私の恋は、手のひらの上

R鈿

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違和感

24.甘い檻

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 唇を離されたあとも、私は呼吸を整えることができなかった。

 陽翔くんの指が、顎から首筋、そして肩へと滑る。やわらかく触れているのに、どんどん身体が締め付けられていくような、そんな感覚があった。

「……ねえ、美緒ちゃん。俺がどれだけ、美緒ちゃんを大切に思ってるか、わかってる?」

 耳元で囁く声が、肌の上をなぞるように這う。

「頑張りすぎるとすぐ体調崩すし、無理して笑って、誰にも頼らないで……また会えてからも、ずっと、そうだった」

 背中に腕が回される。抱きしめられて、もう動けない。

「俺だけだよ。美緒ちゃんを、ちゃんと見てるのは」

 切なく熱いその言葉が、胸に重くのしかかる。

「ねえ、美緒ちゃん。どうして俺を疑うの?」

 低い声で、唇の端をなぞられる。

「お菓子だって、ちょっとでも元気になってくれたらって思って……嫌だった?」

 ゆっくり、優しく、それでいて逃がさない。陽翔くんの目は、笑っているのにどこまでも真剣で、ぞっとするほどに深い。

「他の誰にもこんなことしない。美緒ちゃんだけ。俺の全部をあげてるのに、どうして君は、それを疑おうとするの?」

 私は何も言えないまま、ただ抱きしめられていた。優しさの皮をかぶった、圧倒的な独占欲が全身を締め付ける。

「ねえ、約束して」

 耳元で、陽翔くんが囁く。

「これからも俺だけを見て、俺だけを信じて、頼って? そうしてくれるなら……なんでもしてあげるから」

 その言葉は甘い毒のようだった。優しさに包まれているはずなのに、自由を奪われていくような、息苦しさが胸を締めつける。

 それでも、私はうなずいてしまった。

 陽翔くんの瞳が、満足そうに細められるのを見ながら──
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