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番外編など
恋人になる前の。子供たちも一緒ですが、もしかしてデートでしょうか。
しおりを挟むはしゃいだ子供たちの声に目を細めながら風に揺らされる髪を押さえます。
今日は暖かく気持ちの良い天気ですが、山間だからか時折強めの風が吹いて、温まった肌をほどよく冷やしていきます。
開けた緑の大地と遠くに見える山々は青く、とても美しい。
田舎と言われることもありますが、私は生まれ育ったこの地が好きです。
リオンとルイスものびのびと暮らしていますし、実家に戻ってきたことは良かったのでしょう。
今も一通り走り回ってきたかと思えば木に登り始めました。
器用に登っていく姿を見守っているとあっという間に私の頭より高い枝に登ってしまいました。すごいですね。
お母様もおいでよと誘われますが、どうしましょう。流石に木登りはしたことがありません。
走り回ったり草むらに寝転んだりなどは子供の頃にはしましたが。
水魔法の応用で階段を作れば近くまではいけるかも?
ですが枝にはすでにリオンとルイスが座っているので私が入る場所がないように見えます。
悩んでいる私にイクスさんが声をかけました、あの枝は子供の体重を支えるのがやっとだから止めておいた方が良いと。
あちらの木の方が頑丈なので、もしどうしても登りたいのならお手伝いしますよと微笑まれて頬が熱くなります。
木登りするかを悩むなんて、少しはしたなかったでしょうか。
でも、イクスさんは気にしないかもしれませんね。
どうしても木登りをしたいわけではないので遠慮しておきました。
てっぺんまで登って気が済んだのか、リオンが飛び降りるから受け止めてとイクスさんにねだっています。
イクスさんも笑って危ないから順番にと二人に声をかけています。
とうっと掛け声をかけ飛び降りたリオンを難なく受け止め、優しく降ろすイクスさんに心の中で賞賛を送りました。
飛び降りたというより枝から上に飛び上がったリオンは思いのほか飛距離がありました。
私や屋敷の者では受け止められなかったでしょう。
あんな動きに対応できるなんてさすがは冒険者です。すごいですね。
私には予想外の動きでしたが、イクスさんは驚くこともなく降ろしたリオンに少し離れているよう促してルイスに声を掛けました。
次いでルイスが足に力を籠めます。
「……!」
思わず息を飲みました。
リオンと同じように飛び上がったルイスは空中で一回転してイクスさんの腕の中に飛び込みました。
あんな変則的な動きをしたルイスもイクスさんは危なげなく受け止めています。
今のカッコいい!次私もやる!と興奮しているリオンへ得意げな笑みを浮かべるルイス。
心臓に悪いです。
イクスさんなら大丈夫かもしれませんけれど二人にはちゃんと言っておかないといけませんね。
私も兄も、屋敷の誰も今みたいな動きをされたら受け止められないからイクスさんがいる時しかしてはいけませんよと。
いえ、てっぺんから飛び降りてきただけでも一緒に潰れるかもしれません。
わかってるもんと頬を膨らませるリオンと、イクスならできると思ってと眉を下げたルイスにそれでもよと諭す。
言っておかないとそのうち助走とかつけて同じことをしそうで心配です。
せめてやる前に一言教えてくれたらこちらとしては心の準備ができるのですが。
それはこちらの勝手でしょうね。あまりに危ないことならイクスさんも注意をしてくれるので、今のは冒険者のような身体能力がある人にとっては危険でもなんでもないことなんでしょう。
私もあらかじめ準備をしておけば受け止めるくらいはできるでしょうけれど、今みたいに突然だと反応できません。
イクスさんへお礼を言うとこちらこそ驚かせてすみませんと謝られてしまいました。イクスさんが謝ることはないと首を振ります。
二人がのびのび遊べるのはイクスさんのおかげですから。
私たちだけではこうも自由にはさせてあげられません。
多少の制限があった方が安心ではありますし、子供たちも知恵を働かせてまた別の楽しみを見つけてはいますが。
貴方がいてくれて良かったですと伝えると、目を丸くした後ふわりと笑います。
うれしそうな愛おしそうな微笑みを向けられて心臓がぎゅっと掴まれたような心地になりました。
告白を受けてからイクスさんはこんな表情を隠さなくなりました。
真っ直ぐに向けられる愛情にまだ戸惑いはありますが、うれしいと感じるのも確かなのです。
イクスさんの微笑みを見つめていると裾が引かれてリオンとルイスがお腹空いたと言い始めました。
あれだけ動けば無理もないですね。
時間も丁度良いことですしお昼にしましょうかと伝えるとイクスさんが少しだけ残念な表情を見せました。その顔にまた小さく胸がきゅぅと締め付けられたのは内緒です。
昼食を食べたら眠くなったのか、子供たちは私のひざの上で寝てしまいました。
右側にルイス、左側にリオンがそれぞれスカートを握りしめながら寝息を立てています。
愛らしい寝顔に口元が緩みます。こんなに可愛く愛しい存在を他に知りません。
髪を撫でていると向かいに座ったイクスさんから密やかな笑い声が聞こえました。
どうしたのかと顔を上げると優しい茶色の瞳がこちらを見ています。
「すみません、あまりにも愛らしかったもので」
子供たちを起こさないようにか潜められた声にこちらも小さく笑みを返します。
「ええ、本当に」
やわらかな頬をつつくとむにむにと口を動かしてまた寝息を立てます。
何かを食べている夢でも見ているんでしょうか。
本当に可愛らしく、愛おしい。
「足がつらかったら言ってください」
子供たちの重みで足が痺れはしないかと気を使ってくれるイクスさんは本当に優しい方ですね。
「まだ大丈夫です。
それよりイクスさんは退屈ではないですか?」
私は穏やかな時間が嫌いではないですが、いつも子供たちと付き合って動いているイクスさんへ退屈はしていないか聞いてみます。
「いいえ、普段はこのようにのんびり過ごす時間はありませんから、とても心地よく過ごしていますよ」
移動を繰り返す冒険中は中々こんな時間は取れないそうです。
イクスさんの息抜きにもなっているのならうれしいですね。
しばらく普段の過ごし方などを話しているとふいに沈黙が落ちました。
お互いの間には無理に言葉を探さなくても心地よい空気が流れています。
穏やかな時間に身を委ねていると、さあっと風が吹いて近くの木を揺らしました。
「あ」
視線を上げたイクスさんにつられて空を見上げると白い花びらが風に乗って舞うのが目に入りました。
青い空の下、ひらりひらりと舞い落ちる花びらはとても綺麗で、言葉もなく見惚れていました。
最後の一枚が大地に落ち、ほうっと息を吐きます。
きれいでしたねと言おうとして、口元に手を当て浮かんだ笑みを隠します。
同じように風のいたずらに見惚れていたイクスさんを手招きすると何も言わず近寄ってくれました。
ゆっくりと手を伸ばして頭に乗っかった花弁を指先で摘まみ取ります。
指先に触れた、思ったよりもやわらかな髪の感触に頬が緩みます。
降ろした指先に摘ままれた花弁を見て照れくさそうに笑うイクスさんに、また胸がきゅっと鳴ったように思います。
花びらを地面に落として顔を上げるとまだ近くにイクスさんの顔がありました。
手が届く距離なのですから当然なのですが近いです。
イクスさんがわずかに身を屈め、その大きな手を伸ばしました。
瞬きもできずに挙動を見守っていると髪に触れる感触がし、身を引いたイクスさんの手には小さな花弁が。
背に降ろした髪についていた花びらを取ってくれたようです。
お返しのように花びらを取ってくれたお礼を言おうと開きかけた唇が止まります。
イクスさんは指に挟んだ白い花弁を口元に近づけ、そのまま花弁に口づけました。
笑んだ口元はそのままに、ちらりとこちらへ向けた視線。
色気を含む流し目に言葉を失い羞恥に震えます。
顔が燃えるように熱くて、どうしたらいいかわかりません。
硬直しているとくす、と笑う声が聞こえました。
「ごめん、貴女があまりに愛らしいから」
勝手に触れはしないからこれくらいは許してくれと囁かれてまだ言葉を発せない唇を震わせます。
「それとも嫌だったかな?」
少しだけ眉を下げたイクスさんは不安そうに見える。
ひたすらに恥ずかしいけれど、嫌ではありませんでした。
「とても恥ずかしいのですが……」
嫌ではないです、と小さく告げるとイクスさんが口元を覆う。
隠された口元がうれしそうに緩んでいるのと、ほんの僅かだけ赤い耳がイクスさんの気持ちを伝えてくれます。
いたたまれなくて身じろぐとルイスの目がゆっくりと開きました。
お昼寝は終わりですね。リオンもまぶたを震わせて目覚めの兆候を見せています。
風も少し冷たくなってきましたし、そろそろ帰る頃合いでしょうか。
イクスさんを見つめるといつもの顔に戻っています。先ほどまでの甘さが香るような空気が消えて少しだけほっとしました。
子供たちの目が覚めたらまた元気いっぱいに活動し始めるでしょう。
今日のことをたくさん話しながら帰ることになりそうです。
肩を叩いてリオンを起こしていると先に目を覚ましたルイスが帰る前にもう一回木登りをするとイクスさんにねだっていました。
子供たちが起きてくれてよかったと思います。
先ほどの甘さがまだ胸に残る中、馬車に二人は気まずいのです。
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