白雪の巫女〜捨てられた私が手にしたのは女の子になるだけの役に立たない魔導書だった〜

水先 冬菜

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役立たずの魔導書

魔人

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 この世界には魔物の他にと呼ばれる種族がいる。

 そもそも魔物とは、人の負の思念が集まって生まれた思念集合体だ。

 人の憎しみ、悲しみ、怒りなどの感情をエネルギー源として、そういった感情の集まり易い場所------------いわゆるダンジョンに出現する。

 基本、魔物はダンジョンの外へ出る事はない。

 ダンジョン程、負の感情えさが溜まっている場所は少ないからだ。

 だが、極稀ごくまれにダンジョンの外へ出るタイプがいる。


 それがだ。


 獣の姿から人の姿へと突然変異で進化した魔物上位種で、殺戮さつりくと破壊を好み、戦闘能力が非常に高い。

 しかも、再生能力が異常で、剣だろうが魔法だろうが体を一瞬で復元されてしまうため、討伐は不可能とされている。

 古代の歴史書にも、魔人を討伐出来た試しはなく、一体の魔人に国そのものが滅ぼされたとさえある程だ。

 それ故に、魔人は人の手では倒せない存在ものというのが、この世界での共通見解だ。

 魔人を見かけたら、死を覚悟しろ。

 苦しみたくなくば、すぐに命を断て--------とは、良く聞かされたものだ。

 今でも魔人の被害は教会でも良く耳にする。

 先日も魔人によって、成すすべもなく、隣の国が一つ滅ぼされたと、礼拝れいはいに訪れた方が話しているのを耳にした。

 それ故か、最近では教会を訪れる人が多い。

 皆、不安なのだ。

 隣の国が滅びた今、いつこの国にも魔人の脅威が降りかかっても可笑しくはない。

 、彼らはここに訪れたのだろう。

 魔人を退けたいが為に…………。

 私は「分かりました」と頷き返すとさっそく準備に取り掛かろうと立ち上がる。

「待ちなさい…………」

 すると、初めて向かいの女性が言葉を発し、私を制止した。

「何でございしょうか?」

「まさか、あなたが出向くつもりではないでしょうね…………?」

「はい。そのつもりです」

「あなた、理解しているのかしら? 相手は魔人なのよ?」

 女性は背けていた顔を私の方に向けると真剣なで諭すように話始めた。

 ええ、そうですよ。

 相手は魔人です。

 何当たり前の事言っているのだろうか。

「正直に言わせて貰うけど、あなたのような子供が魔人と戦えるとは思えないわ。私達は遊んでいる暇もない程忙しいの。あなたも、そして、マリア様もいい加減ふざけていないで、早くを出しなさい」

 女性はニコリと笑ってはいるが、目が笑っていない。

「ふざけてはいませんよ。私がそのですから…………」

 私がニコリと微笑み返すと、女性のキッと睨みつけて来た。

 私とマリア様は笑みを浮かべたまま、どうしようと困ったように頬を描いた。

 そして、しばらく私達を睨みつけた後、女性は呆れたように大きくため息をついて、立ち上がった。

「行きましょう。お父様、ここにいても時間の無駄ですわ」

「そのようだな…………」

 男性の方も立ち上がると、二人揃って出口の方へと歩んでいく。

「マリア殿。あくまでもと会わせないというのであれば、こちらにも考えがありますからな」

「そう言われましても、彼がそのユキハですので…………」

「…………覚悟しておけよ…………!!!」

 男がそう言い残して、部屋を出て行くと、私は思わず頭を抱えたくなった。

 チラッとマリア様の方に視線を向ける。

 こういう場合、絶対に碌な事にはならない。

 このパターンだと、恐らくは二、三日中に王国軍の騎士やら兵やらを連れて、また来るだろう。

 普通ならここで絶望なり、慌てふためく所なのだろうが--------マリア様はというと…………。

「ねえ、聞いた!? 覚悟しておけよ!! だってえ~!!! きっと騎士団とか連れてさ。痛い目を見たくないのならば、何をするべきか分かっておろう。とか、言っちゃうよ! あいつ!!」

 めっちゃハイテンションだった。

 というか、心から喜んでいる。

 まるで、イタズラに成功して、はしゃいでいる無邪気な子供の如く。

 こうなったマリア様はもう誰にも止められない。

 正直、この状況もわざとそうしたんじゃないかと疑いたくなるくらいだ。

 とりあえず、私がこれからするべきは一つだけ…………。

 気が重いがやるしかない、か…………。

 興奮冷めないマリア様を放っておいて、私はとある作業に取り掛かった。

 
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