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#1:入学前夜~出会い
#1-8.乙女の秘密は死守します
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「俺が『勇者』だって」
ユーリの言葉が頭から離れない。
(え?わたしが魔王、で、会長が勇者?)
え?勇者!?
入学時に父に言われた「気を付けるべき家」以上に、マリナが何をさておいて最優先事項で接触してはダメな人物ではないか!
それが何だ?アカデミーに入ったその日にエンカウント、次の日には身バレ?
シルシまで知られて……。
(冗談じゃないわ、お父様に叱られる……叱られる程度で済むかしら)
3年間無事に過ごせるようにと、信じちゃいない神様に祈ったばかりだったのに!
……って、信じてないからご利益もないかと、マリナは肩を落とした。
・‥…‥・◇・‥…‥・◇・‥…‥・
生徒会室を出てショックで足元がおぼつかないマリナをゲネルが寮まで送って、そのまま部屋の中へと入ってくる。
いろいろ聞きたいこともあったしそれはいいとして……ふと冷静になってみればこの寮、男子禁制なのでは?
「大丈夫、私は『先生』だから」
「また……」
「『読ん』でないよ。お嬢の考えてることぐらいわかる」
ゲネルが淹れてくれたお茶を飲みながら、起こった出来事が多すぎて、何から聞けばいいのか考えが上手くまとまらない。
「えーっと……」
「私がわかることは教えるよ」
子供の頃と同じように、マリナはゲネルを背凭れにしてソファに座った。
年頃になって「いつまでもこの格好はどうか?」と聞いてはみたが、「いいからいいから」で押し切られてしまっている。
実際、今日みたいな日は、こうやってゲネルに凭れて頭を撫でられていると安心する。
マリナは手のひらに収まったカップをじっと見つめながら、上から降ってくる声に問いかけた。
「じゃあ……ゲネルは知ってたの?会長が『勇者』だって」
「まあ、ね」
去年までゲネルはアカデミーの生徒だった。
学年は違っても、ユーリとの接点はあったんだろう。
「前年度、私もユーリウスも生徒会役員だったんだよね」
思ったより接点あった!
「ユーリウスはあの調子だし何せ目立つでしょう?いくら家名を隠しても学院内で『勇者』は有名だしね」
まあ、あの容姿は目立つだろうし、本人もわかって行動してるに違いない。
わざわざ言わなくても、十分勇者のカリスマ性があるように思う。
目立たないよう領地に引きこもって隠れていたい自分とは大違いだ。
「ユーリウスだけじゃない。残ってる取り巻きたち……お嬢も会わなかった?」
「取り巻き?他の役員の……?」
「そう、彼ら。勇者の周りは「剣士」と「賢者」と「魔法使い」だよ」
・
・
・
・
・
改めて、ユーリはシャルディ家、家業は「勇者」、ケントはシュメル家、家業は「剣士」、ドールはジャバリ家、家業は「賢者」、マシューはホールデン家、家業は「魔法使い」だと、それぞれの家名と家業を教えられた。
(マジですか……)
パーティー組んで今すぐ魔王討伐にやってきたりするんじゃないの!?
己の身の危うさを知り、頭の中で警報音が鳴り響く。
(まさかこんなに早く関わりを持つ事になるなんて)
「と言っても、たまたま同じアカデミーにいるってだけで、学生の身分でわざわざ魔王に喧嘩吹っ掛けてくる理由もないし、もう何代も現状維持のままお互い不干渉で来てるんだから」
「そうかな……でもお父様は近付くなって」
「そりゃ近付かないに超したことは無いけれど、もう今更でしょ。関わり持っちゃったし」
決してマリナから近付いた訳でない。
前もって分かっていれば何としても避けた。
けどもう遅い。
縁が出来てしまった。
「安心してね、今更なにもないよ。彼らは……優しかったでしょ」
「うん……」
言葉少なに落ち込むマリナを、ゲネルが精一杯励ましてくる。
歓迎会では、ケントもドールもマシューも歓迎してくれていたように見えた。
敵意など無かった……ように思う。
(今更なにもない……それはわかるんだけど……)
それはマリナがオージェ家だと、「魔王」だと知られていないからでは?
現状、まだまだ魔王として未熟なマリナが、今、どんな手段を取って勇者とぶつかっても勝てる要素はゼロだ。
だって、相手はあの会長なんでしょ?
勇者なんでしょ?
レベル違いにもほどがある。
いろんな意味で……。
「『魔王』見つけたからって、今時征服しにくるわけじゃないし」
(………ちょっと待って。せいふく?会長、何か言ってなかった?「俺はお前を……」とかなんとか)
せいふくって「征服」か!
え?征服されちゃうの!?
今まで均衡を保ってきた「魔王」と「勇者」の関係が、わたしのせいで終わっちゃう?
(さっきみたいな調子で本気出されたら、何をされても抗える気がしない)
え?どうしよう?
どうしよう、お父様にもお祖父様にもなんて言えば……。
(てか、『何を』って何をされ……!?)
いきなり襲いかかったピンチに、マリナの頭はパンクしそうだった。
「ゲネルぅ……」
限界突破してべそべそ泣き出したマリナを、ゲネルは後ろからぎゅっと優しく抱きかかえた。
「大きくなってもお嬢は甘えん坊だね」
「……ゲネルにしかしないもん」
くすっと笑った気配がして、ちゅっちゅっと軽い音がして頭の上にキスの雨が降ってくる。
訓練で失敗した日、祖父に叱られた日、兄と喧嘩した日、よくこうやってゲネルに慰められていた。
「大丈夫、要は近付かなければいいんだよ。学年だって違うし、ユーリウスも他の人もあと一年で卒業でしょ?」
「そうね……」
そう、たった一年。
一年乗り切ればユーリは卒業してアカデミーからいなくなる。
なんとかこの一年を乗り切れば……乗り切れるだろうか。
初日でエンカウントし次の日に身バレして濃厚キスを受けシルシが知られてしまった身で、果たしてユーリから逃げ切れる?
他の剣士や賢者や魔法使いは?
魔王だとバレたら?
「お嬢は私が守るから」
「は……ははは……はぅ……」
希望的観測を含め、乾いた笑いを浮かべる。
うん、先々のことを今考えても仕方ない。
生徒会のことも含めてどうするかは一先ず置いておいて。
「ところで……大丈夫?」
ゲネルが横から覗き込んで、親指でそっとマリナの口唇を触る。
んーと……シルシのこと言ってんだろうな。
「見せて」
「……イヤよ」
もうあんな我を忘れるような快感は困る。
マリナはぎゅっと口唇を噛み締め両手で覆ってガードした。
「そんなに隠さなくても……」
「いくらゲネルでもダメ」
「ねえ、ソレ知ってるのって……」
オージェ家の秘匿事項であるシルシの存在と位置は、今の所、マリナと当代の祖父、当主の父……と何故か知られてしまったユーリだけだ。
(会長にはどうしよう……口止めとか……しといたほうがいいのかな)
大きな弱点となり得るこのシルシは、絶対に他の人には知られちゃいけないと、マリナにコレがあることに気付いた祖父と父に散々言い含められてきた。
いくら普段は見えないよう隠蔽してあれど、ゲネルにだって知られるわけにはいかない。
「ところで、ゲネルに助けてもらえてよかった。よくわたしの居場所がわかったよね」
物言いたげにマリナの口唇をふにふにと触り続け、机の小抽斗からリップバームを取り出しいそいそと塗り始めるゲネルの気を逸らそうと別の話をふる。
「ああ、お嬢のけh……ユーリウスがお嬢のこと連れてったって聞いたから」
「……なるほど?」
(わたしの……なに?)
なにか誤魔化されたような気がしなくもないけど。
ゲネルは去年までここにいたんだし、誰かに会長のこと聞いたとか。
まあ廊下でユーゴイルを含め会長と派手にやっちゃたし、何せ彼らは目立つ人ではあるし。
「それより、お嬢知ってたのか?わk……」
「マーリナ、見ぃーっけ」
「うわあっ!」
突然、部屋の扉が開き、後ろにいたゲネルが壁際まで吹っ飛び、ぎゅうと抱き締められて変な声が出てしまった。
な、な、なにもの!?
ユーリの言葉が頭から離れない。
(え?わたしが魔王、で、会長が勇者?)
え?勇者!?
入学時に父に言われた「気を付けるべき家」以上に、マリナが何をさておいて最優先事項で接触してはダメな人物ではないか!
それが何だ?アカデミーに入ったその日にエンカウント、次の日には身バレ?
シルシまで知られて……。
(冗談じゃないわ、お父様に叱られる……叱られる程度で済むかしら)
3年間無事に過ごせるようにと、信じちゃいない神様に祈ったばかりだったのに!
……って、信じてないからご利益もないかと、マリナは肩を落とした。
・‥…‥・◇・‥…‥・◇・‥…‥・
生徒会室を出てショックで足元がおぼつかないマリナをゲネルが寮まで送って、そのまま部屋の中へと入ってくる。
いろいろ聞きたいこともあったしそれはいいとして……ふと冷静になってみればこの寮、男子禁制なのでは?
「大丈夫、私は『先生』だから」
「また……」
「『読ん』でないよ。お嬢の考えてることぐらいわかる」
ゲネルが淹れてくれたお茶を飲みながら、起こった出来事が多すぎて、何から聞けばいいのか考えが上手くまとまらない。
「えーっと……」
「私がわかることは教えるよ」
子供の頃と同じように、マリナはゲネルを背凭れにしてソファに座った。
年頃になって「いつまでもこの格好はどうか?」と聞いてはみたが、「いいからいいから」で押し切られてしまっている。
実際、今日みたいな日は、こうやってゲネルに凭れて頭を撫でられていると安心する。
マリナは手のひらに収まったカップをじっと見つめながら、上から降ってくる声に問いかけた。
「じゃあ……ゲネルは知ってたの?会長が『勇者』だって」
「まあ、ね」
去年までゲネルはアカデミーの生徒だった。
学年は違っても、ユーリとの接点はあったんだろう。
「前年度、私もユーリウスも生徒会役員だったんだよね」
思ったより接点あった!
「ユーリウスはあの調子だし何せ目立つでしょう?いくら家名を隠しても学院内で『勇者』は有名だしね」
まあ、あの容姿は目立つだろうし、本人もわかって行動してるに違いない。
わざわざ言わなくても、十分勇者のカリスマ性があるように思う。
目立たないよう領地に引きこもって隠れていたい自分とは大違いだ。
「ユーリウスだけじゃない。残ってる取り巻きたち……お嬢も会わなかった?」
「取り巻き?他の役員の……?」
「そう、彼ら。勇者の周りは「剣士」と「賢者」と「魔法使い」だよ」
・
・
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・
・
改めて、ユーリはシャルディ家、家業は「勇者」、ケントはシュメル家、家業は「剣士」、ドールはジャバリ家、家業は「賢者」、マシューはホールデン家、家業は「魔法使い」だと、それぞれの家名と家業を教えられた。
(マジですか……)
パーティー組んで今すぐ魔王討伐にやってきたりするんじゃないの!?
己の身の危うさを知り、頭の中で警報音が鳴り響く。
(まさかこんなに早く関わりを持つ事になるなんて)
「と言っても、たまたま同じアカデミーにいるってだけで、学生の身分でわざわざ魔王に喧嘩吹っ掛けてくる理由もないし、もう何代も現状維持のままお互い不干渉で来てるんだから」
「そうかな……でもお父様は近付くなって」
「そりゃ近付かないに超したことは無いけれど、もう今更でしょ。関わり持っちゃったし」
決してマリナから近付いた訳でない。
前もって分かっていれば何としても避けた。
けどもう遅い。
縁が出来てしまった。
「安心してね、今更なにもないよ。彼らは……優しかったでしょ」
「うん……」
言葉少なに落ち込むマリナを、ゲネルが精一杯励ましてくる。
歓迎会では、ケントもドールもマシューも歓迎してくれていたように見えた。
敵意など無かった……ように思う。
(今更なにもない……それはわかるんだけど……)
それはマリナがオージェ家だと、「魔王」だと知られていないからでは?
現状、まだまだ魔王として未熟なマリナが、今、どんな手段を取って勇者とぶつかっても勝てる要素はゼロだ。
だって、相手はあの会長なんでしょ?
勇者なんでしょ?
レベル違いにもほどがある。
いろんな意味で……。
「『魔王』見つけたからって、今時征服しにくるわけじゃないし」
(………ちょっと待って。せいふく?会長、何か言ってなかった?「俺はお前を……」とかなんとか)
せいふくって「征服」か!
え?征服されちゃうの!?
今まで均衡を保ってきた「魔王」と「勇者」の関係が、わたしのせいで終わっちゃう?
(さっきみたいな調子で本気出されたら、何をされても抗える気がしない)
え?どうしよう?
どうしよう、お父様にもお祖父様にもなんて言えば……。
(てか、『何を』って何をされ……!?)
いきなり襲いかかったピンチに、マリナの頭はパンクしそうだった。
「ゲネルぅ……」
限界突破してべそべそ泣き出したマリナを、ゲネルは後ろからぎゅっと優しく抱きかかえた。
「大きくなってもお嬢は甘えん坊だね」
「……ゲネルにしかしないもん」
くすっと笑った気配がして、ちゅっちゅっと軽い音がして頭の上にキスの雨が降ってくる。
訓練で失敗した日、祖父に叱られた日、兄と喧嘩した日、よくこうやってゲネルに慰められていた。
「大丈夫、要は近付かなければいいんだよ。学年だって違うし、ユーリウスも他の人もあと一年で卒業でしょ?」
「そうね……」
そう、たった一年。
一年乗り切ればユーリは卒業してアカデミーからいなくなる。
なんとかこの一年を乗り切れば……乗り切れるだろうか。
初日でエンカウントし次の日に身バレして濃厚キスを受けシルシが知られてしまった身で、果たしてユーリから逃げ切れる?
他の剣士や賢者や魔法使いは?
魔王だとバレたら?
「お嬢は私が守るから」
「は……ははは……はぅ……」
希望的観測を含め、乾いた笑いを浮かべる。
うん、先々のことを今考えても仕方ない。
生徒会のことも含めてどうするかは一先ず置いておいて。
「ところで……大丈夫?」
ゲネルが横から覗き込んで、親指でそっとマリナの口唇を触る。
んーと……シルシのこと言ってんだろうな。
「見せて」
「……イヤよ」
もうあんな我を忘れるような快感は困る。
マリナはぎゅっと口唇を噛み締め両手で覆ってガードした。
「そんなに隠さなくても……」
「いくらゲネルでもダメ」
「ねえ、ソレ知ってるのって……」
オージェ家の秘匿事項であるシルシの存在と位置は、今の所、マリナと当代の祖父、当主の父……と何故か知られてしまったユーリだけだ。
(会長にはどうしよう……口止めとか……しといたほうがいいのかな)
大きな弱点となり得るこのシルシは、絶対に他の人には知られちゃいけないと、マリナにコレがあることに気付いた祖父と父に散々言い含められてきた。
いくら普段は見えないよう隠蔽してあれど、ゲネルにだって知られるわけにはいかない。
「ところで、ゲネルに助けてもらえてよかった。よくわたしの居場所がわかったよね」
物言いたげにマリナの口唇をふにふにと触り続け、机の小抽斗からリップバームを取り出しいそいそと塗り始めるゲネルの気を逸らそうと別の話をふる。
「ああ、お嬢のけh……ユーリウスがお嬢のこと連れてったって聞いたから」
「……なるほど?」
(わたしの……なに?)
なにか誤魔化されたような気がしなくもないけど。
ゲネルは去年までここにいたんだし、誰かに会長のこと聞いたとか。
まあ廊下でユーゴイルを含め会長と派手にやっちゃたし、何せ彼らは目立つ人ではあるし。
「それより、お嬢知ってたのか?わk……」
「マーリナ、見ぃーっけ」
「うわあっ!」
突然、部屋の扉が開き、後ろにいたゲネルが壁際まで吹っ飛び、ぎゅうと抱き締められて変な声が出てしまった。
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