よわよわ魔王がレベチ勇者にロックオンされました~コマンド「にげる」はどこですか~

サノツキ

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#3:慣れてきた学院生活~新たな出会い

#3-1.すーはーすーはーされました

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 どこから見て回ろうか。
 マリナはクラブ紹介の冊子を見ながら考えていた。

 生徒会の手伝いが週に何回かあることから、毎日活動するようなクラブは迷惑がかかる……という理由で、運動部系は除外する。
 それに、部員が大勢いる所もやはり難しいと思う。
 文化部系に絞るとして、主な所は……。

 料理部、スイーツ部……美味しそうではあるが、マリナは屋敷の厨房に出禁を食らっていた。
 小さい頃、厨房で何かやらかしたことが原因だと思うのだけど、いまいち思い出せない。
 美味しいものを食べる事は好きなんだけど……と独りごちる。なぜ?

 生花部、園芸部……なぜか切り花どころか植木も観葉植物もマリナが世話をすると枯れてしまう。
 庭師に聞いたところ「構いすぎです」と言われた。
 そう言われてみれば、水を撒き過ぎていたような気がしなくもない。
 植物は光と水を与えれば育つと聞いて可愛がっていたのに、イマイチ植物に自分の愛情は伝わらないようだ。なぜ?

 絵画部……見るだけでもよくわからないのに描くとなると……。
 昔、マルセルに頼まれて可愛い猫を描いたら、魔物を見るかのように大泣きされショックを受けたのを未だ忘れていない。
 ゲネルは「お嬢は特別な才能がある」って言っていたのに。なぜ?

 娯楽部……ビリヤードやダーツやチェスやトランプで誰にも勝てたことがない。
 唯一メルだけには勝てていたが、負けっぱなしなのが可哀想だから負けてくれたのだ。わかってる。
 勝敗だけが楽しみじゃないとしても、弱いばかりなのは面白くない。
 ゲネルにもマルセルにも「ギャンブルに向いていない」って言われた。なぜ?

 管弦楽部……楽器類は、演奏すると耳が痛くなるから遠慮しておく。

 声楽部……ひ、人前で歌うなんて、絶対に無理!

 合奏部……カ、カスタネットぐらいなら出来るだろうか。

 ……見学に行く前から随分候補が減ってしまった。

 ・‥…‥・◇・‥…‥・◇・‥…‥・

「ごきげんよう」

 何をしているんだろうと両開きのガラス扉越しに覗いていると、中から人が出てきて声を掛けられた。
 そこは「ホールA」と書かれた部屋の前。
 紹介冊子を見ると「社交ダンス部」とある。

「新入生の方ね?どうぞ中へ。見学だけでもいいから見ていらして」
「い、いえ。わたしは……」

 するっと腕を取られてホールの中へと案内される。
 中はホールと言うだけあって広く、3組ほどがフロアに出て5、6人ほどが周りにいる。
 片側の壁は一面鏡で、それがより一層ホールを広く見せているようだ。

「貴女どちらの方?社交ダンスの経験……はお有りよね?決まったパートナーはいらして?」

 中へ入れてくれた女性、オレンジ色の明るい髪にパッチリと大きな茶色い瞳の小柄で可愛い人は、すっとマリナに一瞥をくれ矢継ぎ早にそう質問してくる。
 リボンの色は2年生だ。

「あ、出身はウルバーンです。はい、一応踊れますけど、そんなに上手では……。パートナー?」
「そう……」

 彼女は人差し指を顎に当て、可愛らしく小首を傾げて改めてマリナを上から下までじっと見る。

「ねえ、踊れるようなら少しお相手願えないかしら?オーリー、オーリー!いる?」
「あの、わたしホントにそんなに踊れませんから」
「いいのよ、軽くでも踊れれば。ねえ、オーリー!」

 王都でデビュタントを迎えていないマリナは、自分がどの程度踊れるレベルなのかわからない。
 一応「恥ずかしくない程度」には習ってきた……つもりではある。
 相手はほとんどゲネルかマルセルではあったが。
 それに、本格的に夜会で踊ったのなんて数えるほど、片手で足りるぐらいしかない。

「…………なに?」
「オーリー、こちらの方と踊ってみて。貴女名前は?」

 女性に呼ばれて目の前にやってきた男性、オーリーは、水色の長い髪を頭の高い位置で一つにくくった背の高い人だった。
 この人のタイも同じ色───2年生か。
 ……寝起きなのか機嫌が悪いのか、表情がごっそり抜け落ちてる感じがなんとも場にそぐわない。

「マリネッテです」
「そう、マリネッテさん。わたくしはフレイア、フレイアとでもレイアとでも好きなようにお呼びになって」
「では、わたしの事もマリナと」

レイアはそう言って小柄な身体でマリナを見上げた。

「マリナさん、その身長だとダンスの相手に困るのではなくて?」

 確かに、マリナは女性にしてはひょろがりで身長が高いほうだ。
 改めてそう言われると、この身長でダンス用の靴を履くと同級生の男子たちと並ぶか、下手をすると抜かすかもしれない。
 けど、まあ、そんなに積極的に踊りたいわけでもないし、壁の花になったって今までだって別段困りはしない、とマリナは今まで気にしたことはなかった。

「ささ、踊ってみて。オーリー、呆けてないで早くマリナさんの手を取って」
「…………お手をどうぞ」
「は、はい。よろしく願いします」

 軽く手を取られて腰を支えられたダンスの基本姿勢。
 曲が始まると、オーリーは、さっきまでの無表情が嘘のように笑顔を浮かべて滑らかに踊りだす。

「ほう……これはなかなか」

(うわ、この人上手だわ)

 初めて踊ったにしては完璧に合わせてリードしてくれるから、とても踊りやすい。
 それに、マリナとの身長差がちょうどよく姿勢を保つのに無理がない。

「うん、まあまあのプログラミングだ。抱き心地も悪くないな」
「???」

 プログラミングとは何のことだろう?

(それに抱き心地って……/////)

「それにしてもよく出来てるな、君はどこの製造者メーカーなんだ?」
「えっと……あの……」
「ああ、すまない。自動人形オートドールに会話はプログラミングされてないよね」
「おーとどーる……?」

(なんだか会話が噛み合っていない気が……?)

「大体ここに製造者メーカーの刻印が……」

 そう言ってオーリーは、踊りを続けながら器用にマリナの首元のリボンを解き、ブラウスのボタンを外して胸元を寛げる。
 指先でくっと下着を押し下げられ、谷間が露わに……。

「ひゃああ!!な、何するんですか!」

 漸く我に返ったマリナがオーリーを突き飛ばすも、しっかりと腰をホールドされているので抱き寄せられたままジタバタともがくことしか出来ない。

「え?あ?ちょっと……?君って、柔らかいし温かい……」
「あ、あ、当たり前じゃないですか/////」

 人のことを何だと思ってるのか、すぐさま離して欲しい!!

(やだ、胸元に顔を埋めないで!!)

「甘い匂いがする……レイア、最近の自動人形オートドールは良く出来てるんだね」
「オーリー……?」

 レイアは靴音も高くこちらへ近寄ってくると、小柄な身体に似合わない力強さでオーリーとマリナを引き剥がしてくれた。
 その隙に乱された胸元を慌てて直す。

「今までバカだバカだと思っていましたけど、貴方本当にバカですわね。人と自動人形オートドールの区別も付きませんの?」
「な!そんなわけ……って、あ?え?……人……?」

 ダンス中に張り付いてた笑顔は跡形もなく、オーリーは真っ青な顔でマリナを指差し呆然とした。
 直ぐに赤くなってまた青くなって……を繰り返し、やおらその場に土下座せんばかりの勢いで突っ伏した。

「ももももも、申し訳ないっ!!!あまりにも完璧で理想のパートナーが目の前に具現化したものだから、てっきりレイアが用意した自動人形オートドールかと」
「わたしを、その『おーとどーる』って言うのと間違えたってことですか?」
「ほほほほほ、本当に申し訳ない」

(まあ、悪気がないなら仕方ないか……。ちょっと胸元見られたぐらいで実害はないし)

 壁面の鏡を見ながらきちんと制服を元に戻しレイアを見ると、彼女の怒りは収まったようで、やれやれと言った感じでオーリーを見下ろしている。

「オーリー立って。ねえ、マリナさん、宜しければ向こうでお茶しません?」

 そう言えば、緩やかな曲だったとは言え数曲続けてダンスを踊って喉がカラカラだ。
 マリナは有り難くその申し出を受けることにした。
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