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研修(猫写真集を表情筋)
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太秦さんは、とてもまじめな娘だ。
俺の話を一生懸命にメモして聞いてくれるし、仕事も頑張ってくれている。
そりゃ、新人だしミスすることもあるけれども、間違ったことを素直に謝って改善しようとしているところは素晴らしい。
「せ、先輩! レジが閉まらなくなったんですけれども……」
「ああ、これはね、ここのボタンを押してからこっちを……」
研修中の札の付いたエプロンをした太秦さん。
まだ一人でレジには立てないが、これだけ頑張っているのだから、一人で仕事をこなせるようになる日もそう遠くはないはず……
「せ、先輩!! レジが!レジが! ピーピー聞いたこともない音で鳴きだして、爆発しそうなんですけれども!」
なぜそうなる。
太秦さんの言う通り、レジはけたたましい警報音を鳴らし続けている。
「お、落ち着いて! レジは爆発しないから!! たぶん……」
「え、でも赤いランプみたいなの点滅して!!」
これどうやって解除するんだ?
何を押したんだ??
てか……太秦さん、とんでもないドジっ子属性ではないだろうか???
レジはどうやら強盗が入ったと勘違いしたようだ。
俺も忘れていたのだが、てか、この店には、本因坊さんという癖の強いキャラがいるから、強盗なんてものは入りようがないと安心しきっていたのだが、レジの裏に小さなボタンがあって、警報が鳴ってしまったようだ。
偶然にも、レジを触っていた太秦さんの指がそこを押してしまったというわけだ。
すごいな。ある意味神業だ。
なんとかマニュアルを引っ張り出して警報を解除した。
ちらりと太秦さんの方を見れば、これ以上ないくらいに落ち込んでいる。
「す、すみませんでした……」
「えっと……」
落ち込んだ女の子を励ます。そんなレベルの高い仕事が俺に出来る訳がない。
「頑張り過ぎて疲れちゃったんじゃない? ちょっと裏で休憩してきたら?」
「……はい」
肩を落としてうなだれて太秦さんは、とぼとぼと休憩スペースへ入っていった。
ちょっと経ったら様子を見に行こう。
……しかし、前途多難だな。
ドジっ子で一人ではなかなかまだ任せられない太秦さん。そして、それを励ましてあげられないコミュ障な俺。
割と最悪な組み合わせかもしれない。
さっきも、どういった表情をしていいか分からなくって、無表情でぶっきらぼうな言い方をしてしまった気がする。太秦さんを必要以上に落ち込ませてしまったかもしれない。
太秦さん……自信失ったりしてないかな?
こんなぶっ飛んだ店だから、別にあの程度の失敗はどうってことないのに。
そうだな、店にサラマンダーを放って丸焼きにするくらいの失敗でなければ平気じゃない?
それすらも、本因坊さんがサラマンダーを鷲掴みにしてぶん投げて解決しそうだけれども。
案の定、なかなか太秦さんが休憩室から戻ってこない。
俺は、心配になって様子を見にいく。
「う、太秦さん……?」
座って何かを見ている太秦さんの背中に俺は声を掛ける。
「あ、佐々木先輩!! すみません! つい夢中で見ていました!!」
太秦さんの手には、有名な猫写真家の猫写真集。世界の街角で野良猫を撮った写真集で、猫も風景も楽しめる人気の写真集だ。野良猫なんて警戒心が強くて近寄らせてもくれないだろうに、この写真家の手にかかれば、とても表情豊かな猫の姿が写真に納まる。
「落ち込んだ時に見ると良いんですよね。これ……なんというか、癒されるんです」
ニコリと笑う太秦さん。
その笑顔は、猫写真集のおかげなのだろう。
うん、俺も一冊買っておこうかな。
ちょっと猫写真集で表情筋を鍛えて、笑顔の練習をしよう。
俺の話を一生懸命にメモして聞いてくれるし、仕事も頑張ってくれている。
そりゃ、新人だしミスすることもあるけれども、間違ったことを素直に謝って改善しようとしているところは素晴らしい。
「せ、先輩! レジが閉まらなくなったんですけれども……」
「ああ、これはね、ここのボタンを押してからこっちを……」
研修中の札の付いたエプロンをした太秦さん。
まだ一人でレジには立てないが、これだけ頑張っているのだから、一人で仕事をこなせるようになる日もそう遠くはないはず……
「せ、先輩!! レジが!レジが! ピーピー聞いたこともない音で鳴きだして、爆発しそうなんですけれども!」
なぜそうなる。
太秦さんの言う通り、レジはけたたましい警報音を鳴らし続けている。
「お、落ち着いて! レジは爆発しないから!! たぶん……」
「え、でも赤いランプみたいなの点滅して!!」
これどうやって解除するんだ?
何を押したんだ??
てか……太秦さん、とんでもないドジっ子属性ではないだろうか???
レジはどうやら強盗が入ったと勘違いしたようだ。
俺も忘れていたのだが、てか、この店には、本因坊さんという癖の強いキャラがいるから、強盗なんてものは入りようがないと安心しきっていたのだが、レジの裏に小さなボタンがあって、警報が鳴ってしまったようだ。
偶然にも、レジを触っていた太秦さんの指がそこを押してしまったというわけだ。
すごいな。ある意味神業だ。
なんとかマニュアルを引っ張り出して警報を解除した。
ちらりと太秦さんの方を見れば、これ以上ないくらいに落ち込んでいる。
「す、すみませんでした……」
「えっと……」
落ち込んだ女の子を励ます。そんなレベルの高い仕事が俺に出来る訳がない。
「頑張り過ぎて疲れちゃったんじゃない? ちょっと裏で休憩してきたら?」
「……はい」
肩を落としてうなだれて太秦さんは、とぼとぼと休憩スペースへ入っていった。
ちょっと経ったら様子を見に行こう。
……しかし、前途多難だな。
ドジっ子で一人ではなかなかまだ任せられない太秦さん。そして、それを励ましてあげられないコミュ障な俺。
割と最悪な組み合わせかもしれない。
さっきも、どういった表情をしていいか分からなくって、無表情でぶっきらぼうな言い方をしてしまった気がする。太秦さんを必要以上に落ち込ませてしまったかもしれない。
太秦さん……自信失ったりしてないかな?
こんなぶっ飛んだ店だから、別にあの程度の失敗はどうってことないのに。
そうだな、店にサラマンダーを放って丸焼きにするくらいの失敗でなければ平気じゃない?
それすらも、本因坊さんがサラマンダーを鷲掴みにしてぶん投げて解決しそうだけれども。
案の定、なかなか太秦さんが休憩室から戻ってこない。
俺は、心配になって様子を見にいく。
「う、太秦さん……?」
座って何かを見ている太秦さんの背中に俺は声を掛ける。
「あ、佐々木先輩!! すみません! つい夢中で見ていました!!」
太秦さんの手には、有名な猫写真家の猫写真集。世界の街角で野良猫を撮った写真集で、猫も風景も楽しめる人気の写真集だ。野良猫なんて警戒心が強くて近寄らせてもくれないだろうに、この写真家の手にかかれば、とても表情豊かな猫の姿が写真に納まる。
「落ち込んだ時に見ると良いんですよね。これ……なんというか、癒されるんです」
ニコリと笑う太秦さん。
その笑顔は、猫写真集のおかげなのだろう。
うん、俺も一冊買っておこうかな。
ちょっと猫写真集で表情筋を鍛えて、笑顔の練習をしよう。
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