君の小水が飲みたい

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3、オレの名前はリック

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 オレを住み込みで雇ってくれたのは《クロネコ亭》の女将さん、フッラさんだった。
 フッラさんの旦那さんは店の亭主で料理人(?)のグラさん。
 グラさんの作る料理は絶品で、オレの胃袋はグラさんにガッチリと掴まれている。

「リック! 店の掃除はイイから、朝ごはんを食べてしまいな!」

「はーい! フッラさん。今行きまーす!」


 オレの名前は、上田 陸。ここではリックと呼んで貰っている。
 フッラさんに名前を聞かれて、『《リクウエダ》です』 とこたえたら、

『まあ、立派な名前だねぇ! でも《リックフェーダー》だと長いから《リック》で良いかい?」

 そう言われて了承した。
 家名があるのは、貴族だけらしい。やばかった。
 平民のオレがややこしい事になるのは嫌なので、もうフルネームを名乗るのは止める。
 
「いただきます!」

 今日の賄いメニューは何と《焼肉定食》だった。
 肉は……。
 さすが異世界。牛や、豚じゃなく、オークの肉だ。
 味はまあ、美味いからイイか。
 
 オレがこの世界へ来た時に見たのは《スレイプニル》という八本足の馬だった。
 乗っていたオーディン様の愛馬で、グラニと言う名前の軍馬だって。
 普通の馬じゃ騎士団がトップスピードで走らせてる時、止まれないし、そもそも彼らは止まる気もないから。
 遠征帰りの通り道になんて出る者は当然いないよな。
 オレってば、すっげえ危なかったんだ。
 だってあの時が正に騎士達が遠征から帰って来てて、オーディン様が先導で走ってた。
 でもグラニの足が早過ぎて後続がついて来れなかったんだけど。
 あのままだと後続の軍馬達に、踏み潰されていたかも知れなかったらしい。
 恫喝で済んだのはグラニと騎乗していた団長、オーディン様のおかげだって。
 見ていて肝を冷やした女将のフッラさんに教えて貰った。

 フッラさんが何でこれほどオーディン様に詳しいのかを教えて貰った。
 昔、オーディン様のお母さん、ベストラ様の侍女をしていて、オーディン様のお世話もしてたんだって。
 だから《クロネコ亭》に、オーディン様が来られるんだそうだ。
 フッラさんスゲー。

『大した事無いよう、ただの履物係だったのさ~』

 って言ってたけど、絶対それだけじゃ無いはず。
 だって、オーディン様、何時もお酒しか飲まないもん。
 グラさんの料理、美味しいのに。
 食べないんだ。つまり、フッラさんだけが目当てだろ?!
 初恋とかだったりして?
 ぐふっ。
 可愛いじゃん。

「ハア、あの耳とか、しっぽ、モフりてえ~」

 グラさんとフッラさんは無理だろうし。
 二人(?)に子供でも出来たら、絶対お世話させて貰おう!
 ああ! どっかにモフモフ落ちてねえかなあ。

「ねえ、フッラさん。オーディン様のグラニを撫でたら怒られるかなあ?」

「今度聞いといてやるよ。世話係のコモンさんにさ」

「うん。ありがとう」

 そうか、世話係が居るんだ。
 オレもなれるかな? 世話係。
 動物好きなんだけど。
 ここで、お手伝いさせて貰ってるけど、ホントに《子供の手伝い》なんだよな。
 これじゃあ、《給料》じゃなく、《お駄賃》とか、下手すると《お小遣》になってしまう。
 ただの居候じゃん!
 働いてねえ! これじゃダメだろう?!

「ねえフッラさん、コモンさんに求人無いかも聞いて貰える?」

「なんだい? 世話係になりたいのかい?」

「うん。ここのお手伝い、あんまり無いし、オレ動物好きなんだ。お願い出来ないかな?」

「そうだねえ。リック、鳥も好きかい?」

「はい! タマゴを孵して雛から育てたことあります!」

 ニワトリのひよこはスゲー可愛いかった。
 急に『ヒヨヒヨ』から『コケー!』って言い出して驚いたけど。

「じゃあ、レイグンマスターになるのも良いんじゃ無いかい? きっとオーディン様が雇ってくれるさ」

「レイグンマスター? 何ですか? レイグンって?」

「オーディン様んとこの大烏さ。フギンとムニン。お世話、出来そうかい?」

「大烏? 烏も、ケガしていたのを保護していたことがありますから、お世話出来ます」

「じゃあ、オーディン様とコモンさん、二人に聞いといてやるよ!」

「は、はい! お願いします!」

 よし! 今度こそ、《仕事》をゲットするぜ!



 
 
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