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IF もしもの話
「やり直しの蒼─戦場編─」
しおりを挟む轟音が大地を震わせた。
戦場には砂埃の匂いと兵士達の叫びが満ちている。剣と剣がぶつかる金属音があちこちで響き渡り、流れた血は地面の泥と混ざり合った。
オレは真っ先に敵陣へと切り込み、戦場の仲間たちの盾となるべく剣を振るっていた。 肩は裂かれ、脚は深く斬られ、腕ももう限界を迎えようとしていた。 それでも──オレは絶対に退かない。
「カルムとサマリーは……、絶対に死なせねぇ…ッ!!」
二人はオレ達の故郷である街にいる。俺が最前線で戦っているのは、彼らの未来を守るためだ。 一度目の時間軸では、オレが死ぬことでしか願いを叶えられないと、そう思っていた。 だが今度は──生きて彼らを守ってみせる。
そう誓ったはずなのに。
剣を振り下ろすたびに視界が霞み、膝が崩れそうになる。 オレの身体はとっくのうちに限界を越えていた。
「……ははっ、やっぱり……オレは、こうなるのか。」
泥の上に膝をついた瞬間、周囲から敵兵が殺到した。 剣を持つ腕が震え、もう上がらない。 敵の持つ刃が目の前で振り下ろされる。
ああ、これで終わりか──
諦めて目を瞑ろうとしたその時だった。
「バルトォォォッ!!」
轟く雷鳴のような叫び声が、戦場を裂いた。
◆
驚いて目を見開いた次の瞬間、目の前に飛び込んできたのはここにいない筈のカルムだった。 銀光を放つ剣が敵兵の刃を弾き飛ばす。 その背は、子どもの頃から見慣れている──頼もしい幼馴染の背中だった。
「バルト、勝手に一人で背負ってんじゃねえ!」
怒声とともに、カルムが敵兵を薙ぎ払う。
そして俺の身体を労わるように、優しく腕を掴んだのはサマリーだった。 弓を引き絞り、矢を放つたびに敵が次々と倒れていく。 その瞳は涙に濡れながらも、揺るぎない決意に満ちていた。
「バルト……今度は私達が貴方を助ける番だよ!」
◆
視界が涙で滲んだ。
あの日、俺はここで孤独に果てたはずだった。 それなのに今、俺の傍には二人がいる。俺を助ける為に、わざわざ戦場まで駆けつけてくれた。
「……馬鹿野郎……なんで、こんな場所まで来やがった…っ!!」
声が震える。 カルムは血に塗れた俺を支えながら叫んだ。
「お前が戦場で必死に戦っているのに、俺達は故郷でのうのうとお前の帰りを待つだなんて……、そんな事、できるわけ無いだろ!お前を…幼馴染を、親友を──二度も失えるか!」
サマリーも涙をこぼしながら、強く頷いた。
「今度こそ、生きて一緒に帰るんだよ……三人で!」
その言葉に、胸が焼けるほど熱くなった。 オレは心の奥底では、どこかまだ『一人で死ぬしかない』と漠然と思ってた。
でも今度は違う。
今度は三人で、生きて帰れるんだ。
それに二人の言葉──もしかしたら彼らには、経験していない筈の一度目の記憶が朧げにあるのかもしれない。
血に濡れた手で、オレは二人の肩を掴むと痛む身体を叱咤して何とか立ち上がった。
「……頼む……オレと一緒に戦ってくれ。」
「「当たり前だ!」」
二人の声は、戦場の轟音に負けないくらい強く響き渡った。
そこからの記憶は断片的だ。 三人で背中を預け合い、敵陣を突破した。 カルムの剣が道を切り開き、サマリーの矢が戦場の仲間達を守り、俺は残る力を振り絞って敵を薙ぎ倒した。
力尽き気を失う直前、瞳に映ったのは──何とか敵に勝利し、二人に支えられながら見た蒼く澄み渡った空だった。
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