13 / 78
#1:入学前夜~出会い
#1-9.髪に魔力は宿るもの……らしいです
しおりを挟む
「…………だ、誰?」
長いストレートの黒髪がサラリと流れマリナの顔にかかる。
覗き込んでくる切れ長の瞳はマリナと同じ薄紫で、こうやって隣に座っていても背が高く脚が長い……極めつけは胡散臭そうなこの笑顔……。
「もしかして……お兄様?」
「ピンポーン、大当たりぃ~さすが我が妹マリナ!!久しぶりっ☆」
(「久しぶりっ☆」じゃないのよ、何年ぶりなの?)
いきなり現れたのは、12歳で予定より一年早く家を出て隣国のアカデミーに留学していた兄だった。
家を出てから本当に今の今まで、たったの一度も帰ってこなかったのだ。
いくら「便りの無いのは良い便り」と言えど、「本当にお兄様は生きてるの?」と何度心配した事か。
実に、こうして顔を見るのは……何と6年ぶりになる。
「あんなに可愛かったマリナは美人になったな~。まあオレの妹なんだから当然なんだけど」
「ちょ、ちょっとヤメてよ!」
せっかく昨日ゲネルに綺麗にしてもらった髪がぐしゃぐしゃになってしまう。
家を出た時は、自分より少し大きかったぐらいの身長も随分伸び、少年っぽかった丸みを帯びた頬もすっきりシャープになって、すっかり大人の男性……って、その笑顔だけは昔のままのようだ。
「お兄様までなんでアカデミーに?」
「いやー超優秀なオレは飛び級で卒業出来たんだけどさ、驚かそうと屋敷に戻ったらお前もマルセルもアカデミー入ったって聞いてさあ……来ちゃった☆」
今まで何年も音沙汰なしだったのに何も言わずに帰って来て、妹弟を追ってここまで来るって、どんだけ勝手なのか。
つくづく他人のことは考えない人だ。
「『来ちゃった☆』って……」
「えーマリナに会いたくて飛んできたのに……喜んでくれないんだ……」
「そんなことないわよ。だからってアカデミーにまで来なくったって」
「だって、屋敷で待ってたってマリナは戻ってこないし寂しくて……」
いつもの胡散臭い笑顔を引っ込めて、悲しそうに眉を寄せるお兄様。
そうよね、ずっと離れて隣国にいたんだもん。
6年見ない間に身体は大きく大人になったが、マリナが寂しかったように兄もきっと寂しかったのだろう。
そう絆されてしまう自分は甘いのだろうか、とマリナは諦めの眼差しで大きくなった兄を見た。
「『寂しい』っていくつなんですかアナタ。そんな大きい形して」
あ、兄に突き飛ばされて吹っ飛んでいたゲネルが復活した。
この二人、なぜか昔から相性が悪いというか、顔を合わすと言い合いやら取っ組み合いを始める。
年はゲネルのほうが一つ上なのに、主従関係というかゲネルが一方的にお兄様にヤラれてるっぽいけど。
6年経ってもこれは変わらないのだから、そこは成長してないのかもしれない。お互いに。
「ああ、お前いたの。もういいよ、マリナの面倒はオレが見るから」
「そんなの承服できるわけないでしょう。そもそもここは男子禁制ですよ」
「いいじゃん、兄妹だし。ってか、じゃあお前なに?オレがダメなら当然お前もダメだろ」
「ちょっと……お兄様もゲネルも……」
ヒートアップする舌戦に待ったをかけるも、どちらもマリナの話なんて聞いちゃくれない。
ああ、相変わらずああ言えばこう言う展開。
ホント、なんでこんなに仲悪いんだろう。
「私はいいんですよ、教師なんだから」
「はんっ、ヘタクソな言い訳だな」
「お兄様、ゲネルが先生っていうのは本当らしいですよ」
「…………マジか……お前、どんな手使ったんだよ」
目を見開いてマリナとゲネルを交互に凝視するお兄様と、ドヤ顔のゲネル。
こんな顔をするお兄様は珍しい。
「そう言うわけで、『教師として』いくら兄妹と言えど同室は許可できません。早々に退室願えますか」
「お前……」
「生徒の父兄として、面会するなら正当な手続きをとってどうぞ。保護者ならアカデミーの教師の言うことは聞いていただかないと、ねえ?」
いつもなんだかんだと言い負かされてるゲネルが珍しく押している。
完全に外野となり二人のやり取りを眺めていると、部屋のドアがまたバタンと開く。
「なにやってるの、姉さんの部屋で!」
はあはあと息を切らせて飛び込んできたのはマルセルだ。
「マルセル!どうしたの」
「姉さんとゲネルが通るのが見えて……そしたら兄さんも……」
マリナの部屋は寮の中でも広めの最上階、しかも奥の方にあって寮の入り口からはなかなかの距離だ。
この階層には特別なキーでエレベーターを使わないと上ってこれない。
マルセルが女子寮のキーを持ってるわけもなく、エレベーターが使えないと外階段を上がることになる。
それを全速力で走ってきたならなかなかの運動量となるに違いない。
ぽたぽたと汗を垂らすマルセルをソファに座らせ、タオルを持ってきて拭いてあげる。
開いた首元から見える汗を拭い、くすぐったそうにされるがままのマルセルが可愛い。
こんなに汗をかいてもいい匂いのする弟はいつだって可愛いのだが。
「もう一度聞くけど、なんで二人が姉さんの部屋にいるの?」
兄とゲネルの仲が悪いのはもともとだから仕方ないとして、マルセルに頭が上がらないこの二人もなかなかに可笑しい。
どうなってるんだろう、この3人の力関係は。
「ゲネルはアカデミー卒業して屋敷で執事見習いするんじゃなかったの?」
「それは……お嬢らが今年からアカデミー入るって言うから……」
「兄さんも、折角飛び級で卒業して戻ってくるって言ってたのに、なんでここにいるの?」
「屋敷に帰ったらマリナもお前もいないからさあ……」
はああ……と額に手を当てて大仰に溜息を吐くマルセル。
なんだかこの中で一番しっかりした年上に見えるのは気のせいだろうか。
「とにかく、ソレ持ってるからって姉さんの部屋は出入り自由じゃないから。ちゃんと許可は取って、節度も守って」
「「はい……」」
マルセルに叱られてしゅんとする兄とゲネルがちょっとだけ可愛くて可哀想だ。
(って、え?さらっと聞き流しそうになったけど、わたしが許可すればこれからもこの二人はやってくるってこと?)
いや、それは兄とゲネルだからいいとして、そもそも「男子禁制」のこの寮のシステムはどうなってるのか。
「ああ、それならコレ」
マルセルが見せた左手小指には、小さな黒いオニキスが嵌った細い金のリングがあった。
「これね、視認撹乱魔道具なんだよ。これでシステムと大雑把な人目は素通りってわけ」
「へ、へえー」
(便利なものがあるんだね……って法に触れたりしない……よね?)
「なに言ってんだマリナ、ウチじゃ必須道具じゃねーか。オレも持ってるし、コイツも当然」
「……持ってますよ」
兄もゲネルも当然のように見せてきた指にも、マルセルと同じ金のリングが嵌っている。
さっきマルセルが言った「ソレ」ってこれか!
へ、へえー……え?お兄様、さも当然とばかりに言いましたけど、そんなの知りませんが!?
「姉さんもしてるでしょ、似たようなの」
「でもこれは……」
左手の小指に嵌っている、小さな紫水晶がいくつか並んだ細い金のリング。
普段は手袋の下に隠れて見えない『下僕化』の能力を調整する魔道具。
「確りとした目視や気配探られたら隠せねえけど、システムや衆人の誤魔化しぐらいは余裕だな」
「そ、それって犯罪では……」
「今更なんだよ、ウチ魔お……」
「お兄様、何を言ってるのかしら???」
ウチの事情を何も知らないマルセルの前で何言い出すのか!
まさかとは思うが、ウチが「魔王」だなんて言おうとしてないわよね!?と、慌ててマリナは兄の口を手のひらで塞ぐ。
「大丈夫ですよ、お嬢。これは金を出せば買える『商品』ですので合法です」
と言いながら、とんでもなく高いですけどね、と付け加えるゲネル。
「そうだよ姉さん。嫌ならシステムを改修すればいいんだから」
マルセルがにっこりと微笑みながらそう言うんだから、大丈夫なんだろうと一安心する。
ん?マルセルも知ってる?
ちなみに、システムの開発もオージェ家でしてるらしい。
(これって『盾』と『矛』なんじゃ……)
マリナ如きが事業に口を出せるはずもないので、気付かなかったことにして黙っておく。
それにしても、こんなものを合法に……あくまでも合法に、開発してるオージェ家って、もしかしてスゴい?
「とりあえず、お腹すいたから食堂行こうよ」
はああ……と大きく溜息を吐いたマルセルが、お腹を押さえてそう言った。
そうだわ、成長期のマルセルのお腹を空かせる訳にはいかない!
マリナは、可愛い弟を立派な王宮騎士にさせるべく十分な栄養を与えねば!と意気込む。
「そうね、お兄様もゲネルも、それでいいでしょう?」
食堂なら一緒にテーブルで食事を摂ることができる。
ゲネルやマルセルはいざ知らず、兄も父兄だからギリOKだろう。
この組み合わせをどう思われるかは知らないが。
「じゃあ、わたしは着替えるからみんな出て行って」
「お嬢、着替えなら私が手伝……」
「結構です!」
最後まで渋るゲネルともども3人を部屋から追い出し、バタンと扉を閉める。
遠ざかる足音が聞こえなくなったことを確認して、マリナは一旦ソファに座り込む。
なんでどうしてこうなった?
今日一日が目まぐるしすぎて思考が追いつかない。
ゲネルが昨晩突然現れたのに驚いた。
これは一晩経って落ち着いたのでいいとして、6年ぶりに兄が現れた。
まあ、理由はアレだけど、身内だしこれは別にいいだろう。
問題は……会長にシルシを知られた……。
ゲネルがいてくれて助かった。
あのままシルシを弄られてたら……。
その時の快感を思い出しそうになってふるりと体が震える。
「シャワー浴びよう……」
本当はゆっくりとお風呂に入りたいけれど、待たせるとまた部屋まで襲来されそうで気が抜けない。
ゆっくり浸かるのは夜にしよう。
(ああ、メルに会いたい)
それから、「部屋の鍵を増やす」と心のリマインダーにしっかりと刻みつけるのも忘れなかった。
長いストレートの黒髪がサラリと流れマリナの顔にかかる。
覗き込んでくる切れ長の瞳はマリナと同じ薄紫で、こうやって隣に座っていても背が高く脚が長い……極めつけは胡散臭そうなこの笑顔……。
「もしかして……お兄様?」
「ピンポーン、大当たりぃ~さすが我が妹マリナ!!久しぶりっ☆」
(「久しぶりっ☆」じゃないのよ、何年ぶりなの?)
いきなり現れたのは、12歳で予定より一年早く家を出て隣国のアカデミーに留学していた兄だった。
家を出てから本当に今の今まで、たったの一度も帰ってこなかったのだ。
いくら「便りの無いのは良い便り」と言えど、「本当にお兄様は生きてるの?」と何度心配した事か。
実に、こうして顔を見るのは……何と6年ぶりになる。
「あんなに可愛かったマリナは美人になったな~。まあオレの妹なんだから当然なんだけど」
「ちょ、ちょっとヤメてよ!」
せっかく昨日ゲネルに綺麗にしてもらった髪がぐしゃぐしゃになってしまう。
家を出た時は、自分より少し大きかったぐらいの身長も随分伸び、少年っぽかった丸みを帯びた頬もすっきりシャープになって、すっかり大人の男性……って、その笑顔だけは昔のままのようだ。
「お兄様までなんでアカデミーに?」
「いやー超優秀なオレは飛び級で卒業出来たんだけどさ、驚かそうと屋敷に戻ったらお前もマルセルもアカデミー入ったって聞いてさあ……来ちゃった☆」
今まで何年も音沙汰なしだったのに何も言わずに帰って来て、妹弟を追ってここまで来るって、どんだけ勝手なのか。
つくづく他人のことは考えない人だ。
「『来ちゃった☆』って……」
「えーマリナに会いたくて飛んできたのに……喜んでくれないんだ……」
「そんなことないわよ。だからってアカデミーにまで来なくったって」
「だって、屋敷で待ってたってマリナは戻ってこないし寂しくて……」
いつもの胡散臭い笑顔を引っ込めて、悲しそうに眉を寄せるお兄様。
そうよね、ずっと離れて隣国にいたんだもん。
6年見ない間に身体は大きく大人になったが、マリナが寂しかったように兄もきっと寂しかったのだろう。
そう絆されてしまう自分は甘いのだろうか、とマリナは諦めの眼差しで大きくなった兄を見た。
「『寂しい』っていくつなんですかアナタ。そんな大きい形して」
あ、兄に突き飛ばされて吹っ飛んでいたゲネルが復活した。
この二人、なぜか昔から相性が悪いというか、顔を合わすと言い合いやら取っ組み合いを始める。
年はゲネルのほうが一つ上なのに、主従関係というかゲネルが一方的にお兄様にヤラれてるっぽいけど。
6年経ってもこれは変わらないのだから、そこは成長してないのかもしれない。お互いに。
「ああ、お前いたの。もういいよ、マリナの面倒はオレが見るから」
「そんなの承服できるわけないでしょう。そもそもここは男子禁制ですよ」
「いいじゃん、兄妹だし。ってか、じゃあお前なに?オレがダメなら当然お前もダメだろ」
「ちょっと……お兄様もゲネルも……」
ヒートアップする舌戦に待ったをかけるも、どちらもマリナの話なんて聞いちゃくれない。
ああ、相変わらずああ言えばこう言う展開。
ホント、なんでこんなに仲悪いんだろう。
「私はいいんですよ、教師なんだから」
「はんっ、ヘタクソな言い訳だな」
「お兄様、ゲネルが先生っていうのは本当らしいですよ」
「…………マジか……お前、どんな手使ったんだよ」
目を見開いてマリナとゲネルを交互に凝視するお兄様と、ドヤ顔のゲネル。
こんな顔をするお兄様は珍しい。
「そう言うわけで、『教師として』いくら兄妹と言えど同室は許可できません。早々に退室願えますか」
「お前……」
「生徒の父兄として、面会するなら正当な手続きをとってどうぞ。保護者ならアカデミーの教師の言うことは聞いていただかないと、ねえ?」
いつもなんだかんだと言い負かされてるゲネルが珍しく押している。
完全に外野となり二人のやり取りを眺めていると、部屋のドアがまたバタンと開く。
「なにやってるの、姉さんの部屋で!」
はあはあと息を切らせて飛び込んできたのはマルセルだ。
「マルセル!どうしたの」
「姉さんとゲネルが通るのが見えて……そしたら兄さんも……」
マリナの部屋は寮の中でも広めの最上階、しかも奥の方にあって寮の入り口からはなかなかの距離だ。
この階層には特別なキーでエレベーターを使わないと上ってこれない。
マルセルが女子寮のキーを持ってるわけもなく、エレベーターが使えないと外階段を上がることになる。
それを全速力で走ってきたならなかなかの運動量となるに違いない。
ぽたぽたと汗を垂らすマルセルをソファに座らせ、タオルを持ってきて拭いてあげる。
開いた首元から見える汗を拭い、くすぐったそうにされるがままのマルセルが可愛い。
こんなに汗をかいてもいい匂いのする弟はいつだって可愛いのだが。
「もう一度聞くけど、なんで二人が姉さんの部屋にいるの?」
兄とゲネルの仲が悪いのはもともとだから仕方ないとして、マルセルに頭が上がらないこの二人もなかなかに可笑しい。
どうなってるんだろう、この3人の力関係は。
「ゲネルはアカデミー卒業して屋敷で執事見習いするんじゃなかったの?」
「それは……お嬢らが今年からアカデミー入るって言うから……」
「兄さんも、折角飛び級で卒業して戻ってくるって言ってたのに、なんでここにいるの?」
「屋敷に帰ったらマリナもお前もいないからさあ……」
はああ……と額に手を当てて大仰に溜息を吐くマルセル。
なんだかこの中で一番しっかりした年上に見えるのは気のせいだろうか。
「とにかく、ソレ持ってるからって姉さんの部屋は出入り自由じゃないから。ちゃんと許可は取って、節度も守って」
「「はい……」」
マルセルに叱られてしゅんとする兄とゲネルがちょっとだけ可愛くて可哀想だ。
(って、え?さらっと聞き流しそうになったけど、わたしが許可すればこれからもこの二人はやってくるってこと?)
いや、それは兄とゲネルだからいいとして、そもそも「男子禁制」のこの寮のシステムはどうなってるのか。
「ああ、それならコレ」
マルセルが見せた左手小指には、小さな黒いオニキスが嵌った細い金のリングがあった。
「これね、視認撹乱魔道具なんだよ。これでシステムと大雑把な人目は素通りってわけ」
「へ、へえー」
(便利なものがあるんだね……って法に触れたりしない……よね?)
「なに言ってんだマリナ、ウチじゃ必須道具じゃねーか。オレも持ってるし、コイツも当然」
「……持ってますよ」
兄もゲネルも当然のように見せてきた指にも、マルセルと同じ金のリングが嵌っている。
さっきマルセルが言った「ソレ」ってこれか!
へ、へえー……え?お兄様、さも当然とばかりに言いましたけど、そんなの知りませんが!?
「姉さんもしてるでしょ、似たようなの」
「でもこれは……」
左手の小指に嵌っている、小さな紫水晶がいくつか並んだ細い金のリング。
普段は手袋の下に隠れて見えない『下僕化』の能力を調整する魔道具。
「確りとした目視や気配探られたら隠せねえけど、システムや衆人の誤魔化しぐらいは余裕だな」
「そ、それって犯罪では……」
「今更なんだよ、ウチ魔お……」
「お兄様、何を言ってるのかしら???」
ウチの事情を何も知らないマルセルの前で何言い出すのか!
まさかとは思うが、ウチが「魔王」だなんて言おうとしてないわよね!?と、慌ててマリナは兄の口を手のひらで塞ぐ。
「大丈夫ですよ、お嬢。これは金を出せば買える『商品』ですので合法です」
と言いながら、とんでもなく高いですけどね、と付け加えるゲネル。
「そうだよ姉さん。嫌ならシステムを改修すればいいんだから」
マルセルがにっこりと微笑みながらそう言うんだから、大丈夫なんだろうと一安心する。
ん?マルセルも知ってる?
ちなみに、システムの開発もオージェ家でしてるらしい。
(これって『盾』と『矛』なんじゃ……)
マリナ如きが事業に口を出せるはずもないので、気付かなかったことにして黙っておく。
それにしても、こんなものを合法に……あくまでも合法に、開発してるオージェ家って、もしかしてスゴい?
「とりあえず、お腹すいたから食堂行こうよ」
はああ……と大きく溜息を吐いたマルセルが、お腹を押さえてそう言った。
そうだわ、成長期のマルセルのお腹を空かせる訳にはいかない!
マリナは、可愛い弟を立派な王宮騎士にさせるべく十分な栄養を与えねば!と意気込む。
「そうね、お兄様もゲネルも、それでいいでしょう?」
食堂なら一緒にテーブルで食事を摂ることができる。
ゲネルやマルセルはいざ知らず、兄も父兄だからギリOKだろう。
この組み合わせをどう思われるかは知らないが。
「じゃあ、わたしは着替えるからみんな出て行って」
「お嬢、着替えなら私が手伝……」
「結構です!」
最後まで渋るゲネルともども3人を部屋から追い出し、バタンと扉を閉める。
遠ざかる足音が聞こえなくなったことを確認して、マリナは一旦ソファに座り込む。
なんでどうしてこうなった?
今日一日が目まぐるしすぎて思考が追いつかない。
ゲネルが昨晩突然現れたのに驚いた。
これは一晩経って落ち着いたのでいいとして、6年ぶりに兄が現れた。
まあ、理由はアレだけど、身内だしこれは別にいいだろう。
問題は……会長にシルシを知られた……。
ゲネルがいてくれて助かった。
あのままシルシを弄られてたら……。
その時の快感を思い出しそうになってふるりと体が震える。
「シャワー浴びよう……」
本当はゆっくりとお風呂に入りたいけれど、待たせるとまた部屋まで襲来されそうで気が抜けない。
ゆっくり浸かるのは夜にしよう。
(ああ、メルに会いたい)
それから、「部屋の鍵を増やす」と心のリマインダーにしっかりと刻みつけるのも忘れなかった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜
具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、
前世の記憶を取り戻す。
前世は日本の女子学生。
家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、
息苦しい毎日を過ごしていた。
ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。
転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。
女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。
だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、
横暴さを誇るのが「普通」だった。
けれどベアトリーチェは違う。
前世で身につけた「空気を読む力」と、
本を愛する静かな心を持っていた。
そんな彼女には二人の婚約者がいる。
――父違いの、血を分けた兄たち。
彼らは溺愛どころではなく、
「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。
ベアトリーチェは戸惑いながらも、
この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。
※表紙はAI画像です
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです
幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない
ラム猫
恋愛
幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。
その後、十年以上彼と再会することはなかった。
三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。
しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。
それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。
「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」
「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」
※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
猫なので、もう働きません。
具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。
やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!?
しかもここは女性が極端に少ない世界。
イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。
「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。
これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。
※表紙はAI画像です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる