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幼馴染と花売り娘
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次の日に返事を聞きに来たヒューゲルト様に承諾の返事をしたら、あっという間に話が進んだ。
ヒューゲルト様は家督を継ぐ息子夫婦に母を連れて領地に隠遁することを認めさせた。
息子夫婦の母を認める条件は、母との間に子供をもうけないこと。万が一生まれても、庶子として相続権はないことを公的な書類として残すことだった。
そして家督と爵位を息子に譲ったヒューゲルト様は母アンを名義上は妾で実際の待遇は妻として領地に連れて行こうとした。
母はレイチェルに母の連れ子として一緒に領地に行こうと言った。
でもヒューゲルト様はクラウス様の養女にして王立学院に行かせたいと言われた。上位貴族は幼い頃から政略的な婚約をしているが、下位貴族は学院で相手を見つけることが多いので、レイチェルは容姿がいいから嫁入り先を見つけられるからどうだと提案された。ヒューゲルト様の亡くなった奥様も学院の同級生だったそうだ。
最初は母について領地に行き、使用人にでもなろうかと思った。でもウィルを見返してやりたいと思ったのだ。ウィルなんか手も届かない立派な貴族の奥様になって見返してやると思った。
これは間違いで母に付いて領地に行けば良かったと後から後悔することになるのだけれど。
ウィルの店と契約しているわけでもなく、仕入れに行って売る商売だったから、誰にも言わないで親娘は古びたアパートからいなくなった。レイチェルを養女にして学院に入れるのは息子夫婦がいい顔しないからと、ヒューゲルト家の別邸で母と二人で数ヶ月貴族の口の利き方と立ち居振る舞いの特訓を家庭教師から受けた。
レイチェルはそれから勉強をしなければいけなかった。レイチェルは意外と馬鹿でもなかった。でも貴族の子女とは出発時点から差がありすぎるので、読み書き以外にも基本的な教養を最下位のクラスでいいからついていけるようにするのが大変だった。
それでもなんとか人前に立つようにはなり、全寮制の王立学院に編入できた。ヒューゲルト様の後押しのおかげだろうけれど。
レイチェルは入学したことをすぐに後悔した。あまりに貴族令嬢達と自分は違うのだ。彼女達は絶対に本音を言わない。平民上がりのレイチェルを疎んじてるのは雰囲気でわかる。ヒソヒソされているのは自分の悪口だろうと察することもできる。暴力や直接的ないじめないが、親しくする友達などできようもなかった。
そんなわけでレイチェルは学院で過ごす友達も出来ずに常に一人だった。勉強も置いていかれがちでわからないことも多い。教師に図書館で自習するように言われたが、図書館の使い方さえわからない。
図書館でどこの本棚に行っていいかもわからずに途方に暮れていたら
「きみなにを探しているの?」
振り返ると茶色の髪で茶色の眼の地味な色目だけれども優しそうな人が立っていた。
「あの 先生に全国地図を見て都市の位置を覚えてこいって言われたのですが、地図の場所が分からなくて」
「ああそれだったら本棚じゃない。こっちの大判用の本棚にあるから」
その人は親切に連れて行ってくれた。
「間違ってたら謝るけれど、きみは編入して来た子?」
優しそうな人だったけれど平民かと見下げるのだろうかとレイチェルは思った。
「だったら基本からだから、こっちの字の大きい見やすいのがいいよ。僕は図書委員で今日放課後ここにいるから、わからないこと聞いてもいいよ」
「ありがとう!わからないこと多くて困ってたの。でも元平民の私と口きいて大丈夫?」
「何言ってる。同級生だろ」
それから図書委員の子爵令息フリッツと親しくなった。フリッツが図書当番でない日も図書館で勉強を教えて貰った。二人でベンチに座って顔を寄せ合ってる姿が評判にならないはずはなかった。
「レイチェルさん お話よろしいでしょうか。私はマルガ・ヘルマンと申します」
フリッツとの待ち合わせ場所に行く時に、令嬢に呼び止められた。
「私は男爵家のものですから、レイチェルさんに自分から声を掛けるのは不躾な事はわかっておりますが、どうしても話を聞いて欲しいのです」
小柄で地味な装いだが可愛らしい人だった。元平民だからってレイチェルを最下位に見る令嬢が多い中この人はちゃんと自分を子爵家のものとして認めてくれた。レイチェルはマルガに好感を持った。
「お話を聞きます。なんでしょうか?」
「人目につきたくないので、裏庭でもよろしいでしょうか?」
二人で黙って裏庭に向かっていると、慌てた様子のフリッツが向こうから二人を見つけて走って来た。
「マルガ!どう言うつもりだ!僕の気持ちは話しただろう!」
そう言ってレイチェルをフリッツの背中に庇った。
「元平民だからって何を言うつもりなんだ!きみはそこまで僕のことに立ち入るつもりか!大体きみは!…」
血相を変えて、マルガに悪口雑言を言うフリッツを見てレイチェルはマルガを誤解していると思った。
「やめて!フリッツ!マルガさんは何も言ってない!」
「ああ レイチェルきみは優しいな。マルガ見習え!」
そう言ってフリッツはレイチェルを抱きしめた。
それを醒めた目で見ていたマルガは黙って立ち去った。
レイチェルは何がなんだかわからなかったが、令嬢達の噂話でマルガがフリッツの婚約者だったことを知った。でもレイチェルとしては親しくはしても誰に責められるような仲ではないので噂は放っておいてフリッツとはそれまでと同様に付き合っていた。
そして慌てて走って転んだところを助けて貰った人と付き合うようになり、その人が王子様と知ると夢見がちな毎日を送るようになった。ヒソヒソと噂する令嬢も相手がアルベルト様と分かるとレイチェルの前ではぴたりと口を塞いだのもの痛快だった。レイチェル自身の地位が上がったように錯覚した。
女慣れしているアルベルト様とは身体の関係もあっという間にできた。付き合ってるのはアルベルト様でもフリッツとは友達だからだ縁を切る必要もない。婚約者だと言うマルガももう何も言ってこない。
図書館でフリッツに勉強を教えてもらおうとあちらこちらと探したら、フリッツが中庭のベンチにうなだれて座っていた。
「フリッツ!どうしたの?歴史教えて欲しいの」
のろのろと顔を上げるフリッツ。
「きみみたいな魔女に関わった僕が馬鹿だったよ。レイチェル二度と僕に話しかけないでくれ」
レイチェルは何がなんだか分からなくて呆然とした。話しかけるなと言うので話しかけるのをやめた。自分にはアルベルトがいるから何も困らないから。
ヒューゲルト様は家督を継ぐ息子夫婦に母を連れて領地に隠遁することを認めさせた。
息子夫婦の母を認める条件は、母との間に子供をもうけないこと。万が一生まれても、庶子として相続権はないことを公的な書類として残すことだった。
そして家督と爵位を息子に譲ったヒューゲルト様は母アンを名義上は妾で実際の待遇は妻として領地に連れて行こうとした。
母はレイチェルに母の連れ子として一緒に領地に行こうと言った。
でもヒューゲルト様はクラウス様の養女にして王立学院に行かせたいと言われた。上位貴族は幼い頃から政略的な婚約をしているが、下位貴族は学院で相手を見つけることが多いので、レイチェルは容姿がいいから嫁入り先を見つけられるからどうだと提案された。ヒューゲルト様の亡くなった奥様も学院の同級生だったそうだ。
最初は母について領地に行き、使用人にでもなろうかと思った。でもウィルを見返してやりたいと思ったのだ。ウィルなんか手も届かない立派な貴族の奥様になって見返してやると思った。
これは間違いで母に付いて領地に行けば良かったと後から後悔することになるのだけれど。
ウィルの店と契約しているわけでもなく、仕入れに行って売る商売だったから、誰にも言わないで親娘は古びたアパートからいなくなった。レイチェルを養女にして学院に入れるのは息子夫婦がいい顔しないからと、ヒューゲルト家の別邸で母と二人で数ヶ月貴族の口の利き方と立ち居振る舞いの特訓を家庭教師から受けた。
レイチェルはそれから勉強をしなければいけなかった。レイチェルは意外と馬鹿でもなかった。でも貴族の子女とは出発時点から差がありすぎるので、読み書き以外にも基本的な教養を最下位のクラスでいいからついていけるようにするのが大変だった。
それでもなんとか人前に立つようにはなり、全寮制の王立学院に編入できた。ヒューゲルト様の後押しのおかげだろうけれど。
レイチェルは入学したことをすぐに後悔した。あまりに貴族令嬢達と自分は違うのだ。彼女達は絶対に本音を言わない。平民上がりのレイチェルを疎んじてるのは雰囲気でわかる。ヒソヒソされているのは自分の悪口だろうと察することもできる。暴力や直接的ないじめないが、親しくする友達などできようもなかった。
そんなわけでレイチェルは学院で過ごす友達も出来ずに常に一人だった。勉強も置いていかれがちでわからないことも多い。教師に図書館で自習するように言われたが、図書館の使い方さえわからない。
図書館でどこの本棚に行っていいかもわからずに途方に暮れていたら
「きみなにを探しているの?」
振り返ると茶色の髪で茶色の眼の地味な色目だけれども優しそうな人が立っていた。
「あの 先生に全国地図を見て都市の位置を覚えてこいって言われたのですが、地図の場所が分からなくて」
「ああそれだったら本棚じゃない。こっちの大判用の本棚にあるから」
その人は親切に連れて行ってくれた。
「間違ってたら謝るけれど、きみは編入して来た子?」
優しそうな人だったけれど平民かと見下げるのだろうかとレイチェルは思った。
「だったら基本からだから、こっちの字の大きい見やすいのがいいよ。僕は図書委員で今日放課後ここにいるから、わからないこと聞いてもいいよ」
「ありがとう!わからないこと多くて困ってたの。でも元平民の私と口きいて大丈夫?」
「何言ってる。同級生だろ」
それから図書委員の子爵令息フリッツと親しくなった。フリッツが図書当番でない日も図書館で勉強を教えて貰った。二人でベンチに座って顔を寄せ合ってる姿が評判にならないはずはなかった。
「レイチェルさん お話よろしいでしょうか。私はマルガ・ヘルマンと申します」
フリッツとの待ち合わせ場所に行く時に、令嬢に呼び止められた。
「私は男爵家のものですから、レイチェルさんに自分から声を掛けるのは不躾な事はわかっておりますが、どうしても話を聞いて欲しいのです」
小柄で地味な装いだが可愛らしい人だった。元平民だからってレイチェルを最下位に見る令嬢が多い中この人はちゃんと自分を子爵家のものとして認めてくれた。レイチェルはマルガに好感を持った。
「お話を聞きます。なんでしょうか?」
「人目につきたくないので、裏庭でもよろしいでしょうか?」
二人で黙って裏庭に向かっていると、慌てた様子のフリッツが向こうから二人を見つけて走って来た。
「マルガ!どう言うつもりだ!僕の気持ちは話しただろう!」
そう言ってレイチェルをフリッツの背中に庇った。
「元平民だからって何を言うつもりなんだ!きみはそこまで僕のことに立ち入るつもりか!大体きみは!…」
血相を変えて、マルガに悪口雑言を言うフリッツを見てレイチェルはマルガを誤解していると思った。
「やめて!フリッツ!マルガさんは何も言ってない!」
「ああ レイチェルきみは優しいな。マルガ見習え!」
そう言ってフリッツはレイチェルを抱きしめた。
それを醒めた目で見ていたマルガは黙って立ち去った。
レイチェルは何がなんだかわからなかったが、令嬢達の噂話でマルガがフリッツの婚約者だったことを知った。でもレイチェルとしては親しくはしても誰に責められるような仲ではないので噂は放っておいてフリッツとはそれまでと同様に付き合っていた。
そして慌てて走って転んだところを助けて貰った人と付き合うようになり、その人が王子様と知ると夢見がちな毎日を送るようになった。ヒソヒソと噂する令嬢も相手がアルベルト様と分かるとレイチェルの前ではぴたりと口を塞いだのもの痛快だった。レイチェル自身の地位が上がったように錯覚した。
女慣れしているアルベルト様とは身体の関係もあっという間にできた。付き合ってるのはアルベルト様でもフリッツとは友達だからだ縁を切る必要もない。婚約者だと言うマルガももう何も言ってこない。
図書館でフリッツに勉強を教えてもらおうとあちらこちらと探したら、フリッツが中庭のベンチにうなだれて座っていた。
「フリッツ!どうしたの?歴史教えて欲しいの」
のろのろと顔を上げるフリッツ。
「きみみたいな魔女に関わった僕が馬鹿だったよ。レイチェル二度と僕に話しかけないでくれ」
レイチェルは何がなんだか分からなくて呆然とした。話しかけるなと言うので話しかけるのをやめた。自分にはアルベルトがいるから何も困らないから。
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