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悪役令嬢だって心変わりできるんです!③

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「エマ!」

「は、はいっ?どうしましたか?」

「聞いて欲しいことがあるの!そ、相談にのってくれないかしら?」


 言ってしまったぁ…と、思いつつも後悔はなく、私は頷いてくれたエマに自分のことを話した。そして、今、自分がどう思っているのかも話す。


「トール様ってそんな方だったのね。何だかがっかりね。」

「がっかり?」


 そんな要素あったかしら?少なくとも私はがっかりはしていない。


「ええ、だってトール様に憧れる女の子は少なくないはずよ。それなのに、その憧れている女の子たちに手を出した方が酷いと思うの。ルイスはシルフィーナばかり悪く言うけど、本当に悪いのは彼女をその気にさせているトール様だと思うわ。」

「確かに言われてみれば…そうね。」


 何だか人に言われると妙に納得できるのが、不思議だ。


「でも、ルイス?貴女、トール様の事、本当に好き?」

「えっ?」

「何かルイスの話を聞いてると、そう感じないの。えっと…何て言うかドキドキしない?というのがしっくり来るわ。普通、女性同士の恋の話ってドキドキするのだけど、ルイスとトール様の話はそういうのがないのよねぇ...。」


 言われて私は悩む。婚約した頃は私自身ドキドキしていたし、お顔を見れれば心が踊っていた。だけど、それは妃教育が始まり徐々にその気持ちはなくなっていった。正確には感情を押し殺しているうちに、何も感じなくなっていた。


「まぁ、それは良いとして…婚約解消のサインはどうするの?」

「うーん。書くこと自体が面倒になってる。」

「もう、トール様に未練はないのでしょう?それなら、サインしちゃえば良いんじゃない?」

「でも家が…」

「他にあてはないの?」

「うーん…」

「それなら、リュカさんに相談してみたらどうかしら?色々な情報に詳しいみたいだし、話を聞いてくれると思うのだけど…?」

「えっ?」


 名前を出されて私はドキリとする。別にやましいことがあるわけでもないのに、動揺している自分がいた。


「ふーん、そう言うこと…」

「えっ?どういうこと?」

「ルイスって見てて分かりやすいわね。」


 言われて私は自分の頬を押さえる。

 顔に出てたかしら?


「フフ、ルイス可愛いね。」

「えっ?どこが?」

「もっと古きを良きとする、保守派の堅い人だと思っていたのだけど、表情豊かで見ていて飽きないわ。」

「それ、誉めてるの?」

「もちろん。」


 ニコリと笑うエマは屈託のない笑顔だった。だけど、すぐにしゅんとその笑顔は消えてしまう。


「ルイス、ごめんなさい。」

「なんで、エマが謝るの?」


 エマの声に彼女を見ると、浮かない表情をしていた。


「私では役に立たなさそうで…それに、ルイスがこんなに悩んでいたのに、気付いて上げられなくて…」

「い、良いのよ。解決できない自分が悪いのだし。」


 私が苦笑いすると、エマは首をかしげる。


「そんなことないよ。自分で解決出来ない悩みなんて、たくさんあるんだから。それをいちいち、自分のせいにしていたら、窮屈じゃない?」

「窮屈?」

「そう…胸がモヤモヤしたり生きることに疲れたりするようなイメージ。と、言ったら伝わるかな?」

「ええ。…でも…じゃあ、どうしたら良いのかしら?」


 私の言葉にエマはクスリと笑う。


「そんなの簡単よ。自分の気持ちのままに動けば良いの。周りなんて気にしないで、言いたいことを言うの。」

「自分の気持ちのまま…」


 楽しそうにニコニコと笑って見せるエマには、恐らく私の本当の気持ちが分かるのだろうなと考えたら、何だか笑えてくる。


「ありがとう!何だか気持ちが軽くなったわ。」

「気にしないで、私も嬉しいの。」

「え?」

「ルイスが私を頼って、相談してくれたのだもの。こんなに嬉しいことはないわ。」

「そ、そんなに?」

「ええ。」


 そう言って笑うエマは、本当に可愛かった。


「あら、もうこんな時間。ルイスといると時間があっという間に過ぎてしまうわね。」

「私もよ。エマといると楽しくて、時間なんてあっという間に過ぎるの。」


 そう言って、二人で笑った。

 別れ際に頑張って!と、応援までされてしまった。友がこんなにも背中を押してくれるものだと私は知らなかった。格下なら守って上げなきゃ。と思うことはあっても、相談をすることなど前の私なら考えられなかっただろう。こんなにも心強い友が出来たのだ。私も頑張らないと、と思う。



 私は家に帰ってすぐに自分の部屋へと戻る。ドキドキする胸を押さえて、呪文を唱えた。


『リュカ。最近、全然来てくれないのね。あ、あのね…リュカに相談したいことと…そ、それと伝えたいことがあって、聞いて欲しいの。だから、明日の夕方、図書室で待っているわ。』


 話し終わると、私はこの声をリュカへと届けるための魔法を唱える。前のとは違い、会話が出来るものではない。それは、リュカと直接話をする勇気が私になかったからだ。


 もしかしたら、彼は来てくれないかもしれない。そんな悪いことばかりが頭を過ってしまい、気付けば私は一睡もできずに朝を迎えていた。
 その日、私は気が気ではなくて、授業も頭に入って来なかった。授業がいつもより短い気がして、あっという間に夕方になってしまう。

 私は最後にエマにエールをもらおうと、教室を見渡すが見当たらない。朝はいたし、昼も一緒にご飯を食べていた。ただ、その後は頭が一杯で、いつからいなくなっていたのかは、分からなかった。何だか胸騒ぎがして、エマが大切にしている本につけたという追跡魔法を使って、エマの行方を探してみる。すると、どうやら、教室の一室にいるようだとわかり、すぐにそこへと向かった。

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