づいたサマンサの靴へ、犬がシッポを振るみたいにツルをフサフサさせながら巻き付いてきたので心配も吹き飛ぶ。
「離れてよ、邪魔。まったく、お前も雑草を抜くとか虫を取るとか、少し手伝ったらどうなの?」
安心したサマンサに悪態をつかれたツルは、またシナシナになり大人しく畑に戻った。
いちいち落ち込んで見せるなんて嫌味なカボチャ。嫌味言えるくらいだから知能は高いのかも。
頭の中で文句をつけながらも、ツルをダラリと下げて沈んだ様子のカボチャが気に掛かる。植物系魔法が得意なサマンサは植物全般に親しみを抱いているので、懐かれたら嬉しいし可愛がりたいのだ。
しかし、今日もまたついて来ようとしたカボチャを置き去りにして家に帰る。それはそれ、これはこれなのだと自分に言い聞かせ、罪悪感は心の隅に追いやった。
そういう日々を過ごしていたら、カボチャのツルに黄緑色の小さな実が一つついた。
「他のカボチャは花が咲いてるのに、お前は花が咲く前に可愛い実がついたね。やっぱりちょっと変わってるわ」
可愛いと褒めたせいか、ツルがわさわさ騒がしく動いて葉を震わせている。その日かけた成長促進魔法でカボチャの実がオレンジ色に色付いた。
次の日、畑に出たサマンサは驚いた。一面の雑草は抜き取られ、カボチャのツルはそれぞれ絡まないように伸ばされている。
スカートの裾をツルで引っ張るカボチャは、褒めてと言うようにツルをフリフリ揺らしている。
「お前がやったの? すごい、えらい、賢いっ」
草むしり面倒だな~とげんなりしていたところだったので嬉しく、カボチャのツルをヨシヨシ撫でて小さな実を指先でくすぐった。カボチャはサマンサの手にツルを絡みつけてスリスリしている。
「お前って、けっこう図々しいね。可愛いけど」
ホームシックになっていたサマンサは、不完全でも意思疎通できる相手がいるのが嬉しく、その日はカボチャに色々と話しかけた。
そのまた次の日、家を出るとカボチャが玄関前にいた。根とツルで立ち上がり小さな子供ていどの背丈になったカボチャが、ツルで箒を持ち玄関前を掃除している。
「えっ、いつのまに覚えたの? 賢いわ、ホント。ありがとう」
葉をフルフル震わせてるのは喜んでるのか? 疑問に思いつつ、ツルをナデナデした。
その日以来、掃除を頑張るカボチャが家の中まで掃除するようになり、なし崩しに一緒に住むようになった。
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