当て馬主人公の小さな祈り

黒狐

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IF もしもの話

「やり直しの蒼─戦場編─」

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轟音が大地を震わせた。

 戦場には砂埃の匂いと兵士達の叫びが満ちている。剣と剣がぶつかる金属音があちこちで響き渡り、流れた血は地面の泥と混ざり合った。

 オレは真っ先に敵陣へと切り込み、戦場の仲間たちの盾となるべく剣を振るっていた。
 肩は裂かれ、脚は深く斬られ、腕ももう限界を迎えようとしていた。
 それでも──オレは絶対に退かない。

「カルムとサマリーは……、絶対に死なせねぇ…ッ!!」

 二人はオレ達の故郷である街にいる。俺が最前線で戦っているのは、彼らの未来を守るためだ。
 一度目の時間軸では、オレが死ぬことでしか願いを叶えられないと、そう思っていた。
 だが今度は──生きて彼らを守ってみせる。

 そう誓ったはずなのに。
 剣を振り下ろすたびに視界が霞み、膝が崩れそうになる。
 オレの身体はとっくのうちに限界を越えていた。

「……ははっ、やっぱり……オレは、こうなるのか。」

 泥の上に膝をついた瞬間、周囲から敵兵が殺到した。
 剣を持つ腕が震え、もう上がらない。
 敵の持つ刃が目の前で振り下ろされる。

 ああ、これで終わりか──
 諦めて目を瞑ろうとしたその時だった。

「バルトォォォッ!!」

 轟く雷鳴のような叫び声が、戦場を裂いた。



 驚いて目を見開いた次の瞬間、目の前に飛び込んできたのはここにいない筈のカルムだった。
 銀光を放つ剣が敵兵の刃を弾き飛ばす。
 その背は、子どもの頃から見慣れている──頼もしい幼馴染の背中だった。

「バルト、勝手に一人で背負ってんじゃねえ!」

 怒声とともに、カルムが敵兵を薙ぎ払う。
 そして俺の身体を労わるように、優しく腕を掴んだのはサマリーだった。
 弓を引き絞り、矢を放つたびに敵が次々と倒れていく。
 その瞳は涙に濡れながらも、揺るぎない決意に満ちていた。

「バルト……今度は私達が貴方を助ける番だよ!」



 視界が涙で滲んだ。

 あの日、俺はここで孤独に果てたはずだった。
 それなのに今、俺の傍には二人がいる。俺を助ける為に、わざわざ戦場まで駆けつけてくれた。

「……馬鹿野郎……なんで、こんな場所まで来やがった…っ!!」

 声が震える。
 カルムは血に塗れた俺を支えながら叫んだ。

「お前が戦場で必死に戦っているのに、俺達は故郷でのうのうとお前の帰りを待つだなんて……、そんな事、できるわけ無いだろ!お前を…幼馴染を、親友を──二度も失えるか!」

 サマリーも涙をこぼしながら、強く頷いた。

「今度こそ、生きて一緒に帰るんだよ……三人で!」

 その言葉に、胸が焼けるほど熱くなった。
 オレは心の奥底では、どこかまだ『一人で死ぬしかない』と漠然と思ってた。

 でも今度は違う。

 今度は三人で、生きて帰れるんだ。
 それに二人の言葉──もしかしたら彼らには、経験していない筈の一度目の記憶が朧げにあるのかもしれない。

 血に濡れた手で、オレは二人の肩を掴むと痛む身体を叱咤して何とか立ち上がった。

「……頼む……オレと一緒に戦ってくれ。」
「「当たり前だ!」」

 二人の声は、戦場の轟音に負けないくらい強く響き渡った。

 そこからの記憶は断片的だ。
 三人で背中を預け合い、敵陣を突破した。
 カルムの剣が道を切り開き、サマリーの矢が戦場の仲間達を守り、俺は残る力を振り絞って敵を薙ぎ倒した。

 力尽き気を失う直前、瞳に映ったのは──何とか敵に勝利し、二人に支えられながら見た蒼く澄み渡った空だった。
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