見捨てられた男達

ぐう

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第二王子と公爵令嬢

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「なぜとはどういう意味だ。婚約者の衣装と装身具を誂えるのは当たり前だ」

 ますます侍従は意味がわからないという表情になった。

「殿下 殿下には現在婚約者はいらっしゃいません。ブランデンブルク公爵令嬢との婚約はもうかなり前に先の国王陛下が白紙に戻されました」

 アルベルトは何を言われてるか理解できなかった。

「何を馬鹿なことを言っている。私はソフィアと……」

 そうだソフィアに最後に会ったのは一年前。そしてその前に会ったのもいつだったかもう覚えてない。週に一度会っていたのは自分に精通がない頃だった。それでも自分はソフィアと婚約を白紙に戻す事を受け入れた覚えはない。

「馬車を用意しろ!ブランデンブルク公爵家に向かう!」
 

 
 先触れもなくブランデンブルク公爵家を訪ね、馬車から飛び降りた。突然の来訪に驚いて出迎えた顔見知りの執事を捕まえた。

「ソフィアはどこだ。学院はすでに休みに入った。邸にいるはずだろう!」

「殿下 申し訳ありません。お嬢様も旦那様も奥様もお留守でございます」

 そんな事を言う執事の肩を押しやり、階段を駆け上った。見知った公爵邸を探し回った。ソフィアの部屋だった場所にも飛び込んだが、がらんとしてベッドにもソファにも布が掛けてあった。

「ソフィアはどこに行ったんだ。去年は間違いなくこの邸にいた!」

 集まってきた使用人達は遠巻きにこちらを眺めている。執事が追いついて来て

「ですからお留守でございます。これ以上は国王陛下にお尋ねになるように旦那様に言いつかっております」

「公爵はどこだ」

「登城されております」

 それを聞いて、また馬車に飛び乗り御者に城に行くように言いつけた。
 アルベルトは言いようのない不安にいてもたってもいられない。ソフィアの笑顔を思い出したいのに、ここ三年ほどまともに会話もしていない。最後に会った一年前はソフィアはにこりともせずにアルベルトの言葉を黙って聞いていた。
 アルベルトは自分がソフィアを愛している事を今更ながら思い出した。ソフィアの優しい笑顔が好きだった。ソフィアに励まされたらどんな事でもできるような気がした。女にもてると自信を持ったのもソフィアにアルは素敵よと言ってもらえたから。
 なぜ忘れていたのだろう。初めて味わった肉欲に夢中になり、それを追い求めていたらすっかり忘れてしまっていた。

 アルベルトの母は王妃亡き後国王が後添いを入れないからと側近達が無理矢理国王に娶らせた側妃だ。王妃は王子一人と王女三人を残して逝った。王子一人ではこころもとないからと無理矢理娶ったため、国王は側妃に愛情が無く、アルベルトが生まれたあと側妃は元々恋仲だったものに下賜された。

 そのためアルベルトは母と縁が薄くいつも愛に飢えていた。それを満たしてくれたのがソフィアだ。愛を満たして貰って満足して、肉欲に溺れてしまった愚かな男。それがアルベルトだ。


 アルベルトは王城に向かう馬車の中でレイチェルのどこが魅力的だったかわからなくなっていた。レイチェルは自分の側近候補達とも噂があると侍従から報告があった。その時は一笑に付したが、よく考えると側近候補達とよく個室で二人っきりになってるようだ。そんな女とソフィアを天秤にかけるなど、なんと愚かなこと。


 王城の車寄せに馬車を停め、アルベルトはのろのろと自室に向かった。途中で兄国王の側近に呼び止められた。

「国王陛下がお呼びです」

 アルベルトは普段没交渉の兄に呼ばれて悪い予感しかしなかったが、国王になった兄の呼び出しに応じないわけにはいかなかった。
 意外な事に国王の私的な生活スペースの一室に通された。

「やあ アルベルト 久しいな。兄弟とは言えあまり話したことはなかったが、今日は卒業後の身の振り方を相談しようと思ってな」

 にこりともせずに国王はじっとアルベルトを見つめた。アルベルトは無駄だろうが確かめずにはいられなかった。

「私とソフィアの婚約はいつ白紙になったのですか」

「おや 今頃気がついたのか。そんなにあの淫売が良かったのか。アルベルト、そなたは女遊びをしても女の真贋は見抜けないのだな」

 血の気が引いた。

「兄上は私の所業をご存知だったのですね」

「当然だろう。王家の種をそこいら辺に軽くばら撒かれては困るからな。お前の振る舞い全て侍従から報告が上がるし、監視要員がいるから、お前は隠れて遊んでいたつもりだろうが、お前が一度でも抱いた女は報告されてる。孕んだとか言い出されては困るからな。でも淫売の前に遊んでいた未亡人や既婚者は弁えていていたから問題はないから注意はしなかったがな」

 本当に弟に興味がなかったのだなと自嘲の気持ちがせり上がる。

「ブランデンブルク公爵令嬢との婚約を取り決めたのは父上だ。そして白紙に戻したのも父上だ。理由は身に覚えはあるだろう?それでも聞きたいなら離宮に移った父上に聞くがいい」

「いいえ」

 力なく頭を振る。

「ソフィアを蔑ろにしていた事は事実です。弁明する事はできません」

「それで卒業後どうする?子爵家は既に息子に代が替わってる。お前は婿に入れない」

 国王はにやりと皮肉げに笑った。

「お前がブランデンブルク公爵令嬢と婚約を白紙にしただけなら、他家から婿にと申し出があったかもしれないが、普段の行いが悪い上に淫売に引っかかった事で信用が無くなったな」

「ソフィアと共にいられないのでしたら、もう結婚など望みません。ただソフィアに謝りたい。会わせてもらえませんか?」

「弁明できないなら会う必要もあるまい。ブランデンブルク公爵令嬢も会いたくないだろう。彼女の幸せを陰から祈ってやればいい。お前は卒業後臣下に降りて、辺境伯のところで騎士修行をして来い。そこでまた女の問題を起こすようなら……」

「わかりました」

 もうソフィアに会う事もない。自業自得だが、なぜ彼女の手を離してしまったのか。こみ上げるのは苦い後悔だ。
 自室で一人になると、ソフィアとの思い出が次々と脳裏に蘇る。ソフィアの柔らかな明るい声が聴きたい。一度でもいいあの美しい金の髪に口付けしたかった。知らぬ間に流れ出る涙を拭う事はなかった。

 
 
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