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#1:入学前夜~出会い
#1-7.「にげる」はどこですか
しおりを挟む「え……あの……」
ユーリに「魔王」だと断言されて、マリナは完全にフリーズしてしまった。
なんでバレた?
「力」使ったから?
マリナが「魔王」であることはくれぐれもバレてはいけないと父にも言われていた事を思い出し、不可抗力だから仕方ないと目に力を入れてユーリと瞳を合わせる。
下僕化すれば記憶も飛ばせるし、意識も操れるだろうと見越しての行動だった。
「バカなの?俺にそんなのが効くわけないだろう」
そんなマリナの思惑なんて意にも介さず、いつしか両側に付かれていた腕は離れ、ユーリにソファに押し倒されていた。
(なんで???)
幾らコンタクトをしていたとしても、マリナが意図的に能力を使おうとしたのに効かないなんて事は今まで無かった。
左手の小指も触ってそこにきちんとリングがあるのを確認し、力を込めるもそれも効果がない。
マリナは上に伸し掛かったユーリに見下され、徐にその顔が近付いてくるのをただ動けずにじっと見ていた。
(……え?これってどういう……?)
「君にもあるんだろう?シルシ、どこ?」
お互いの鼻先がくっ付きそうな近さで囁かれる。
(どこって、なんで知って……)
力が通じない現実と慣れない距離感もさながら、シルシの事をユーリが知っていると言う事に、マリナの頭の中はパニックだ。
「まあ大体検討は付くけどね……」
「……っ!!」
いつしかマリナとユーリの間の距離はゼロになり、ユーリの薄い口唇とマリナの口唇がくっついている。
今日何度目かのなんで?と思いながら、これはどういう状況かと必死に考えていた。
「ん?もしかして初めて?」
完全にノーモーションのマリナから一旦離れ、軽く口端を上げながらユーリが口唇を優しく指でなぞる。
「ふうん……まあ初めてが俺で良かったな」
片手をソファと後頭部の間に差し込まれ、逃げないように固定される。
再度近付いたユーリは、放心状態のマリナの口唇をちゅっちゅっと軽く角度を変えて何度か啄み、反応を確かめつつぺろりと舌を出して下唇を舐め上げ、驚いて薄く口を開いた隙に一気に奥へと舌を差し込んできた。
「や……ダメ……くちの中は……」
やっと反応を返し今更拒んでももう遅かった。
一旦受け入れたユーリの熱く長い舌は、歯列をなぞり縦横無尽に頬の内側を舐め尽くし舌を絡ませてくる。
まるで生き物のように蠢き探るような動きに翻弄され、執拗に擦り付けられる刺激で遂に舌先のシルシを暴かれてしまった。
「んん……んぁっっ……」
「ここか……君のイイ場所は」
シルシを見つけたユーリに、しつこいぐらいに何度も何度も舌先を絡められ合わされ擦られる。
(そ、そこ……弱い……)
溢れて飲み込みきれなくなった唾液が口の端から溢れるが、頬を伝うその感触でさえ敏感に感じてしまう。
快感に抗えず、次第に何も考えられなくなってきた。
「んんっ……ぁ……ん……」
感じるツボを舐められ力の抜けたマリナは、抵抗する事もできずただ喘ぐだけだった。
静かな室内に、くちゅくちゅと口腔を貪る音とはしたなく感じ入る喘ぎ声だけが響き渡る。
何度かゲネルを下僕化してしまい足を舐められたことはあったが、こんな風に直接弱点を他人に触られたのは初めてで、あまりの快感に脳が沸騰しそうだった。
「あっ…………んんぅ……もう…………」
「ここも感じる?」
一旦口唇から離れたユーリは、今度は整えられた長い指でマリナの舌先を擦って刺激を与え、耳朶を軽く喰みながら耳元で囁く。
「やっ……んんっっ……!!!」
甘い声で囁かれた瞬間、体の奥から突き上げてくる衝動に抗えず、一瞬意識を飛ばしてしまう。
好き勝手していたユーリがゆっくりと離れ、マリナは荒い息を吐きながら口唇から出ていった指から垂れる唾液の細い銀の糸がふつりと切れる様を目で追う。
「これくらいでイクとか……さすが魔王。感度いいね」
身体を起こしたユーリは、マリナの唾液で濡れた自分の口唇を親指でぐいっと拭いそう言い放つ。
そんな姿がなんとも色っぽく思えるとは、どうかしてしまったんだろうか。
「な……で……」
「なんでって……はああ……次代がこんなんじゃ当代も心配だろうなあ」
(当代って、お祖父様のこと?)
オージェ家当主とはまた別の、代々受け継がれる、家業「魔王」。
必ずしも子供に次の世代が受け継がれるわけじゃなく、「シルシ」を持った者だけが「魔王」となれる。
残念がら父の代にそのシルシは発現せず、今は家を出ている2つ上の兄にもシルシはなかった。
それがマリナに発現したため、次の魔王はマリナになることは決定事項となっている。
シルシが現れなければ、何年も魔王が空席のままのこともあると当代である祖父は言っていたが。
「ま、いいや。俺は君を征服できればそれでいいし」
「せいふく……?」
言われた言葉が思い浮かばず、自身もソファから身を起こしながら「どういうこと?」と聞きたかったのに、再び塞がれる口唇にマリナは言葉を飲み込む。
またシルシをユーリにくちゅくちゅと優しく弄られて、飲み込めないほどの唾液が溢れ出す。
「甘いね……気持ちいい?」
「ふうぅ……んんっ……」
身体の中からトロっと何かが溢れたような気がして、無意識に膝先をもじもじと擦り合わせる。
きもちい……なにも……かんがえられ……なく……。
与えられる快感を追うことに精一杯で、いつの間にかユーリに縋り付くような格好で制服の襟を握り締めていることにも気付かなかった。
「……ここまでか」
絡まっていた舌が解かれ、ユーリがマリナから顔を離す。
片端の口角を上げ、ぼうっとしたままのマリナの口唇を優しい手付きで拭うと、視線を扉へと向ける。
鍵がかかっていた扉がガチャガチャと音を立てて漸く開き、入ってきたのは昨日も会ったゲネルだった。
「ゲネル……?」
「お嬢、大丈夫?」
ソファに押し倒されているマリナを素早く見つけて足早に近寄ってきたゲネルは、伸し掛かかったままだったユーリを押し退けその場から引きずり出す。
「先輩、戻ってきたんだ」
「先輩……?」
ユーリがゲネルを「先輩」と呼んだ。
そうだ、去年までゲネルもアカデミーにいたんだ、先輩っちゃ先輩になるのか。
「ユーリウス、お嬢に何をしたの?」
「何って確認しただけですよ、シルシのね」
近寄りながらそう言ってユーリは、ゲネルによって引き離されたマリナの顎をつかみ、右手の指を2本口の中へ突っ込んだ。
男性にしては長くて綺麗なユーリの指が、さっき散々擦られた舌先のシルシを優しく挟み擦る。
「ああん……んぅっ……」
すぐにやってくる快感に、口の端から涎を垂らしながら、びくんびくんと身体を跳ねさせてまた感じてしまう。
ゲネルはそんなマリナをユーリから隠すように引き剥がし、さらに強く抱き寄せた。
「知らなかったんですか、ソレ」
「お前には関係ないよ」
聞いたことないような低い声でゲネルが唸る。
「関係ないってことはないでしょーよ」
忌々しげにユーリを見るゲネル。
こんな表情をしたゲネルを、マリナは見たことがなかった。
「黙って、ユーリウス」
「なんで隠すの。放っておいてもすぐにバレるのに」
マリナを差し置いて会話する二人。
一体何の話をしているの?
会長は何がいいたいの?
ゲネルは何を隠してるの?
「あの……二人とも、何の話……」
やっと頭が働くようになって、二人の会話に割って入る。
「大事に大事に守ってきたお姫様に、隠し事は良くないんじゃ?」
「黙ってって言ってるでしょう」
どう考えてもマリナの話をしているのに、放って置かれるのは何だか嫌な感じがする。
「君、本当に気付かなかったの?」
「黙れって、ユーリ!」
ゲネルが焦ってユーリを止めようとする。
そんなゲネルを嘲笑うように、実に楽しげにユーリがマリナを向いて告げた言葉は……。
「俺が『勇者』だって」
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