見捨てられた男達

ぐう

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幼馴染と花売り娘

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 レイチェルはアルベルトと肉体関係になって有頂天だった。これでアルベルトの妃になれる。責任を取って貰わなきゃね。アルベルト様と結婚したら元平民だった私が王族になれると思った。
 王城のバルコニーでアルベルトと一緒に手を振る自分を想像して、レイチェルはうっとりした。美しい真っ白な綾織りのウェディングドレスをまとって長いベールを引いて歩くのだ。
 
 結婚したらアルベルトのきれいな顔が目を覚ましたら横にあるのだ。愛し合うのだって今みたいに控室の長椅子でさっさと済ませるような事は無くなるはず。
 一度王族の結婚式はどんな衣装になるかフリッツに聞いておけばよかった。
 私が王子妃になって視察とかで市場に行ったりしたら、私を見てウィルは驚き、もったいない事をしたと後悔してくれるかしら?

 レイチェルの想像は止まらない。でも、ある日空き教室で一人で補習の提出物をしていたら、廊下で令嬢二人が立ち止まってひそひそ話をしているのが聞こえた。

「あの元平民令嬢 得意満面でアルベルト様にすがり付いているけれど、自分が王子妃になれると思っているのかしらね」

「貴族の常識を知らないから身体の関係が出来たら大丈夫とか思っていそう」

「女遊びの激しいアルベルト様だから婚約者がいないと思ってるのかしら?」

「学院にいらっしゃらないから知らないのでしょう?」

「あの気高く美しいソフィア様にかなうわけないわ」

「そうよね。それにソフィア様は公爵令嬢、元平民は子爵。足元にも及ばないわ」

 二人はクスクス笑い合って廊下を歩いて行った。

 レイチェルは教室の中で固まっていた。アルベルト様に婚約者がいたなんて聞いてない。でも今アルベルト様に抱かれているのは公爵令嬢じゃなくて私だ。大丈夫、そう大丈夫。アルベルト様はウィルみたいに婚約を破棄してくれる。

 それでも、もしかしてアルベルト様が婚約破棄してくれなかったらどうしよう。ヒューベルト様は下位貴族の嫁ぎ先を見つけて来いと言っていた。
 レイチェルは自分を見る目が物欲しそうなアルベルト様の護衛グスタフに目をつけた。女に慣れてなさそうだ。アルベルト様に襲われた事にして泣きつけばイチコロだろうと抱きついてやった。
 あっという間に肉体関係ができて夢中になってくれた。グスタフはアルベルト様よりずっとたくましくて行為も満足できる。でも男爵では子爵より落ちてしまう。子爵のフリッツを友達で終わらしたのはもったいなかったかもしれない。もっと誰かいないかと思っていたら、やはり自分を情欲の目で見るカイを見つけた。グスタフの時のように芝居をしてみたが、カイはそんなのはどうでもいいようにさっさと身体の関係になってくれた。

 カイには婚約者がいると聞き出した。政略だから破棄は出来ない。愛人になれと言われたがレイチェルには不満だった。やはり正妻になりたい。自分に甘いアルベルト様に強請りに強請って駄目だったら、レイチェルに惚れ切っているグスタフでいい。カイとはあくまで遊びだと割り切った。

 卒業時期になった。卒業パーティーの衣装も誂える時期だと思いアルベルト様に衣装と装身具をいつも通りに強請った。それまでは可愛く強請って、行為の時にレイチェルの方からサービスすれば、高価なものでも買ってくれた。

 だから今度もパートナーに強請ればしてくれると思っていたのに、淫売だと罵られてしまった。アルベルト様の望んだ様に振る舞ったのに何がいけなかったのかわからない。

 王子様のお妃様になれると思っていた。そうしたらウィルを見返すなんてものじゃない。勝ち誇れると思っていた。ずっと影も形も無かった婚約者を選ぶなんて意味がわからない。その上保険をかけておいた騎士団長の息子にも婚約者がいた。子供が欲しいとまで言ってくれたのに。婚約者の話なんてしてなかったのに!なぜ婚約者の方を選ぶの?

 それでも侯爵の息子もいると学院中探したが、どこにも居ない。情事に使っていた控室に行っても誰もいなくなっていた。三人ともあんな情熱的に抱いてくれたのになんでなんでと涙が止まらない。

 もう卒業だけれども卒業パーティーにエスコートしてくれる人もいない。気落ちして寮の自室に帰ろうとしたら、女子寮の管理人に呼び止められた。

「ヒューゲルトさん あなたは学園長から退学になったと連絡が来てます。保護者が迎えにおいでになったら退寮していただきますので、部屋を片付けて下さい」

「え 卒業試験も受かりましたよ!」

「あなたは素行不良で退学になりました。卒業パーティーに出る資格もありません。詳しい事は保護者に連絡してあるので、保護者からお聞きください」

 取りつく島もない態度だ。寮の規則を破ってばかりなので元々嫌われいたので仕方ないかもしれない。

   数日後母親が迎えに来た。

「ごめんなさい」

 レイチェルは母親の顔を見るなり謝った。母親はヒューゲルト様のお世話になってから、輝くように美しくなっていたのに今日は目の下の隈も酷い。黙ってまとめた荷物を持ってくれて馬車に乗った。

「どこ行くの?」

「母さん、ヒューゲルト様にお暇を出されたのよ。レイチェルが王子様と醜聞を起こしたから王家に睨まれて仕方なくよ。ヒューベルト様は最後の情けに手切金を下さって、小さい家も下さったのよ。今そこに向かってる」

 母親は顔色も悪い。全てレイチェルのせいなのだ。

「レイチェルはヒューゲルト家から除籍されたわ」

 レイチェルは自分がそこまで悪いことをした実感がわかなかった。男達を誘ったのはレイチェルだけれども乗って来たのは男達なのだ。男達だって楽しんでいたのに、自分が退学になったり、ようやく幸せになった母親の幸せまで壊すなんて納得できなかった。けれども顔色の悪い母親を前にすると流石に罪悪感に苛まれた。でもレイチェルにできることなどなにもない。

 これからどんな生活が待っているのか不安しかなかった。
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