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見捨てた女達
男爵令嬢
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フリッツとマルガが初めて会ったのは下位貴族の子供達だけ集めた茶話会だった。
上位貴族は政略が多いが、下位貴族は紹介でとか家同士が親しいからとかで縁を結ぶ事が多かった。だから出会いのチャンスとして騎士爵家、男爵家、子爵家子供が集められていた。
マルガは乗り気ではなかったが、兄が行くというのでついでに連れてこられた。隅の方で庭園の咲き誇る花に見惚れていたら後ろから声をかけられた。
「退屈?」
「はい。知ってる人もいないので」
「そっか。じゃあ僕と話さない?僕はフリッツ・ボーデ 子爵家だよ」
ここでは上位の貴族だ。マルガは慌てて礼をした。
「私はマルガ・ヘルマン 男爵家です。」
それから二人はフリッツの好きな本の話になった。マルガの家には実務本のみで娯楽本などなかったので読んだ事がないというとフリッツが貸してあげると言った。社交辞令だと思っていたら、数日後先触れが来てフリッツが本を抱えて会いに来た。
それから本を貸してもらい返すと言う交流が始まった。フリッツは穏やかな人で話しやすく、好意を持ってくれているのがはっきりわかった。
手紙のやり取りもあり、半年ほど付き合った後子爵家から婚約の申し出があった。
マルガとしては嫌いではないが好きで困るような気持ちは持ってなかった。子爵家からの申し出を断るのは大変だが、マルガが嫌なら断るよと父親に言われた。
マルガが考えあぐねている時に年上の幼馴染で男爵家が商会を任せている会頭の息子のエーリヒが訪ねて来た。
「マルガ 婚約を申し込まれたって本当なのか?」
エーリヒは平民だが男爵家が資本を出している商会の会頭の息子で、ほんの小さな頃からの知り合いなので砕けた言葉使いなのだ。
「本当よ。お父様が嫌なら断ってもいいって言ってくれたけれどよく分からなくて困ってるの」
「その男を好きなのか?」
「だからわからないの。いい人だとは思うけれど、本にあるようにその人のことを思うと動悸がするとか夜も寝られないとか、そういうのはないのよ」
「そんな程度で婚約はできないだろう?」
「うーん 好意を寄せてくれてるのは本当にわかりやすいの」
「そんな程度で一生決めるつもりか?やめておけよ。だいたいマルガはまだ子供だよ。婚約なんて早すぎるよ。子供だから恋とかわからないんだろう?」
エーリヒはもう父親に付いて商会の仕事をしている。経験を積むために王都の他の商会に三年修行に行くので挨拶に来たと言う。
エーリヒはとても女性にもてる。背が高くて端正な顔立ちをしているのと貴族が資本を入れている商会の跡取りとしてきちんとしつけられてるので言葉使いもきちんとして所作もきれいだ。王都に行けばもっと女性がまとわりつくだろう。
それなのにマルガのことは子供だ子供だと小柄な事を気にしてるのに言い過ぎだとマルガは思った。なんだか知らないけれど子供だと言われるたびにむかむかして気持ちが騒ついた。
「エーリヒに私の婚約のことなんて関係ないでしょう。放っておいて」
つい強い言葉も出てしまう。エーリヒはなんだか傷ついたように黙り込んだ。
エーリヒはそれ以上何も言ってくれなかった。だったら好いてくれてるのがよくわかるフリッツを選ぼうと思った。その頃エーリヒは王都に修行に出ていた。
それから学院に入学するまでフリッツはわかりやすい好意をマルガに向けて、マルガはそれを受け入れて、燃え立つような仲では無いが穏やかに過ごせると思うようになった。
それなのにフリッツは燃えるような恋を見つけて、マルガを蔑ろにするようになった。
フリッツがそう言う態度を取るようになってから実家には相談の手紙を書き、男爵家では婚約を解消できるように子爵家に話に行ってもらっていた。フリッツの学院での所業は一学年上のマルガの兄の証言もあるので、子爵家には強く出られた。
マルガはレイチェルにフリッツとは実際にどう言う仲なのか聞いてみようと、話をするためにレイチェルを呼び止め、裏庭に出向く前に間の悪いことにフリッツに捕まり悪口雑言を浴びた。マルガはこれで本当にもう終わりだなと思い、顛末を伝え早く婚約を解消してくれるように父親に手紙を書いた。
しばらくしてフリッツに呼び出されて婚約破棄を告げられた。もうすでに婚約は解消する手続きに入っていたので、フリッツに婚約破棄と言われても困らなかったが、ほんの半年前まではマルガマルガと言ってくれた人の変わり身の早さだけは悲しかった。恋とはこんなに人を変えるものかと思うとマルガのフリッツへの気持ちは恋では無かったとしみじみと思った。
学院では大体の生徒がマルガに同情的だが、婚約者を寝取られた女として嘲笑う人もいるので、残りの学院生活は気持ちよく過ごせなかった。
そしてある日レイチェルが第二王子の愛人になった事を噂で聞いた。王族のことなので、みんな表立っては噂しないが、貴族の間で密やかに広まっていた。
その噂を聞いて、フリッツは捨てられたのかと思ったが、気の毒とも何とも思わなかった。強いて言うなら自業自得なんだろう。
その噂が広まってから時々レイチェルが第二王子に肩を抱かれ、第二王子の側近候補達と一緒にいるのを目にするようになった。
マルガはレイチェルには何の恨みもなかった。フリッツはあの程度の恋で婚約者を捨て去るようなら、結婚してからも、真実の愛を見つけたとか言って浮気に走るだろう。結婚する前でよかったのだと思った。
卒業まであと数ヶ月というある日学院の寮にエーリヒが訪ねて来た。一緒に外出してくれないかと。
三年ぶりのエーリヒは都会の水に洗われて男ぶりが一層上がっていた。これは女に囲まれているだろうと思って胸がチクリと痛んだ。
お洒落なカフェに連れて行かれた。エスコートの仕方も堂に入ってこれは何人もの女性と付き合ったのだろうと思うとますますマルガの胸は痛んだ。エーリヒはマルガの目をしっかり見て言った。
「婚約を解消したこと領主様から教えていただいた」
「お父様お喋りね。娘の醜聞を言いふらさないでよ」
「醜聞なんかじゃ無いさ。マルガは被害にあっただけだろう」
「子供だもの。婚約がわかってなかったのよ」
「子供じゃ無い。久しぶりに会ってますますきれいになってる」
「あら お世辞?エーリヒにしては珍しいこと」
「マルガ!話を聞いてくれ。結婚してくれないか?」
何を言われてるか理解できなかった。いつも子供扱いしてたエーリヒが何を言ってるんだか。
「領主様にも許可は得た。マルガさえうんと言ってくれれば卒業したらすぐ結婚しよう」
「私なんかエーリヒにとって子供でしょう?女の人にもてたじゃない。王都で知り合って他にいくらでもいるでしょう?」
「誰とも付き合ってないよ。マルガが婚約したと聞いてなぜあの時領主様にマルガを嫁にくれって言わなかったか後悔したんだ。それからずっとマルガだけ思って来た」
「うそ」
「嘘じゃない」
「子供だって言ってたじゃない」
「ごめん。主筋に当たるお嬢様を望めないから、マルガは子供って自分に言い聞かせていたんだ」
エーリヒがテーブルの上のマルガの手を握った。
「早く言ってよ。言ってくれたら婚約なんてしなかったのに。子供の頃からエーリヒが好きだったけどエーリヒはもてるから私なんて眼中にないと思ってた」
マルガは腹が立ってきた。フリッツに裏切られて相当つらい思いしたのにと。エーリヒ遅い!遅いよ。でもエーリヒが自分を望んでくれるなんて嘘みたいだ。
「嘘じゃないよね。嘘だったら許さない」
「信用ないな」
エーリヒは苦笑いをする。
「本当に本当だよ。卒業パーティーのエスコートしていい?これからドレスの採寸して、装身具オーダーしに行こう」
「うん」
マルガが泣き出したのでエーリヒは慌ててカフェから連れ出した。手を握り合って歩く道のりは明るい幸せの道のようにマルガには見えた。
上位貴族は政略が多いが、下位貴族は紹介でとか家同士が親しいからとかで縁を結ぶ事が多かった。だから出会いのチャンスとして騎士爵家、男爵家、子爵家子供が集められていた。
マルガは乗り気ではなかったが、兄が行くというのでついでに連れてこられた。隅の方で庭園の咲き誇る花に見惚れていたら後ろから声をかけられた。
「退屈?」
「はい。知ってる人もいないので」
「そっか。じゃあ僕と話さない?僕はフリッツ・ボーデ 子爵家だよ」
ここでは上位の貴族だ。マルガは慌てて礼をした。
「私はマルガ・ヘルマン 男爵家です。」
それから二人はフリッツの好きな本の話になった。マルガの家には実務本のみで娯楽本などなかったので読んだ事がないというとフリッツが貸してあげると言った。社交辞令だと思っていたら、数日後先触れが来てフリッツが本を抱えて会いに来た。
それから本を貸してもらい返すと言う交流が始まった。フリッツは穏やかな人で話しやすく、好意を持ってくれているのがはっきりわかった。
手紙のやり取りもあり、半年ほど付き合った後子爵家から婚約の申し出があった。
マルガとしては嫌いではないが好きで困るような気持ちは持ってなかった。子爵家からの申し出を断るのは大変だが、マルガが嫌なら断るよと父親に言われた。
マルガが考えあぐねている時に年上の幼馴染で男爵家が商会を任せている会頭の息子のエーリヒが訪ねて来た。
「マルガ 婚約を申し込まれたって本当なのか?」
エーリヒは平民だが男爵家が資本を出している商会の会頭の息子で、ほんの小さな頃からの知り合いなので砕けた言葉使いなのだ。
「本当よ。お父様が嫌なら断ってもいいって言ってくれたけれどよく分からなくて困ってるの」
「その男を好きなのか?」
「だからわからないの。いい人だとは思うけれど、本にあるようにその人のことを思うと動悸がするとか夜も寝られないとか、そういうのはないのよ」
「そんな程度で婚約はできないだろう?」
「うーん 好意を寄せてくれてるのは本当にわかりやすいの」
「そんな程度で一生決めるつもりか?やめておけよ。だいたいマルガはまだ子供だよ。婚約なんて早すぎるよ。子供だから恋とかわからないんだろう?」
エーリヒはもう父親に付いて商会の仕事をしている。経験を積むために王都の他の商会に三年修行に行くので挨拶に来たと言う。
エーリヒはとても女性にもてる。背が高くて端正な顔立ちをしているのと貴族が資本を入れている商会の跡取りとしてきちんとしつけられてるので言葉使いもきちんとして所作もきれいだ。王都に行けばもっと女性がまとわりつくだろう。
それなのにマルガのことは子供だ子供だと小柄な事を気にしてるのに言い過ぎだとマルガは思った。なんだか知らないけれど子供だと言われるたびにむかむかして気持ちが騒ついた。
「エーリヒに私の婚約のことなんて関係ないでしょう。放っておいて」
つい強い言葉も出てしまう。エーリヒはなんだか傷ついたように黙り込んだ。
エーリヒはそれ以上何も言ってくれなかった。だったら好いてくれてるのがよくわかるフリッツを選ぼうと思った。その頃エーリヒは王都に修行に出ていた。
それから学院に入学するまでフリッツはわかりやすい好意をマルガに向けて、マルガはそれを受け入れて、燃え立つような仲では無いが穏やかに過ごせると思うようになった。
それなのにフリッツは燃えるような恋を見つけて、マルガを蔑ろにするようになった。
フリッツがそう言う態度を取るようになってから実家には相談の手紙を書き、男爵家では婚約を解消できるように子爵家に話に行ってもらっていた。フリッツの学院での所業は一学年上のマルガの兄の証言もあるので、子爵家には強く出られた。
マルガはレイチェルにフリッツとは実際にどう言う仲なのか聞いてみようと、話をするためにレイチェルを呼び止め、裏庭に出向く前に間の悪いことにフリッツに捕まり悪口雑言を浴びた。マルガはこれで本当にもう終わりだなと思い、顛末を伝え早く婚約を解消してくれるように父親に手紙を書いた。
しばらくしてフリッツに呼び出されて婚約破棄を告げられた。もうすでに婚約は解消する手続きに入っていたので、フリッツに婚約破棄と言われても困らなかったが、ほんの半年前まではマルガマルガと言ってくれた人の変わり身の早さだけは悲しかった。恋とはこんなに人を変えるものかと思うとマルガのフリッツへの気持ちは恋では無かったとしみじみと思った。
学院では大体の生徒がマルガに同情的だが、婚約者を寝取られた女として嘲笑う人もいるので、残りの学院生活は気持ちよく過ごせなかった。
そしてある日レイチェルが第二王子の愛人になった事を噂で聞いた。王族のことなので、みんな表立っては噂しないが、貴族の間で密やかに広まっていた。
その噂を聞いて、フリッツは捨てられたのかと思ったが、気の毒とも何とも思わなかった。強いて言うなら自業自得なんだろう。
その噂が広まってから時々レイチェルが第二王子に肩を抱かれ、第二王子の側近候補達と一緒にいるのを目にするようになった。
マルガはレイチェルには何の恨みもなかった。フリッツはあの程度の恋で婚約者を捨て去るようなら、結婚してからも、真実の愛を見つけたとか言って浮気に走るだろう。結婚する前でよかったのだと思った。
卒業まであと数ヶ月というある日学院の寮にエーリヒが訪ねて来た。一緒に外出してくれないかと。
三年ぶりのエーリヒは都会の水に洗われて男ぶりが一層上がっていた。これは女に囲まれているだろうと思って胸がチクリと痛んだ。
お洒落なカフェに連れて行かれた。エスコートの仕方も堂に入ってこれは何人もの女性と付き合ったのだろうと思うとますますマルガの胸は痛んだ。エーリヒはマルガの目をしっかり見て言った。
「婚約を解消したこと領主様から教えていただいた」
「お父様お喋りね。娘の醜聞を言いふらさないでよ」
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「マルガ!話を聞いてくれ。結婚してくれないか?」
何を言われてるか理解できなかった。いつも子供扱いしてたエーリヒが何を言ってるんだか。
「領主様にも許可は得た。マルガさえうんと言ってくれれば卒業したらすぐ結婚しよう」
「私なんかエーリヒにとって子供でしょう?女の人にもてたじゃない。王都で知り合って他にいくらでもいるでしょう?」
「誰とも付き合ってないよ。マルガが婚約したと聞いてなぜあの時領主様にマルガを嫁にくれって言わなかったか後悔したんだ。それからずっとマルガだけ思って来た」
「うそ」
「嘘じゃない」
「子供だって言ってたじゃない」
「ごめん。主筋に当たるお嬢様を望めないから、マルガは子供って自分に言い聞かせていたんだ」
エーリヒがテーブルの上のマルガの手を握った。
「早く言ってよ。言ってくれたら婚約なんてしなかったのに。子供の頃からエーリヒが好きだったけどエーリヒはもてるから私なんて眼中にないと思ってた」
マルガは腹が立ってきた。フリッツに裏切られて相当つらい思いしたのにと。エーリヒ遅い!遅いよ。でもエーリヒが自分を望んでくれるなんて嘘みたいだ。
「嘘じゃないよね。嘘だったら許さない」
「信用ないな」
エーリヒは苦笑いをする。
「本当に本当だよ。卒業パーティーのエスコートしていい?これからドレスの採寸して、装身具オーダーしに行こう」
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