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スーリンとルティ

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(※スーリン視点)

私は、ルティお嬢様がお産まれになる前から、このヴィクトリア家に仕えているメイドだ。

出産現場にいたのも、私だ。


「おぎゃーーーっ!おぎゃーーーっ!」

あの時は、誰も予測していなかった。

ヴィクトリア伯爵家の長女というものが、呪いの子だったなんて。

「お生まれになったわ!」

ルティお嬢様の母、ラティア様も、メイドも、ルティお嬢様の父、ガイラ様も、みんなが喜んだ。

ルティお嬢様の髪の毛は、その頃から黒かったが、そんなことは誰も気に留めていなかった。

そのくらい、場が盛り上がっていたのだ。

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それから、しばらくして。

お嬢様の髪が、完全に黒だと分かったとき。

一番悲しみ、動揺したのは、ルティお嬢様の父、ガイラ様だ。

ガイラ様は、自分の立場が悪くなることは気にしておられず、

「ルティの一生が悪いものになってしまったらあの子が可哀想だ。」

と、ルティお嬢様のことばかりきにしておられた。

私は、そんなガイラ様は素晴らしいお方だと思った。

けれど。
常識というものは人間にこびりついている。

ガイラ様のように、偏見など、絶対にしない。と、この身に誓っていたのに、いざ、黒髪のお嬢様を見ると(気持ち悪い、怖い)と思ってしまった。

私は、そんな自分も気持ち悪いと思った。



私はそれから、お嬢様と仲良くなろうと、必死だった。

誰もが嫌がった、お嬢様を起こす、という仕事も、率先して取り組んだ。

他のメイドたちの、『ルティお嬢様の悪口大会』には絶対に参加しなかった。

今だって、黒髪に触ることに抵抗はある。

けれど。

「スーリン。見えてない?」

私だけを名前で親しく呼んで、悪戯っぽく笑うお嬢様。
私は、お嬢様が好きだ。
黒髪は未だに怖い。

でも、気持ち悪くはありません。

「はい。見えておりません、お嬢様。」

私はいつか、自分も含めて、常識丸ごとひっくり返してやります。

お嬢様。

貴方は、とても素晴らしい方です。

いつまでも、誇りを持ってください。

スーリンは、いつも貴方と共に。
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