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No.84

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「ーーでね?もしも、この世界が何かの乙女ゲームの世界だったら、やっぱりサーシャはヒロインだと思うの!」
「そう、かしら…」

自分が乙女ゲームのヒロイン?
健気で、正義に満ち溢れ、明るく優しい女の子?

(………いや、絶対に無いな)

ヒロインとは、目の前のティミアの様な子の事を言うのだ。逆に、サーシャはどちからと言えば悪役令嬢の方だと思う。

仮に、サーシャが悪役令嬢では無くゲームのヒロインだったらーー。

(前世が極妻のヒロインなんて、一体誰得ですか?)

その様なヒロインを好むのは、一部の人とは趣味が違う極少数の人間だけだろう。間違っても、サーシャは絶対にそんなヒロインは嫌だ。

「私は、ヒロインっていうより悪役令嬢よ。ヒロインは、ティミアの方だと私は思うわ」
「えっ!?私なんて、ヒロインにすらなれないよ!私は、よくてモブかサポートキャラだよ。第一、太ってるヒロインなんて聞いた事ないし…」

ティミアの言葉に、サーシャは首を傾げる。

「そうかしら?最初は太ってるけど、大きくなって痩せてモテるってのもありそうだけど。ーーそれに、今のティミアは少しポッチャリしてるけど太ってると言う程でもないわ」
「サーシャの教えてくれたトレーニングメニューのお陰だよ!お父様も、とても褒めてたわ。毎朝、お父様とお兄様と三人でトレーニングメニューしてるのよ」

それは初耳である。

「こ、公爵様と?」

あの幾多の死線を潜り抜けてきた歴戦の戦士の様な見た目の公爵ジルロが、腰を捻ったり、某アイドルの可愛らしいダンスを参考にした動きを?

(何それ、本気で気になる)

「うん!三人で一緒にやり始めてから、身体の調子が良くて。それに、お兄様も最近筋肉が付き始めたの」
「それは良かったわ」

一度だけ見た、ティミアの兄を思い浮かべる。
どちらかと言うと、母親に似たのだろう。大人しげで優しげな風貌の線の細い少年だった。

「そうだ!今度、また家に遊びにこない?お父様達も一緒になるけど、運動しない?」
「是非、伺わせてもらうわ」

そうして、トールディン家への訪問の約束をしていると、母ミランダが二人に近付いて来た。

「小さなお姫様達。こんな壁際で、何を楽しそうにお話ししているの?」
「お母様」
「私も会話に混ぜて下さらない?」
「勿論です!」
「ありがとう」

楽しそうにティミアと話していたミランダが、チラリとサーシャに目配せをしてから会場に目を向ける。その視線を辿ると、其処にはサーシャ達と同年代位の男の子が父親と共にいたのだった。
















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