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新人(芥川龍之介と持久力)
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このマッスル書店において大切な物。
それは、本と筋肉。
ならば、本好きの俺としては、『本』を大切にして、筋肉は本因坊さん達に任せておけば良いのだ。
俺のペース、信条を保つのみ! 俺はマッスルには染まらない! それが俺の正しい道だ!
とにかく、俺は、自分さえ守れれば良いと思っていたんだ。
まさか、この地獄で、俺が守ってやらなければならない存在が出現しようとは、思いもよらなかった。
「佐々木君。新しいアルバイトの太秦さんだ」
本因坊さんに紹介されて、高校生くらいの女の子がペコリと頭を下げる。
「よろしくお願いします」
そう言って微笑む太秦さん。
素直で大人しそうな子だ。
どうしてこの魔窟に飛び込んでしまったのか……。可哀想に。面接の時に気付かなかったのかな。
因みに俺は、以前働いていた飲食店が急遽閉店したので、とにかく生活費のためにどこでも良いから! と慌てて決めて後悔している。
この子も、生活苦からこの魔境に飛び込んでしまったのか、それとも高校生で世間知らず過ぎたのか……。
俺は、レジの打ち方を説明しながら、太秦さんにこっそり聞いてみる。
「大丈夫? こんな異次元本屋にバイトに来て。もっと普通の本屋の方が良くない?」
「え、ここってそんなにブラックなんですか?」
ブラック……世に言う『ブラック企業』のように残業だらけとか、賃金の不払いは発生したことはない。
「ブラック……な訳ではないけど……」
「良かった! 心配しちゃいました」
「いや、でもさ、ほら! 店長は、あんなマッスル店長だし」
ブラックでなくても、この脳筋ピンクは、青少年育成には良くないはずだ。
この世で初めての職場が、この異常マッスル空間だなんて不憫過ぎるだろう。
間違っているんだ! こんな筋肉が正義の世界観は!
「なんだか会話が弾んでいるようだな! 素晴らしい!」
トレーニングしながら本因坊さんが俺と太秦さんを温かく見守っている。会話の内容は聞こえていないようで良かった。
太秦さん……。そんなニコヤカに笑って「はい」とか言っている場合ではないんだよ?
君は、迷宮無限のマッスル地獄の入り口にいるんだ。
芥川龍之介の「蜘蛛の糸」。
カンダタは、長い長い蜘蛛の糸を一気に登れずに、休憩して振り返ったところから不幸が始まり地獄に逆戻りしてしまった。
もし、ここから逃げるチャンスがあれば、君だけでも抜け出すんだよ。
この無辜の太秦さんに、天国から垂らされる糸を脇目もふらず駆け上る持久力が在らんことを!
それは、本と筋肉。
ならば、本好きの俺としては、『本』を大切にして、筋肉は本因坊さん達に任せておけば良いのだ。
俺のペース、信条を保つのみ! 俺はマッスルには染まらない! それが俺の正しい道だ!
とにかく、俺は、自分さえ守れれば良いと思っていたんだ。
まさか、この地獄で、俺が守ってやらなければならない存在が出現しようとは、思いもよらなかった。
「佐々木君。新しいアルバイトの太秦さんだ」
本因坊さんに紹介されて、高校生くらいの女の子がペコリと頭を下げる。
「よろしくお願いします」
そう言って微笑む太秦さん。
素直で大人しそうな子だ。
どうしてこの魔窟に飛び込んでしまったのか……。可哀想に。面接の時に気付かなかったのかな。
因みに俺は、以前働いていた飲食店が急遽閉店したので、とにかく生活費のためにどこでも良いから! と慌てて決めて後悔している。
この子も、生活苦からこの魔境に飛び込んでしまったのか、それとも高校生で世間知らず過ぎたのか……。
俺は、レジの打ち方を説明しながら、太秦さんにこっそり聞いてみる。
「大丈夫? こんな異次元本屋にバイトに来て。もっと普通の本屋の方が良くない?」
「え、ここってそんなにブラックなんですか?」
ブラック……世に言う『ブラック企業』のように残業だらけとか、賃金の不払いは発生したことはない。
「ブラック……な訳ではないけど……」
「良かった! 心配しちゃいました」
「いや、でもさ、ほら! 店長は、あんなマッスル店長だし」
ブラックでなくても、この脳筋ピンクは、青少年育成には良くないはずだ。
この世で初めての職場が、この異常マッスル空間だなんて不憫過ぎるだろう。
間違っているんだ! こんな筋肉が正義の世界観は!
「なんだか会話が弾んでいるようだな! 素晴らしい!」
トレーニングしながら本因坊さんが俺と太秦さんを温かく見守っている。会話の内容は聞こえていないようで良かった。
太秦さん……。そんなニコヤカに笑って「はい」とか言っている場合ではないんだよ?
君は、迷宮無限のマッスル地獄の入り口にいるんだ。
芥川龍之介の「蜘蛛の糸」。
カンダタは、長い長い蜘蛛の糸を一気に登れずに、休憩して振り返ったところから不幸が始まり地獄に逆戻りしてしまった。
もし、ここから逃げるチャンスがあれば、君だけでも抜け出すんだよ。
この無辜の太秦さんに、天国から垂らされる糸を脇目もふらず駆け上る持久力が在らんことを!
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