意地っ張りの片想い

紅と碧湖

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10.寮祭、そして

155.寮祭始末

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 寮祭は無事終わり、それぞれワイワイと後片付けしてる感じは和やかで、みんな楽しそう。
 けど姉崎は不満そうだったな。まあいつも通り笑ってたけど、すぐ消えて出てこなかったから。
 そんで俺は、寮祭打ち上げの後、339で二人きりになったタイミングで……自分からキスした。
 目を見開いて固まってる丹生田に抱きついて、好きなだけ触りまくってたら、がっしり肩つかまれ、グイッと離された。
「え」
 やっぱダメ? 勘違いするなって怒った?
 なんて一瞬目の前真っ黒な感じでキョドってたら「ここは」と荒い息と共に聞こえた低い声にハッと見上げる。気分はちょい泣きそうだったけど、丹生田は鋭い目でこっち見てて噛みしめるように、「……ここ」また低い声を出して目を閉じ、首を振った。
「……部屋はやめろ」
 怒ってるって顔じゃねえ。必死にガマンしてる顔。んじゃだいじょぶってコト? 
「……どゆこと?」
 ちょいホッとしつつ、ギュッと目を閉じたままの丹生田に問いかける。
「今、加減ができない」
「えっ」
「ココはシャワーも無い。声も、音も、みんなに聞こえる」
「……っ、……あ、うん、そだな」
 つか俺キスしただけだよ? いきなりエッチしようとか思ってねえよ! つか触りまくったけど、そこまで考えてねーっつの! でもまあ、そっか。丹生田的に恋人じゃ無くてセフレなんだから、キスしたらエッチに直行すんだよな。うん、つまりキスだけなんてねえ話、てことか。
 顔あっつくなりながら、「……うん」つって、ちょいビビったてか。……が、しかし!
 俺は開き直ったのだ!
「てか、……うっせーつの!」
 セフレで良い! けど俺だって!
「キスしたいときにすんぞ俺は。大好きなんだからな」
「…………」
「触りたいときに触るし、キスだっていっぱいすんぞ。俺にもそんくらいのメリット寄越せ」
 ニカッと笑ってやる。
 そう、もうヘンな遠慮しねえ。そう決めた。
 だって触りてーもん。キスだってしてーもん。大好きだもん。
「俺だって色々してーんだよ!」
 丹生田の顎がまた膨らんで、ぐうう、と喉から音が漏れ
「………………分かった」
 つったのと同時、痛いくらい抱きしめられてた。ホント比喩じゃねくてマジで痛いやつ!
「イタたたたっ!」
 チカラ籠もりすぎだっつの痛えっつの!
 けど大声上げたらすぐに力は緩んで、「す、すまん」オロオロしてる声が聞こえたから許してやる。
「おまえちっとは力加減しろ! 骨折れたらどーしてくれんだよっ!」
 マジでミシッとか言ったような気したんだって!
「すまん」
「次から気をつけろよ!」
 ニカッと笑ってやると、あからさまにホッとした顔の丹生田は「便所へ行ってくる」とすぐ出てった。
 え~? まさかコレから抜いてくるとか、そゆこと? ちょいちょい、おまえなんだよ、なんなんだよ、滾りすぎなんじゃね?
 なんて思いつつ、ちょい清々しい気分でニヤニヤする。
 やっぱ可愛いな~~。コレからもあんなの一番そばで見れんだ。そんだけで結構幸せだしイイじゃん。
 そんでおもむろに部屋出て、副会長室のドア開けた。
 散らかりまくった床踏んで進むと、PCに向かってなんかやってる背中。姉崎だ。
 こいつ後始末もしてねえし打ち上げにも来なかった。自分で言い出した寮祭だろ? 副会長としてソレどうなの? なわけだ。
 だから後ろからグーでバコンと殴る。
「痛っ!」
 瞬速で振り向いた顔は笑ってなかった。
 それどころか敵意満々の目で睨んで来やがる。だから「アホ!」怒鳴りつけた。
「好き勝手もいい加減にしろよ! おまえいねえから反省会もできねえんだぞ!」
「……反省会?」
 ふっとバカにしたみたいに鼻で笑った。
「なにもかもダメだった。いっそ寮祭をやったってこと自体が間違いだった。それでイイんじゃない? 本当に期待を裏切ってくれるよねみんな。ここまでで出来ないとは思わなかっ……」
「ホントにアホだな」
 こっちもヘラヘラ笑ってやる。
「成功したじゃん。ちょい黒字になったし、みんな片付けしてるときも楽しそうだったし、ツレ寮に呼んだ連中も良かったって言ってたぞ。そういうの聞いてねえだろおまえ」
 姉崎は椅子に座って半身コッチ向けたまま睨み付けてる。つうか笑ってねーと目力強すぎだろ。なんだその妙な迫力は。
 つかフツーに考えて、コッチが被害受けてんだろ。なのになんでンな偉そうなんだよ。
 ムカッとしたから、またグーで頭殴る。したら顔は下向いた。
「寮祭は成功したっつの。むしろぜってー赤字だってみんな覚悟してたから、驚きの結果だっつの」
 顔を伏せたまま、姉崎はピクリとも動かない。
「やって良かったよ、寮祭。つうわけで今日夜十時から集会室で反省会やるからな! ぜってー来いよおまえ!」
「……集会室?」
 今までこういう会議は執行部室に各部アタマと執行部が集まってやってた。けど今回は違う。
「そーだよ。初めてやったことなんだから、一人でも多くの意見欲しいだろ。執行部とかアタマだけじゃ偏っちまうかもだしな。集会室キレイになったし、ちょい黒字出たからレンタルのパイプ椅子、購入したいってのもあるし」
 壊れたのをなんとか補修して使ってる、つうパイプ椅子がシャレになんねえくらいいっぱいあって、毎年のオリエンテーションとか総会なんかのとき、設置や片付けも慣れてない奴がやった椅子が崩壊したりしてたんだよな。
 でも今回、客入れるのにマズイだろってんで、パイプ椅子もレンタルで借りた。ちょい木目調でカッコイイやつ。
「コレ良いよなあ。うちもこういうの買うかぁ」
 とか、片付けンとき言ってたら、レンタル業者のおっちゃんが「販売もしますよ」なんて言ったのだ。
「いくつくらい欲しいんですか」
「四十個くらいあったらいいかな。あ~でも五十あったら助かるんすけど」
 今回は食堂でも使ったし、他にもあっちこっちで使うんで、予備含め全部で七十借りてた。
「このタイプで良いなら在庫もあるし、五十お分け出来ますよ」
「マジスか!」
「んでもお高いんでしょう~?」
 宇梶が横からくち出して来て、うまいこと値切ってくれたんだけど、さすがに即決難しいってんで明日連絡することになってる。なんで五十個のパイプ椅子は集会室にそのまんま置いてあるんだ。買わないことに決まったら、責任持って俺らがキレイにして返しに行くってコトで了解もらってる。
 でもまあ、そういうのコイツ一切見てねーし、なんか失敗だって決めつけてるし、憎ったらしいし。
「反省会のとき言い出しっぺいねーと、誰に文句言うかみんな迷うだろ。ちゃんと来て、吊し上げられろよな」
 だからわざと言ってやった。
 頭下げたまま、姉崎はフウッと大袈裟なため息ついた。
「…………了解。行くよ」
「おう、十時だぞ。遅れるなよ」
 そんで最後にもう一発アタマグーで殴る。
「……いった~……なんなの?」
「こないだのお返しだ、ばーか」
 アタマ下げたままの姉崎に言ってやってから部屋に戻る。したら丹生田が心配そうにしてた。
「…………」
 あ~、どこに行ってたか気になってんだ~と思い「姉崎殴ってきた」と言ったら目を丸くして、それからふっと目を細めて笑った。
「なにか言ってたか」
「なーんも。あいつ負けず嫌いだかんな。マジ面倒くせえやつだよな」
 目を細めたまま頷いた丹生田は、なにも言わずに近づいてきて
「……え」
 柔らかく抱きしめられた。
「さすがは藤枝だ」
 なんて言って髪撫でたり背中撫でたりしてる。
 なんか分っかんねえけど、嬉しくなって「へへっ」と笑ってしまったのだった。



 反省会は、超絶盛り上がった。
「楽しかったなあ!」
「ツレと部屋でだべったりとかできたし」
「うまかったし」
「激辛うどんは、もう伝統にしちまおうぜ」
「ラテアートとパンケーキに、ガレットもオススメするとけっこうイケた」
「オシャレ好きな女子と、お母さん世代とじゃ好きなの違うかと思ったけど、以外にもおんなじだったな」
「マッサージはイマイチだったかもなあ」
「宣伝の問題じゃね?」
「集会室、イマイチ使ってもらえなかったし、分かりやすい表示板とか置いた方が良かったかもな」
「荷物預かり、無料でやってたけど、引き取りに来た人が殆どみんな飲み物頼んで休んでたから、セット料金とか良いかも」
「おお、ソレいいな!」
「セットと預かりだけど選べるようにするとか」
「なるほど~」
 なんて感じで来年もやるの決定した感じでくちぐちに意見が出た。
「聞いてくれ! 俺、カナちゃんに告った!」
「速攻フラれてたじゃん」
「違う! 考えさせてって言われたんだ!」
「おい、そういう告白大会じゃねえぞ」
「つか黒字出たってマジで? 時給出たのに?」
「すっげえな俺ら!」
「最初どうなるかと思ったけど、やって良かったな!」
 吊し上げられる覚悟で来たらしい姉崎はポカーンとしてて、こうなるのが読めてた俺達は、それをニヤニヤ見てたのだった。
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