見捨てられた男達

ぐう

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幼馴染と花売り娘

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 それからウィルはいつも休憩所にレイチェルを連れて行った。
 レイチェルも行為に慣れ嬌声も派手にあげるようになった。
 
「レイチェルって感度いいよな」

「なにそれ。いやだ~ウィルったら」

 ウィルの腕の中でレイチェルは幸せだった。ウィルと結婚すれば、明日のご飯をどうしようかと悩むことはない。母に無理させることもない。母には叱られたけれど、ウィルはお母さんにって薬代をくれる。それを飲んでいると母は体調がいい。食べられるようになったので綺麗だって言われてた容姿も戻ってきた。二人で花売りに出ると花が良く売れる。最底辺から抜け出せて、気分が良かった。


 そんなある日街頭で二人で花を売っていたら、立派な馬車が横に停まった。そこから降りて来たのは立派な紳士だった。少し白髪が混じった黒髪を丁寧に撫で付けていた。

「お二人は親娘ですか?」

 母がレイチェルを自分の背に庇った。

「そうですが、お花をお入り用ですか?」

 また売春と間違えられたのではないかと用心したのだ。紳士は穏やかに微笑んで

「花を二つ下さい。亡くなった妻の墓参りに行くので」

 それを聞いてほっとした母がにこやかに二つ手渡した。支払われたお金は伝えた金額の十倍だった。

「こんなにもらえません」

「いいんですよ。妻の命日に妻に良く似た人から花を買えたのだから」

 それだけ言うと馬車で去っていった。
 何にしろとても助かるので嬉しかった。

「母さん 良かったね。気前のいい人で」

 母は不審げだったが、レイチェルはウィルに貰わなくても母の薬が買えたので機嫌良く帰った。

 それから三日に一度は紳士が花を買いに来るようになった。母は最初は用心して社交辞令でしか返事をしなかったが、穏やかに話しかけてくるだけで何もしないので、亡くなった夫のことや今どんな風に暮らしているかなど話してしまっていた。




 三日に一度は休憩所に誘いに来るウィルが一ヶ月も姿を見せない。いつもの紳士のお陰でお金には困ってないが、ウィルが抱いてくれないと下腹部がうずうずとするようになっているので、ウィルに誘われるのを待ち望んでいた。今朝花を買いに行った時も居なかった。どうしたんだろう?

 レイチェルはいつものように街角で花を売っていたら角を曲がるウィルを見かけた。母は最近では珍しく花売りを休んでいる。今日はいつもの紳士が花を買いに来ない日なので、ウィルを追いかけた。お洒落で有名なカフェの方に歩いていったので、前から一緒にあの店に行きたいとウィルにねだっていたので、一緒に行こうと声を掛けようとしたら、ウィルが女連れなのに気が付いた。慌てて向かいの店先に隠れた。ウィルはいつもレイチェルに見せてくれる優しい笑顔をその女に見せ、手を繋いでいた。そして店の前で立ち止まり話をしていた。

「お嬢さん ここはチョコレートケーキが有名な店です。食べて行きませんか」

「ウィル お嬢さんだなんて。カミラってよんで」

「まだそんな風に呼べませんよ。お嬢さんは花の卸元のお嬢さんですから、下請けの息子が呼び捨てなんてできません」

「やだわ。せっかくのデートなのに。ムードがないわ。でも婚約したら呼び捨ててね」

 二人は顔を寄せ合って微笑みあってカフェに入って行った。

 震える足でそっとその場を離れた。ショックを受けてふらふら歩いていると、市場の金物屋の娘で貧しい花売りのレイチェルがウィルと付き合ってるのが分不相応といつも嫌味を言うサラがレイチェルを呼び止めた。 
 レイチェルは話なんかしたくなかった。でもサラはレイチェル前に回り込んで足を止めさせて話し始めた。

「知ってる?ウィルは地方で花を生産してる大きな農園の娘に見初められたんだって。地方から出てきて王都で観光するお嬢さんにウィルが付ききりよ。商工会で会ったウィルの親父さんが大喜びしてたってうちの父さんが聞いて来たわよ。レイチェル残念だったわね。玉の輿に乗り損なって」

 にやにや笑って付きまとうのを振り切って走った。ウィルは心変わりしたんだ。お金持ちのお嬢さんに。その場から逃げるしか無かった。 

 花売りを続ける気になれなくて、アパートに戻ると部屋からいつもの紳士が出て来た。

「やあ おかえり レイチェル 花は売れたかい?」

「どうしてこんなところに?」

「お母さんに話があってね。お母さんからいい返事をもらえるようにレイチェルからも言ってくれると嬉しいな。じゃ また来る」

 帽子をかぶり直して近くに待たせた馬車に向かって歩いて行った。レイチェルは慌てて部屋に入ると、椅子にぼんやりと座った母がいた。

「母さん あの人の話なんだったの?」

 母はぼんやりとしてレイチェルを見ない。

「母さんったら!」

 レイチェルが腕を引っ張ると、ようやくレイチェルを見た。

「あのね。あの人クラウス・ヒューゲルト子爵というのだって」

 立派な服装だったけれどお貴族様だったんだ。

「それで?」

「ヒューゲルト様は近々家督と爵位を息子さんに譲って領地で隠遁なさるんですって。それについて来てくれないかって言われた」

「ついていくって使用人?」

「ううん 私が平民だから妾になるけれど実質は妻としてついて来てほしいって」

 レイチェルは言葉もなく立ちすくんだ。母はここいらあたりでは街一番の美少女だったそうだ。病でやつれてしまったけれど、まだまだきれいだと思う。食べるために追われて働かなくて済むのならもっときれいになるだろう。

「母さんはどうしたいの?」

「レイチェルはいや?」

「ヒューゲルト様はとてもいい方みたいだよね。母さんを見初めたのかな」

「早くに亡くなった奥様に面影が似てるって言われたの」

「似てるって言われて嫌じゃないの?」

「嫌じゃないよ。とても素敵な方だったんですって。そんな方に似てるって光栄じゃない?」

「そうなの?よくわからないよ。なんて返事したの?」

「レイチェルを置いていけないって言ったら、もちろん連れて来てくれって。だからレイチェルさえよかったら受けたい」

 受ければ母は働かなくてもいい、もう父が亡くなった時みたいな苦労しなくてもいい。
 それにもうウィルは……だったら母について行こう。

「母さんについて行くよ」

「レイチェル!ありがとう!」

 
 
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