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優しいカラスとクラスメイト
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教室には、千景くんが登校していた。
昨日、別れ際にネコ化した千景くん。
あれから姿が見えなかったけど、無事に人間に戻れたらしい。
今朝は制服を着て、何事もなく席に座っていた。
王子様のような柔らかい表情を、顔に貼り付けて。
「おはよー、千景くん」
「おはよう」
クラスの皆が、千景くんにあいさつしてる。
しかも、あんなにニコニコと。
あれ、おかしいな。
わたしには、王子様の着ぐるみを被った魔王にしか見えないよ?
「にしても、千景くん。
皆の前で、どうして王子様のフリをしてるんだろう……」
千景くんについて、また一つ、ナゾが増えた。
まぁでも、わたしには関係ないか。
スルー、スルー♪
そう思っていた――その時。
ガシッ
「小羽さん。少し話があるんだけど、いいかな?」
「はう!?」
千景くん!?
教室だから王子様バージョンでいるのかもしれないけど、それが逆に怖いよ! 笑顔に、ナゾの迫力!
怖すぎます!
「よ、用があるなら、こここ、ここで……」
「……」
すると千景くんは、ニコニコ笑いながら――皆に見えないように、ピッと二本の指を立てる。
あ、あれは……「滅」だ!
「滅」の構えだ!
もしかして千景くん、わたしを消そうとしてるの!?
怯えるわたしの耳に、千景くんは顔を近づける。
そして――
「お前の肩に乗ってるペットを祓われたくなければ、大人しくいう事を聞け」
「は、はひぃ……」
さすが千景くん。
なんでもお見通しだ。
「ふん。僕の姿が見えるとは、気に食わん小童だ」
「あぁ?」
「キキ、シッー!」
そう。千景くんの言う通り。
わたしの肩には、昨日出会ったキキが乗っている。
なぜ、一緒に過ごしているかというと――
実は、昨日の一件以来、キキはわたしを「主」と呼んで、離れなくなってしまった。
「主じゃないよ、違うよ」って、何度言っても納得しない。
だから今日も、仕方ないから一緒に登校してきた……というわけなのです。
「俺を”小童”呼ばわりか。フン、気に食わねぇ」
ゴキッと指を鳴らす千景くん。
まさか、「滅」をするために指の準備運動をしてるわけじゃないよね!?
怯えるわたしに、千景くんは再び顔を近づける。
そして笑顔のまま、さらに声を小さくした。
「クラスの奴らが怪しむから、早く行くぞ。ついてこい」
「キキを祓わないって約束してくれたら、ついていく……!」
わたしの言葉に、キキは「主……」と泣きそうになっていた。
それを見た千景くんが、「はぁ」とため息をつく。
「約束する。だから早く来い。いいな?」
「……う、うん」
意外。約束、してくれるんだ。
てっきり「何がなんでも祓う」って言うかと思ったのに。
「ありがとう、千景くん」
「ふん」
千景くんを、ちょっぴり見直した。
昨日も思ったけど、やっぱり千景くんは、怖いけど優しい人だ。
ガタッと椅子を引き、移動するため席をはなれる。
だけど……
「おい千景~。こわがりちゃんと何を話すんだよ?」
「私たちも、ついていこうか?」
「千景は昨日、こわがりちゃんに怖がられたんだろ?
二人きりで話してたら、またこわがってピーピー泣くんじゃね?」
「……」
「……」
あの、千景くん。
もう充分、みんなに怪しまれてます……。
だけど王子様バージョンの千景くんにかかれば、こんなピンチは、お茶の子さいさいなようで。
スッとわたしの前に立ち、みんなの視界からわたしを隠す。
「なんでもないよ。係の用があって、職員室に行くだけだから」
「そうなのか、大変だな」
「早く帰ってきてね~」
「いま……」
気のせい、かもしれないけど。
千景くん――皆から、わたしを庇ってくれたのかな?
◇
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