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#3:慣れてきた学院生活~新たな出会い
#3-4.起床時間は午前5時半
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マリナはしっかりとマッサージを受けたのにも関わらず、数時間ダンスを踊っただけで筋肉痛に襲われたことに運動不足を感じ、自主トレを始めることにした。
(まずはランニングからよね)
カーテンを開け、夜が明けたばかりの朝の少し冷えた清浄な空気で深呼吸する。
今日もいいお天気になりそうだと、雲ひとつ無い空を見上げた。
・‥…‥・◇・‥…‥・◇・‥…‥・
「あ……ケンティス先輩?おはようございます」
「お……はよう。どうした、こんな早くに」
マリナは、「自主トレと言えば取りあえずランニングだろう」と寮の門を出た所で、同じようにトレーニングウェアを着たケントと出会った。
今まであまり近くで会うことがなかった為さほど意識したことはなかったが、並び立つ程間近でケントを見るのはほぼ初めてだ。
マリナの身長を持ってしても見上げるほどの立派な体躯は、背が高いだけでなく広い肩幅と大きな背中、それが一朝一夕で出来たものではない長年掛けて随分鍛え上げられた身体だと物語っている。
「えっ……と、ランニングをしようと思いまして」
「どうしてまた」
まあケントが疑問に思うのももっともだろう。
いい家の貴族のご令嬢はトレーニングで走ったりしない。多分。知らないが。
「実はダンス部に入ったんですが、普段使わない場所なのか思ったより結構な運動量なのか、ちょっと……あの……筋肉痛が……ですね」
そう言うと不思議そうな顔をされた。
ダンスごときで筋肉痛になるなんて軟弱者!とかって呆れられてる!?
「家にいた時にはこれでもいろいろトレーニングしていたんですけど、寮に入ってからは全然していなくて……いつの間にかかなり身体が鈍ってたみたいです」
「そうか」
ついいらないことまで言ってしまったかもしれない。
マリナの必死な言い訳が伝わったのか、ケントは苦笑しながらも納得してくれたようだ。
「なので取りあえずランニングから始めようかと」
手っ取り早いトレーニングと言えばランニングだろうと思い安易に外に来てみたが、何かマズかっただろうか。
何か考え込む風のケントを見ていると不安になってくる。
「君さえ良ければ、走りやすいコースを教えよう」
「本当ですか。実はどこを走ったら良いのかわからなくて……助かります」
「ああ」
(あれ?思ったより面倒見が良い?)
張り切って外に出たはいいものの、どこをどう走ればトレーニングになるのか全く考えてなかったマリナにとって、ケントの提案は正に渡りに船だった。
それからマリナはケントと並んで走り始め、比較的アップダウンの少ないなだらかなコースを、ゆっくりと2周ほど走った。
久しぶりに走ったこともあって、最後の方など歩いたほうが早いのでは?と思えるほどのスピードだったが。
「はあっはあっ……ダメですね、全然走れません」
「いや、動けている方だろう。毎日走っていけば身体も慣れてくる」
(すみません、先輩に気を遣わせてしまって!)
屋敷にいた頃は、ランニングをする時はメルが付き合って、コースを考えたりタイムを測ったりしてサポートしてくれていた。
(あれって、随分助かっていたんだなー)
なかなか整わない息を乱しながら、屋敷に置いてきたメルのことを思い出す。
仕方ないがメルがいない以上、一人で頑張らねば。
「初めから無理することはない」
ケントはそう言って慰めてくれた。
社交辞令にしても随分優しい人だと思いつつも、はたと気付く。
(あれ?わたしのランニングなんかに付き合わせてしまって、先輩のトレーニングは全然出来ていないのでは?)
ケントを見れば、息を乱すこともなく汗一つかいていない。
恐らく生徒会の後輩だからと放っておけなかったケントの好意に甘え、自分のトレーニングに巻き込んでしまったことに気付きマリナは青くなって謝った。
「すみません、先輩のランニングの邪魔をしてしまって」
「邪魔なんかじゃない。オレも久しぶりにあのコースを走って新鮮だった」
「だったらいいんですけど……」
そう言って薄く微笑むケントを見て、やはり面倒見がいい先輩なのだなとほっとする。
「汗をかいたろう。冷えると風邪を引く。もう戻るといい」
「あ、そうですね。今日はありがとうございました」
「ああ」
これ以上トレーニングの邪魔をしてはいけない。
初日にしてはかなり走ったしもう十分だろうと、マリナは寮へと戻ろうとした。
「あ、明日も、この時間走るから……」
(え?ナンテ?)
後ろから聞こえてきた声に立ち止まり振り返ると、ケントがさっきより少し赤い顔でじっとマリナを見ていた。
「ご一緒していいんですか?」
「構わない」
今まであまり話したことがなかったからよくわからなくて怖そうな人だと思ってたけど、一見無愛想に見えるこの言い方って。
「わかりました。じゃあまた明日」
「ああ」
(やった!ランニング仲間が出来た!)
トレーニングとは言え一人でするのも味気ない。
屋敷にいた頃のようにメルもいないのだ。
(慣れるまで……)
そっぽを向く先輩の耳が赤くなってるのは黙っておこう。
やはり思った通りケントは後輩思いで、自分の事も単純に放っておけないだけなのかもしれないが。
ケントの邪魔にならない程度で付き合ってもらおうと、マリナは「少しの間だけ」と甘えさせてもらう事にした。
(まずはランニングからよね)
カーテンを開け、夜が明けたばかりの朝の少し冷えた清浄な空気で深呼吸する。
今日もいいお天気になりそうだと、雲ひとつ無い空を見上げた。
・‥…‥・◇・‥…‥・◇・‥…‥・
「あ……ケンティス先輩?おはようございます」
「お……はよう。どうした、こんな早くに」
マリナは、「自主トレと言えば取りあえずランニングだろう」と寮の門を出た所で、同じようにトレーニングウェアを着たケントと出会った。
今まであまり近くで会うことがなかった為さほど意識したことはなかったが、並び立つ程間近でケントを見るのはほぼ初めてだ。
マリナの身長を持ってしても見上げるほどの立派な体躯は、背が高いだけでなく広い肩幅と大きな背中、それが一朝一夕で出来たものではない長年掛けて随分鍛え上げられた身体だと物語っている。
「えっ……と、ランニングをしようと思いまして」
「どうしてまた」
まあケントが疑問に思うのももっともだろう。
いい家の貴族のご令嬢はトレーニングで走ったりしない。多分。知らないが。
「実はダンス部に入ったんですが、普段使わない場所なのか思ったより結構な運動量なのか、ちょっと……あの……筋肉痛が……ですね」
そう言うと不思議そうな顔をされた。
ダンスごときで筋肉痛になるなんて軟弱者!とかって呆れられてる!?
「家にいた時にはこれでもいろいろトレーニングしていたんですけど、寮に入ってからは全然していなくて……いつの間にかかなり身体が鈍ってたみたいです」
「そうか」
ついいらないことまで言ってしまったかもしれない。
マリナの必死な言い訳が伝わったのか、ケントは苦笑しながらも納得してくれたようだ。
「なので取りあえずランニングから始めようかと」
手っ取り早いトレーニングと言えばランニングだろうと思い安易に外に来てみたが、何かマズかっただろうか。
何か考え込む風のケントを見ていると不安になってくる。
「君さえ良ければ、走りやすいコースを教えよう」
「本当ですか。実はどこを走ったら良いのかわからなくて……助かります」
「ああ」
(あれ?思ったより面倒見が良い?)
張り切って外に出たはいいものの、どこをどう走ればトレーニングになるのか全く考えてなかったマリナにとって、ケントの提案は正に渡りに船だった。
それからマリナはケントと並んで走り始め、比較的アップダウンの少ないなだらかなコースを、ゆっくりと2周ほど走った。
久しぶりに走ったこともあって、最後の方など歩いたほうが早いのでは?と思えるほどのスピードだったが。
「はあっはあっ……ダメですね、全然走れません」
「いや、動けている方だろう。毎日走っていけば身体も慣れてくる」
(すみません、先輩に気を遣わせてしまって!)
屋敷にいた頃は、ランニングをする時はメルが付き合って、コースを考えたりタイムを測ったりしてサポートしてくれていた。
(あれって、随分助かっていたんだなー)
なかなか整わない息を乱しながら、屋敷に置いてきたメルのことを思い出す。
仕方ないがメルがいない以上、一人で頑張らねば。
「初めから無理することはない」
ケントはそう言って慰めてくれた。
社交辞令にしても随分優しい人だと思いつつも、はたと気付く。
(あれ?わたしのランニングなんかに付き合わせてしまって、先輩のトレーニングは全然出来ていないのでは?)
ケントを見れば、息を乱すこともなく汗一つかいていない。
恐らく生徒会の後輩だからと放っておけなかったケントの好意に甘え、自分のトレーニングに巻き込んでしまったことに気付きマリナは青くなって謝った。
「すみません、先輩のランニングの邪魔をしてしまって」
「邪魔なんかじゃない。オレも久しぶりにあのコースを走って新鮮だった」
「だったらいいんですけど……」
そう言って薄く微笑むケントを見て、やはり面倒見がいい先輩なのだなとほっとする。
「汗をかいたろう。冷えると風邪を引く。もう戻るといい」
「あ、そうですね。今日はありがとうございました」
「ああ」
これ以上トレーニングの邪魔をしてはいけない。
初日にしてはかなり走ったしもう十分だろうと、マリナは寮へと戻ろうとした。
「あ、明日も、この時間走るから……」
(え?ナンテ?)
後ろから聞こえてきた声に立ち止まり振り返ると、ケントがさっきより少し赤い顔でじっとマリナを見ていた。
「ご一緒していいんですか?」
「構わない」
今まであまり話したことがなかったからよくわからなくて怖そうな人だと思ってたけど、一見無愛想に見えるこの言い方って。
「わかりました。じゃあまた明日」
「ああ」
(やった!ランニング仲間が出来た!)
トレーニングとは言え一人でするのも味気ない。
屋敷にいた頃のようにメルもいないのだ。
(慣れるまで……)
そっぽを向く先輩の耳が赤くなってるのは黙っておこう。
やはり思った通りケントは後輩思いで、自分の事も単純に放っておけないだけなのかもしれないが。
ケントの邪魔にならない程度で付き合ってもらおうと、マリナは「少しの間だけ」と甘えさせてもらう事にした。
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