よわよわ魔王がレベチ勇者にロックオンされました~コマンド「にげる」はどこですか~

サノツキ

文字の大きさ
32 / 78
#3:慣れてきた学院生活~新たな出会い

#3-2.運動不足は否めない

しおりを挟む
 久しぶりに踊って喉が渇いていたマリナは、レイアに用意してもらったアイスティーを遠慮なく戴くことにした。
 テーブルの向かい側に座るオーリーは、グラスを前に背の高い身体を縮こめて俯いて黙りこくっている。

「あの……わたしの事人形だと思ってたって。その『自動人形オートドール』ってなんですか?」

 実際にマリナの事を「自動人形オートドール」と言ったのはオーリーだが、こちらを見てくれないのでレイアにそう聞いてみた。

「彼、ご覧の通り随分背が高いでしょう?それに、ほらこの無愛想さ。だから幾らダンスが上手でも彼とダンスを踊って下さるパートナーがおりませんの。なので、普段は自動人形オートドールという魔力を付加されてダンスの動きをプログラミングされた人形を相手に練習しているのですわ」
「なるほど」

 男性側の身長なんて単純に高ければいいと思っていたが、まさか高すぎるのも問題があるとは。
 それに無愛想って……確かに踊っているときはしっかり笑顔を貼り付けていたのに、俯いた顔を覗き込めば、今は見る影もない。何なら眉間のシワが深い。
 せっかくの綺麗な顔が台無しだ。

「オーリーさん、ダンスを踊っているときは笑顔でしたし、話もしていましたよね」
「…………」
「オーリー?」

 相変わらず表情の消え失せたオーリーは、手元のグラスを見つめたまま口元をぎゅっと結んでいる。
 レイアに睨まれてやっと顔を上げマリナの方を見た。

「オ、オ、オレは……そ、そ、その……」

 やっと顔を上げたと思ったのに、目が合った途端オーリーはまたもや顔を赤くして俯いてしまった。

「仕方ありませんわね……マリナさん、ご覧の通りオーリーは極度の人見知りといいますか……人形相手ならいくらでも話せるのですけれど、どうも相手が人だと言葉が出ないようで、本当に困った人ですの。さっきも、貴女を人形だと思っておりましたので話せただけですわ」
「なるほど」

 だが、レイア相手だとオーリーも普通に話したように見えた。
 それだけ仲良いんだろうか。

「ああ、わたくし?オーリーは従兄弟ですのよ。小さい頃からの付き合いで慣れているだけですわ」
「なるほど」

 そんな様子じゃ初対面の自分と話せるわけはないか。

(うーん……うーん……こんな時「下僕化チャーム」を使えばオーリーさんは楽に話せるんだろうけど、でも本人の意志を無視するのもなあ……)

 そもそも下僕化チャームで話してもらっても嬉しくないし、本人のためにもならない。
 上手く解除できないとハロルドのような前例もあるし、万が一……ということもある。

「レイアさんとオーリーさんが踊れれば問題ないでしょうに、残念ですね」

 これだけ気心知れた相手で仲が良いのだ、身長差さえクリア出来ればお互い申し分ないパートナーになれただろうに。

「マリナさん、それは出来ませんわ」
「レイアとは…………嫌だ」
「なるほど」

 お互いそれは望んでないと。

「わたくしもオーリーもリーダーだから、反りが合わなのですわ」
「リードしたい側ってことですか」
「そういうことですわね」
「なるほど」

 ダンスは男性がリードするものと思っていたけど、レイアは女性なのにリードする側なのだ。
 この二人が合わない理由は身長差だけじゃなかったのか。
 それでも、男性側のほうがパートナーを見つけやすいように思うのだが。

「ですから、先程ここを覗いている貴女を見かけて、貴女のような方がオーリーと踊ってくださったらどんなに素敵かと。まさかこのバカが貴女を人形と思うだなんて……」

 レイアにひと睨みされて、ひゃっと声を上げてオーリーが尚更肩を竦めて縮こまる。

(ふふっ、レイアさんに叱られて可哀想なのに何だか可愛い)

「もう怒ってないですよ。オーリーさんも顔を上げて下さい」
「ひゃ、ひゃい!」

(もう、挙動不審すぎですってば。仕方ないなあ)

「わたしで良ければ、ダンスのお相手にしていただけますか?」
「…………本当?オレ…………と、踊っ……てくれる、の?」

 向かい側からおずおずと手を伸ばされ、指先をそっと握られる。
 漸くマリナの方を見て目を合わせてくれたオーリーは、赤い顔をして少し泣きそうな表情だ。

「わたし程度で務まるか自信はありませんけれど」
「…………君、がいい、…………君じゃ、なきゃ、嫌だ」

 見開かれたエメラルド色のキラキラした瞳と目が合う。
 さっきまでのしおれた人とは別人のような変貌ぶりに、いかに彼がダンスを大事にしているのかが伝わってきて、マリナは苦笑しながらも「わかりました」と応じるしかなかった。
 オーリーの人見知りとは少し違うけれど、領地引きこもりで人付き合いの苦手だったマリナには他人事とは思えないのだった。

 ・‥…‥・◇・‥…‥・◇・‥…‥・

「腕の角度が5°曲がっているぞ」
「はい」
「ステップが左に半歩ズレている」
「はい」
「顔の向きをもう少し右に」
「はい」
「スウェイが甘い」
「はい」

(細かいっっっ!!!」

 休憩を終え、マリナの事を『自動人形《オートドール》』から『人間』へと認識を改めたオーリーとダンスを再開した途端、告げられる指摘は容赦なかった。

 オーリーとダンスを踊りたくないご令嬢方の気持ちが理解ったような気がする。
 でも、こんな程度、マリナが習いたての頃にみっちり受けたシゴキのほうが、数倍キツかった事を考えれば笑顔で受け流せる。
 オーリーの言う事も理不尽さはなく、至極真っ当な指摘だ。細かいけど。
 それに、オーリーの凄い所は、これを笑顔を崩さぬまま言ってることだろう。

(ホント、板に付いてるっていうか仮面被ってるっていうか。綺麗な顔した完璧笑顔怖い)

「次行くぞ」
「……はい」

(…………取り敢えず体力をつけて、置いて行かれないようにしないと!)

 アカデミーへ来て暫く休んでいたトレーニングを再開せねばと、マリナは頭に効率の良い体力向上メニューを浮かべた。

 ・‥…‥・◇・‥…‥・◇・‥…‥・

「いたっっ……も、もうちょっと優しく……」
「こうかな……っと」
「ああ……うぅんっ……はぅっ」

 ちょっとだけのつもりが、間に休憩を挟んでいたとは言え、あれからたっぷり3時間も踊ることになろうとは……。
 ここまでしっかりと踊ったのは、練習を始めた頃「一通り身体が覚えるまでやりきる」と指導していただいた先生に言われて踊って以来だ。
 あれは随分前だしあの頃は若かった……いや、今も16歳でまだまだ若いとは思うけれども。

 ああ、それとデビュタントの前に……。

「なにやってこんなに凝ってるの」
「ダンスをちょっと……」
「ダンス……ねえ」

 社交界へのデビュタントを控え王都へ行かず領地でお披露目パーティーをした時、マリナの相手パートナーとして踊ってくれたのはゲネルだった。
 パーティーの前日、不安で失敗したくなくて散々練習に付き合ってもらったのもゲネルで、当然のごとく脚が痛くなってこんなふうにマッサージしてもらったのを思い出した。

「はうぅ……あ、そこ……きもちい……」

 ゆるゆると足裏から脹脛へと大きくて温かい手が這う。
 オイルをまとった掌は滑らかに一定のリズムで脚を撫で上げ、筋肉を揉みほぐし、緊張を解いていく。
 久しぶりの運動で凝った筋肉は、ゲネルの的確なマッサージによって次第にほぐれ、痛みから気持ちいい感覚に変わっていった。

 日課となったお茶を飲んで身体も温まってるし、痛かったマッサージも気持ち良くなってきたし、今日は運動もして、もう……眠……い…………。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。

あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。 宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。 対極のような二人は姉妹。母親の違う。 お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。 そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。 天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。 生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。 両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。 だが……。運命とは残酷である。 ルビアの元に死神から知らせが届く。 十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。 美しい愛しているルビア。 失いたくない。殺されてなるものか。 それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。 生まれてくる価値のない、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。 これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

処理中です...