よわよわ魔王がレベチ勇者にロックオンされました~コマンド「にげる」はどこですか~

サノツキ

文字の大きさ
12 / 78
#1:入学前夜~出会い

#1-8.乙女の秘密は死守します

しおりを挟む
「俺が『勇者』だって」

 ユーリの言葉が頭から離れない。

(え?わたしが魔王、で、会長が勇者?)

 え?勇者!?

 入学時に父に言われた「気を付けるべき家」以上に、マリナが何をさておいて最優先事項で接触してはダメな人物ではないか!
 それが何だ?アカデミーに入ったその日にエンカウント、次の日には身バレ?
 シルシまで知られて……。

(冗談じゃないわ、お父様に叱られる……叱られる程度で済むかしら)

 3年間無事に過ごせるようにと、信じちゃいない神様に祈ったばかりだったのに!
 ……って、信じてないからご利益もないかと、マリナは肩を落とした。

 ・‥…‥・◇・‥…‥・◇・‥…‥・

 生徒会室を出てショックで足元がおぼつかないマリナをゲネルが寮まで送って、そのまま部屋の中へと入ってくる。
 いろいろ聞きたいこともあったしそれはいいとして……ふと冷静になってみればこの寮、男子禁制なのでは?

「大丈夫、私は『先生』だから」
「また……」
「『読ん』でないよ。お嬢の考えてることぐらいわかる」

 ゲネルが淹れてくれたお茶を飲みながら、起こった出来事が多すぎて、何から聞けばいいのか考えが上手くまとまらない。

「えーっと……」
「私がわかることは教えるよ」

 子供の頃と同じように、マリナはゲネルを背凭れにしてソファに座った。
 年頃になって「いつまでもこの格好はどうか?」と聞いてはみたが、「いいからいいから」で押し切られてしまっている。
 実際、今日みたいな日は、こうやってゲネルに凭れて頭を撫でられていると安心する。
 マリナは手のひらに収まったカップをじっと見つめながら、上から降ってくる声に問いかけた。

「じゃあ……ゲネルは知ってたの?会長が『勇者』だって」
「まあ、ね」

 去年までゲネルはアカデミーの生徒だった。
 学年は違っても、ユーリとの接点はあったんだろう。

「前年度、私もユーリウスも生徒会役員だったんだよね」

 思ったより接点あった!

「ユーリウスはあの調子だし何せ目立つでしょう?いくら家名を隠しても学院内で『勇者』は有名だしね」

 まあ、あの容姿は目立つだろうし、本人もわかって行動してるに違いない。
 わざわざ言わなくても、十分勇者のカリスマ性があるように思う。
 目立たないよう領地に引きこもって隠れていたい自分とは大違いだ。

「ユーリウスだけじゃない。残ってる取り巻きたち……お嬢も会わなかった?」
「取り巻き?他の役員の……?」
「そう、彼ら。勇者の周りは「剣士」と「賢者」と「魔法使い」だよ」
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 改めて、ユーリはシャルディ家、家業は「勇者」、ケントはシュメル家、家業は「剣士」、ドールはジャバリ家、家業は「賢者」、マシューはホールデン家、家業は「魔法使い」だと、それぞれの家名と家業を教えられた。

(マジですか……)

 パーティー組んで今すぐ魔王討伐にやってきたりするんじゃないの!?
 己の身の危うさを知り、頭の中で警報音が鳴り響く。

(まさかこんなに早く関わりを持つ事になるなんて)

「と言っても、たまたま同じアカデミーにいるってだけで、学生の身分でわざわざ魔王に喧嘩吹っ掛けてくる理由もないし、もう何代も現状維持のままお互い不干渉で来てるんだから」
「そうかな……でもお父様は近付くなって」
「そりゃ近付かないに超したことは無いけれど、もう今更でしょ。関わり持っちゃったし」

 決してマリナから近付いた訳でない。
 前もって分かっていれば何としても避けた。
 けどもう遅い。
 縁が出来てしまった。

「安心してね、今更なにもないよ。彼らは……優しかったでしょ」
「うん……」

 言葉少なに落ち込むマリナを、ゲネルが精一杯励ましてくる。
 歓迎会では、ケントもドールもマシューも歓迎してくれていたように見えた。
 敵意など無かった……ように思う。

(今更なにもない……それはわかるんだけど……)

 それはマリナがオージェ家だと、「魔王」だと知られていないからでは?

 現状、まだまだ魔王として未熟なマリナが、今、どんな手段を取って勇者とぶつかっても勝てる要素はゼロだ。
 だって、相手はあの会長なんでしょ?
 勇者なんでしょ?

 レベル違いにもほどがある。
 いろんな意味で……。

「『魔王』見つけたからって、今時征服しにくるわけじゃないし」

(………ちょっと待って。せいふく?会長、何か言ってなかった?「俺はお前を……」とかなんとか)

 せいふくって「征服」か!
 え?征服されちゃうの!?
 今まで均衡を保ってきた「魔王」と「勇者」の関係が、わたしのせいで終わっちゃう?

(さっきみたいな調子で本気出されたら、何をされても抗える気がしない)

 え?どうしよう?
 どうしよう、お父様にもお祖父様にもなんて言えば……。

(てか、『何を』って何をされ……!?)

 いきなり襲いかかったピンチに、マリナの頭はパンクしそうだった。

「ゲネルぅ……」

 限界突破してべそべそ泣き出したマリナを、ゲネルは後ろからぎゅっと優しく抱きかかえた。

「大きくなってもお嬢は甘えん坊だね」
「……ゲネルにしかしないもん」

 くすっと笑った気配がして、ちゅっちゅっと軽い音がして頭の上にキスの雨が降ってくる。
 訓練で失敗した日、祖父に叱られた日、兄と喧嘩した日、よくこうやってゲネルに慰められていた。

「大丈夫、要は近付かなければいいんだよ。学年だって違うし、ユーリウスも他の人もあと一年で卒業でしょ?」
「そうね……」

 そう、たった一年。
 一年乗り切ればユーリは卒業してアカデミーからいなくなる。
 なんとかこの一年を乗り切れば……乗り切れるだろうか。
 初日でエンカウントし次の日に身バレして濃厚キスを受けシルシが知られてしまった身で、果たしてユーリから逃げ切れる?
 他の剣士や賢者や魔法使いは?
 魔王だとバレたら?

「お嬢は私が守るから」
「は……ははは……はぅ……」

 希望的観測を含め、乾いた笑いを浮かべる。
 うん、先々のことを今考えても仕方ない。
 生徒会のことも含めてどうするかは一先ず置いておいて。

「ところで……大丈夫?」

 ゲネルが横から覗き込んで、親指でそっとマリナの口唇を触る。
 んーと……シルシのこと言ってんだろうな。

「見せて」
「……イヤよ」

 もうあんな我を忘れるような快感は困る。
 マリナはぎゅっと口唇を噛み締め両手で覆ってガードした。

「そんなに隠さなくても……」
「いくらゲネルでもダメ」
「ねえ、ソレ知ってるのって……」

 オージェ家の秘匿事項であるシルシの存在と位置は、今の所、マリナと当代の祖父、当主の父……と何故か知られてしまったユーリだけだ。

(会長にはどうしよう……口止めとか……しといたほうがいいのかな)

 大きな弱点となり得るこのシルシは、絶対に他の人には知られちゃいけないと、マリナにコレがあることに気付いた祖父と父に散々言い含められてきた。
 いくら普段は見えないよう隠蔽してあれど、ゲネルにだって知られるわけにはいかない。

「ところで、ゲネルに助けてもらえてよかった。よくわたしの居場所がわかったよね」

 物言いたげにマリナの口唇をふにふにと触り続け、机の小抽斗からリップバームを取り出しいそいそと塗り始めるゲネルの気を逸らそうと別の話をふる。

「ああ、お嬢のけh……ユーリウスがお嬢のこと連れてったって聞いたから」
「……なるほど?」

(わたしの……なに?)

 なにか誤魔化されたような気がしなくもないけど。
 ゲネルは去年までここにいたんだし、誰かに会長のこと聞いたとか。
 まあ廊下でユーゴイルを含め会長と派手にやっちゃたし、何せは目立つ人ではあるし。

「それより、お嬢知ってたのか?わk……」
「マーリナ、見ぃーっけ」
「うわあっ!」

 突然、部屋の扉が開き、後ろにいたゲネルが壁際まで吹っ飛び、ぎゅうと抱き締められて変な声が出てしまった。
 な、な、なにもの!?
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。

あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。 宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。 対極のような二人は姉妹。母親の違う。 お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。 そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。 天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。 生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。 両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。 だが……。運命とは残酷である。 ルビアの元に死神から知らせが届く。 十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。 美しい愛しているルビア。 失いたくない。殺されてなるものか。 それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。 生まれてくる価値のない、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。 これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

処理中です...