よわよわ魔王がレベチ勇者にロックオンされました～コマンド「にげる」はどこですか～

＃４：宿泊研修～準備編

＃４－余談５③．お互い「自分のほうがマシ」と思っている

　暫くお嬢の部屋の外で待っていると、そっと扉が開き辺りを窺うようにメルが出てきた。
　後を付けると自室に戻り、ごそごそと着替えているようだ。

「お前、女のフリしてお嬢のメイドしてるとか、どういう事？」
「な！」

　バレてないと思っていたのか、いつもの無表情で無愛想な顔を歪ませたメルが珍しく狼狽えている。
　そして室内には微かに漂う、さっき自身が放って嗅いだばかりのオスの匂いが。
　そうか、お前も……。

「騙してない、マリナ様が勝手に女だと思ってるだけ」
「だからって……」

　入浴の手伝いとか、男だってバレたら絶対ムリだろう。
　元に、お前もお嬢に欲情してるじゃないか。
　わ、私なんて声だけで……なのに、お前はお嬢のは、は、はだｋ……。

「お前こそ、さっき風呂場覗いてただろ」
「覗いてない、聞いてただけ……あ」

　なんで私があそこにいたのがバレた？

「やっぱりお前か、覗き魔、変態」
「うるさい、女装した変態に言われたくない」

　随分と間抜けな言い合いをしている気がする。

「……やめよう」
「そうだな……」

　鍛錬しはじめの頃は全く私相手に刃が立たなかったメルは、父に鍛えられてメキメキと腕を上げ、体術と魔法のみの自分とは違い各種暗器を用いて強くなった。
　いつかお嬢が公爵家のご当主に就いた時、影で支える筆頭が自分であるのに変わりはないし、譲る気も毛頭ない。
　だが、お嬢が女性である以上、自分が踏み込めない場は必ずある。
　メルなら、自分が認めた相手なら……。

「戻ろう」

　そう声を掛けてこちらを見た顔は、珍しくニヤリと口角を上げており、やっぱりどうやっても男の顔で。
　早くバレればいいのにと、信じてもいない神に生まれて初めて心から願った。