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しおりを挟むニックはそう言って、私達一人一人を見つめた。自分を呼んでおいて、少しも話が進まない事に怒っているようだ。こう言う普段穏やかな人が怒ると怖いのだ。テオバルトもリヒャルトもそう思っているらしく、無言で頷いて、大人しく話をする姿勢になっている。
「私とリヒャルトは、最初は偽番の魔道具の機能を上げることを目標としていました。ですが、魔術師の中でも本当の番が見つかって離縁になって、ばらばらになる家庭を見て、番がいかに有害か思い至りました。元から絶たなきゃ駄目だと」
うーん、元から絶たなきゃ駄目って。害虫か雑草か。ニックがそこまで言って、テオバルトを見つめた。強い視線でそれを受けて、テオバルトは訝しげにニックを見返した。
「殿下は先祖返りで、番を求める気持ちが強いと言われていますが、それはどんなふうに感じるのですか」
ニックに問われたテオバルトは、握り拳を顎に当てて視線を天井に向けて考えた。
「……何かもどかしいような、満足しないような……痒いところに手が届かないような……いつも現状に満足できないのは確かだ」
「その気持ち必要ですか?」
「え?」
ニックが淡々と言う。
「王太子としての義務、王族として国民を守る義務を果たすのに、意味のない、いつも満足できない気持ちは必要ですか。政略結婚した配偶者とも向き合わないで、この世界にいるかわからない番に気持ちが向いている状態は本当に必要ですか」
ニックが淡々と言っているその内容は、テオバルトに深く刺さったようだ。
「……そうだな。番を求める気持ちは幸せをもたらすわけでは無いな……」
「いえ、私は害悪でしか無いと思いますよ」
それまで黙っていたリヒャルトがきっぱりと言い切った。
「私の先祖のように番を見つけても、相手が人間で番を認識できないのに、攫うように連れて来ても、殺してしまうような事になって、番を得ても幸せとは限りません」
私は疑問に思っていた事をリヒャルトにぶつけた。
「先程、王弟の番は自死に近い衰弱死とうかがいましたが、王弟自身はどうされたのですか?後悔はしたのですか」
「後悔も何も番が死んだと分かった途端、番を抱きしめて離さずに、自身も一切食事をとらずに死んでいるから、どう思ったかなんて伝わってないよ」
なにそれ。怖いわ。自分が番を攫って来た事で一つの家庭を崩壊させて、番自身も不幸にした事には、反省もなかったのじゃないかしら。番なんだから仕方ないとか思っていそうよね。
「王弟は軍のトップだったから、急死で周りは大変だったようだ。王弟ほどの魔力を持つものはいなかったから、軍の再編成しなくてはいけなかったらしい」
テオバルトが指を組んだ手を膝に置いて、視線を下げたまま言った。
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