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No.31 尾ひれどころか翼も生えて

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公衆の面前で、恥ずかしい醜態を晒してしまった莉緒(アルスは全く気にしていない)は、慌てて仕事場に駆け込んだ。しかし、大きな街とはいえ日々の刺激に飢えていた人々(逞しい女性陣)の間で噂が広まるのは光の速さ並みに速かった。

「おっ、おはよう!リオちゃん、アルスの事を道の真ん中で踏み付けながら『お前は用無しだ』って言ったんだって?話によれば、毎晩アルスに自分の事「女王様って呼ばせてるんだってな?かーっ!最近の若い子は、ハードなプレイしてるな!これが若さか!」

宿の前で掃除をしていたダンテが、出勤して来た莉緒達を見た瞬間に言った言葉がこれだ。

(何でついさっきの事をダンテさんが知ってるの!?しかも、内容が事実と殆ど異なるんですけど…!)

確かに、人伝に伝わる話や噂などに多少の尾ひれが付くのは知っている。しかし、今回は尾ひれどころか翼も生えて飛躍していた。

「ち、違います!私そんな事してません!」
「そうですよ。それが事実ならどれ程嬉しいか…」
「アルスさんは黙って下さい!」

弱気な莉緒には珍しく、話をややこしくしそうなアルスをキッと睨み付ける。だが、その姿は小動物が一生懸命威嚇している様にしか見えない。そんなリオを見て、アルスは「可愛い…」と呟きリオをガン見する。そんなアルスに気付かずに、莉緒は必死にダンテの誤解を解く。

十分後ーー。

「何だ、殆どデマかよ。まぁ、最初に聞いた時は驚いたけどな」
「それなら、何で信じちゃったんです…?」

恨めしげにダンテを見れば、気不味そうに頬をかきながらダンテは話す。

「いや…リオちゃんてさ。ここで働き始めた頃、何処か凄く必死だっただろ?仕事の事もそうだが、なんていうか…こう、知らない場所で必死に自分の居場所を作ろうとしてる感じでさ。ずっと気を張ってる感じだったから、正直いつか限界が来て倒れちまわないかミラと心配してたんだ」

その言葉に、自分がどれだけ周囲の人に恵まれていたのか分かった。確かに、最初の頃は知らない世界で生きる事に必死になっていた。なんの常識も知らない、見るからに怪しい莉緒を笑顔で迎え入れてくれたミラ達。そんな彼等に心配させてしまっていた事に対する申し訳なさと、ちゃんと自分見ていてくれた事への喜びが湧き上がる。

「だからさっき噂を聞いて酷く驚いたが、リオちゃんはアルスとのハードなプレイで心を開放してると勘違いしちまったんだ。ごめんな!」

その言葉に、先程までのダンテに対する申し訳なさが半減した。

(だからって、私がそんな事してると何で信じたんですか…!)

それなりに長い付き合いなのにと、莉緒はかなり悲しくなった。その時だった。

「ちょっと!アルス様を足蹴にして、奴隷の様に扱った挙句!アルス様に足を舐めさせたんですって!?」

怒り心頭で、今にも莉緒には飛びかからんばかりにやって来たティナ。その背後には、眉間に軽く皺を寄せたダグラスがいた。

「ご、誤解です…!」

先程よりもさらに酷い内容に、莉緒は必死に否定の声を上げるのであった。



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