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序章 二番目の人と
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しおりを挟むーーー11年前。
エスティ商社という会社の秘書として、わたし水野汐莉は、働き出して一年目となる。
26才。夢に溢れる年!
というわけではなく、ただ結婚して寿退社できたらなぁー、という夢を持っている。
いつもルポを取って、社長と会議をしている平林俊秀さん。
有限会社で物作りの人。社員は10人はいるそうだ。
熱意あって、毎日のように話し合い。
いつも一時間なのだが、社長が自ら話を聞いているので、よっぽど興味ある商品なのだろう。
だけど、いつまでたっても、いい返事が貰えずにとぼとぼ帰る毎日。
湯呑みを下げながら、
「今日も熱心でしたね」
と、話す。
「あと少しなんだが、なかなかあれじゃいかんよ」
と、坪井社長が呟く。50代でロマンスグレー。
「なんの商品を売り込んでいるんですか?」
「美容器具だよ」
坪井社長はパッケージに入った、顔をスリムにするマッサージ器を取り出す。
「あ、きれいな色」
エメラルドグリーンで、パステルカラー
「そうなんだが、マッサージ器って色ではない」
「確かにそうですね」
「スライム色だろう」
「あははっ」
わたしはついうっかり声に出して笑ってしまう。思わず口を閉じた。社長秘書らしくない笑いだ。
「まぁ......。そこが君のいいところなんだけどね。仕事の時はしっかりやってくれている。プロって感じだ」
「は、はぁ」
わたしは苦笑した。
「そこで、君に相談があるんだ」
「え? わたしにですか?」
「平林君に近付いて、相談役にならないかね。わたし直接口を挟むわけにはいかないから。色をね」
「はぁ.....。どうやってです?」
「よく行くカフェがあるらしいんだ。偶然を装おって近づくとか」
「そんな探偵みたいな事、できませんよ」
「大丈夫、君のような美貌とまではいかないけど、目を引かない男性などいないから」
はははっ、と、笑う坪井社長。
......それって、セクハラですよね?
それに美貌とまではいかないって、どうゆう事ですか?
なんて有名などなたかの常套句を変えて言いそうになったけど堪える。
坪井社長はメモに書いて、わたしに渡した。
「平林君がよく行く場所」
「はぁ......」
社長はニコニコして、軽く肩を叩いた。
仕事帰り、わたしはそのカフェによってみると、ダルそうにネクタイを外して、カバンへ詰め込む仕草が、なんかワイルド。
あれ? 見た目と違う?
「あー、どうすれば納得して貰えるかなぁ」
と、ぶつくさ。
物作りな会社で、見た目が優男だから、違う雰囲気を見て、ドキッとした。
確かに熱意あると、彼の雰囲気は変わる。
うーん。
付き合うと大変なタイプかもね。
何を言ってるの、わたし。
「あれ? 水野さん?」
「ふぁい?!」
平林さんに声を掛けられてしまい、つい、秘書らしくない対応をしてしまって恥ずかしくなる。
くすくすされたんですけど......。
平林さんがやってきて、
「何を飲みますか?」
と、聞いてきた。
「えと、ブルーマウンテンですかね」
「へぇ、リッチ。すみません、ブルマン一つ下さい」
財布からお金を出した。
「大丈夫ですから」
わたしは慌てて財布を出すと、
「いいですって、僕を立てて」
そう言われると。
「ああー、すみません」
わたしは頭を下げる。
「どういたしまして」
平林さんはトレーを自分の席へ持って行き、相向かいへと置いた。
ぐいぐい進んで行くんだけど、この方。
......優男撤回。
「どうぞ、こちらへ」
「ありがとうございます。頂きます」
わたしはコーヒーの香りを嗅いでから、一口飲む。
美味しい。
仕事終わりのコーヒーって、格別。
ふと、平林さんを見ると、微笑んでいた。
なんだか、キュン、と、なる。
「なかなか社長の許しが出なくて困ってるんですよねーーーー」
「あの美容器具ですか?」
「そう、なんか言われていませんか」
早い! 迅速な対応!
「色らしいですよ」
「色?!」
平林さんは鞄から、例の商品を取り出した。
「この色?!」
すると、ママ友らしき子どもちゃんの声で、
「ママー、あれスライムだよねー。欲しい」
なんて声が上がる。
ママ友たちがそれを宥めていた。
「子どものおもちゃに見えるのか?! くっそーーーー!」
わたしはその声にビクリとなる。
「ああ、すみません! 声を出してしまって」
「い、いいえ」
「あー、野郎ばかりだから、その繊細さが分からないのか......」
「そうなのですか」
「いや、野郎ばかり、は、ちょっと違いますか。繊細な人もいますからね。たまたまいなかっただけですね。僕もそうです」
平林さんは苦笑。ちゃんと否を認める方なんだ。
「だけどよかった。水野さんに会えて」
「そんな」
「こうとなれば、失礼します!」
平林さんは立ち上がった。
「えっ?」
「作り直してきます。コストは掛かるけど、まぁ一週間くらい?」
「はぁ」
「さようなら」
平林さんは挨拶をして、カフェから急ぎ足へ去って行った。
忙しい人。
それが彼への第一印象だった。
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