平安の都で妖狐は笑う

ねこ沢ふたよ

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鬼車

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 立派な伽藍の寺院の上を飛べば、煌びやかな錦糸を織り込んだ法衣を身にまとった僧侶が、何人もの弟子を従えて歩いているのが見える。

「あれは、俗物に未練があるのか悟りを開き救われたいのか……意味が分からんな」

 紫檀が僧侶を見て嘲笑する。

「まあそう言ってやるな。あれらはあれらで必死なのだよ」
「ふうん。真逆のことを同時にしているようにしか見えんがな」

 この辺りの寺では、貴族の子息が出家し寺の責任者となっている場合が多い。
 ならば、その家柄により、寺の運営資金を得ている。

 本来、俗物から離れ修行するための寺では、その運営のために派閥が産まれ、政治が行われてる。

 寺の小坊主に至るまでが、いずれかの派閥に入り、日々勢力争いをしている有り様であった。

「あの様子ならば、鬼車を呼んだのは、寺の関係者かもしれんな」
「かもしれんな。なかなか鋭いな紫檀」

 晴明に褒められて、紫檀の機嫌が途端に良くなる。

「儂だって洞察力くらいはある! 成長しているのだよ」
「そうやって、すぐ調子に乗るところが、まだまだ子どもだ」
「うるさいな。そう思うならば、細かく指摘せずに黙っていれば良いのだ」

 紫檀は周囲を見てみるが、今のところ鬼車のような禍々しい妖の気はない。

「犬に吠えられて逃げ帰ったか」
「一度は……な。だが、ここに来たことには、何か理由がある。何の目印もなくわざわざ四方を四神獣の力で守っている都に、鬼車ほど禍々しい妖が入ってくることは、早々ない」

 とは言うものの、都には妖が出没したという話は、ゴロゴロ転がっている。
 最近勢力を増してきた武士の集団も、その妖の退治をすることで、日銭を稼いでsる。

 誰かが、四神獣の守りに穴を開けつつあるのか……。
 まさか。
 紫檀は、自分の想像に首を振る。
 そんな大それた技を使える者など、そういる訳がない。

「鬼車を呼びよせる餌をまいているとか?」
「そうだな。そう考えるのが自然だろうな」

 どうだ。探してみるがいい。
 晴明は、そう言って笑う。

 また体よく仕事を押し付けられた気はするが……。
 まあ、良い。
 探してみるか。

 とは言うものの、鬼車を呼びよせる餌とは何か。
 さっぱり思い浮かばない。

 鬼車。女に化けることもある、鳥の妖。
 多くの頭を持つ怪鳥。その歌声は、凶事を呼ぶとされる。

「アホ狐。困っているようじゃの」

 声がする方を見れば、そこには先ほどの猫又が座っている。

「なんだ。白虎の国へ旅立ったのではないのか?」
「子狐が鳥を捕まえようとしているのだろう?見ものではないか」

 猫又は悠然とそう言って鼻をフンと鳴らす。
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