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間違えた男達
カイ
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カイは父の後を継いで宰相になりたいと思っていた。カイにとってライラとの婚約はそのための第一歩で政略の駒。それ以上でもそれ以下でもなかった。
家の利益で決まった婚約者として引き合わされた時何の感情も浮かばなかった。嫌悪感を抱かないで済んだだけましと思っていた。
それから何度も会わされた。カイはどうせ結婚することは決まっているのに、親睦を深めろという親達の気持ちがわからなかった。
連れてこられて、遊ぶようにと言われたが、カイはライラをもてなす事を条件に買って貰った本が読みたいため不満だった。二つ年下の女の子なんて扱い方も知らなかった。ライラはなぜかカイの側で上機嫌でカイにまとわりついて来た。親に丁重に扱うようにと念を押されてなかったら、さっさと置き去りにしたと思う。
ライラは勝手にまとわりついて勝手に転ぶ。カイはため息をつきそうだったが、なんとか押さえてライラを立たせに向かった。ライラ避けにカイが本を読んでいるとライラも一緒にと言って顔を寄せて来る。自分のペースで本を読めない事に苛立ってライラに自分が昔に読んでいた初歩の本を渡した。
別に好意ではない。自分が邪魔されたくないためだったが、ライラはいつも嬉しそうだった。別に優しくしてなかったし、これと言って好かれるような事もしていないから、ライラは変わっていると思っていた。
学院入学前までは月に一回のお茶会のみでそれ以上無理して会いたいとも思ってなかった。だがライラは違ったようで、観劇や散策やら色々誘って来た。全て断ると親がうるさいので三回に一回は同行した。
一緒にいるとカイが素っ気なくてもライラは嬉しそうだった。カイに向ける微笑みは幸せそうだった。感情の起伏に敏感ではないカイですら、気付くほどライラの好意はあからさまだった。
ある日弟のアレックスに言われた。
「兄上の婚約者は美人で聡明で兄上にベタ惚れだ。羨ましい」
そうか あのライラの好意は恋愛感情なのかと思った。自分は何とも思ってないが、好かれているなら多少蔑ろにしても文句は言うまいと尊大にも思った。
カイはこの時相手にも感情がある事、恋愛感情は絶対でない事に思い至らなかった。
それからカイは自分のしたいことを優先して、ライラからの外出の誘いは全て断り、月一回のお茶会も気が向かないと出向かなかった。ライラが待ちぼうけをして何時間も待っていたと聞かされても、自分を好きなら我慢しろと思っていた。
そして学院に入学し、レイチェルに出会い愛人にしようと決めた時ライラに
「君との結婚は家同士決めたことだ。簡単には解消はできないよ。君とは絶対に結婚するから安心して。学院では弁えて欲しいだけだから」
と告げた。家同士の利益で結ばれた政略結婚なのだから、愛人など持つのは普通だった。跡取りさえ設ければ好きにしていいのだ。しかもライラは自分を好いている。結婚さえ確約してやれば泣いて喜ぶだろうと愚かにもそう思っていた。
そして今自分は領地にいる。絶対に揺るがないと思っていた跡取りの座は弟に移り、絶対結婚すると思っていたライラも手の内から抜け落ちて行った。
領地での暮らしは悪いものではなかった。父は宰相として王都を離れることができないので、代官として領地を治めている者の補佐として仕事をこなせばよかった。将来は代官をすることになるだろう。元々文官になる予定だったので仕事もそう難しいものではない。
暮らしも領地の邸で領主の一族として丁重に扱われている。辺境の地に行かされたグスタフ、アルベルトに比べて軽い罰だ。
それでも思う。自分はどの時にあんな事をしなければこんなふうにならなかったのかと。
ライラの好意に胡座をかいて好き放題したことが間違いだったのか。ライラの気持ちは絶対だと思って結婚前から愛人を持とうとしたことが間違いだったのか。
結局自分はライラをどう思っていたのだろう?安全牌それだけだったのだろうか?
そんな風に思いながら淡々と日常が過ぎた。その間に弟が文官として王宮に上がり父の下に付いたと聞いた時は流石に動揺した。幼い頃からそこは自分の位置だと思っていたからだ。それでも諦めるしかないと傷を舐めて何とか気持ちを修めた。
弟が婚約者と結婚した後カイにも領地の貴族では無いけれど、長く領地の邸に勤めて来た者の孫娘との縁談が持ち上がった。
一度会えと父に言われて会った。可憐で笑顔の可愛い少女だった。でもライラではなかった。カイはここに来て自分の気持ちに気がついた。ライラが好きだった。自分に向ける笑顔が好きだった。彼女と結婚できる未来が待ち遠しく思っていた。どこで何を勘違いして何とも思ってないなどと思ったのだろう。
結局その少女とは結婚はしなかった。心の中にライラがいる限り自分は一人でいいと思い父に断りを入れた。父は哀れみの籠もった目でカイを見つめ、ライラがユール王国に留学し、結婚して戻って来た事を教えてくれた。思わず動揺したが自分にその資格が無いことに思い至り、ライラが人妻になっても自分は一人でいる事を選ぶと父に伝えた。
そして今日もカイは淡々と日常の仕事をこなしている。最大の後悔を抱きながら。
家の利益で決まった婚約者として引き合わされた時何の感情も浮かばなかった。嫌悪感を抱かないで済んだだけましと思っていた。
それから何度も会わされた。カイはどうせ結婚することは決まっているのに、親睦を深めろという親達の気持ちがわからなかった。
連れてこられて、遊ぶようにと言われたが、カイはライラをもてなす事を条件に買って貰った本が読みたいため不満だった。二つ年下の女の子なんて扱い方も知らなかった。ライラはなぜかカイの側で上機嫌でカイにまとわりついて来た。親に丁重に扱うようにと念を押されてなかったら、さっさと置き去りにしたと思う。
ライラは勝手にまとわりついて勝手に転ぶ。カイはため息をつきそうだったが、なんとか押さえてライラを立たせに向かった。ライラ避けにカイが本を読んでいるとライラも一緒にと言って顔を寄せて来る。自分のペースで本を読めない事に苛立ってライラに自分が昔に読んでいた初歩の本を渡した。
別に好意ではない。自分が邪魔されたくないためだったが、ライラはいつも嬉しそうだった。別に優しくしてなかったし、これと言って好かれるような事もしていないから、ライラは変わっていると思っていた。
学院入学前までは月に一回のお茶会のみでそれ以上無理して会いたいとも思ってなかった。だがライラは違ったようで、観劇や散策やら色々誘って来た。全て断ると親がうるさいので三回に一回は同行した。
一緒にいるとカイが素っ気なくてもライラは嬉しそうだった。カイに向ける微笑みは幸せそうだった。感情の起伏に敏感ではないカイですら、気付くほどライラの好意はあからさまだった。
ある日弟のアレックスに言われた。
「兄上の婚約者は美人で聡明で兄上にベタ惚れだ。羨ましい」
そうか あのライラの好意は恋愛感情なのかと思った。自分は何とも思ってないが、好かれているなら多少蔑ろにしても文句は言うまいと尊大にも思った。
カイはこの時相手にも感情がある事、恋愛感情は絶対でない事に思い至らなかった。
それからカイは自分のしたいことを優先して、ライラからの外出の誘いは全て断り、月一回のお茶会も気が向かないと出向かなかった。ライラが待ちぼうけをして何時間も待っていたと聞かされても、自分を好きなら我慢しろと思っていた。
そして学院に入学し、レイチェルに出会い愛人にしようと決めた時ライラに
「君との結婚は家同士決めたことだ。簡単には解消はできないよ。君とは絶対に結婚するから安心して。学院では弁えて欲しいだけだから」
と告げた。家同士の利益で結ばれた政略結婚なのだから、愛人など持つのは普通だった。跡取りさえ設ければ好きにしていいのだ。しかもライラは自分を好いている。結婚さえ確約してやれば泣いて喜ぶだろうと愚かにもそう思っていた。
そして今自分は領地にいる。絶対に揺るがないと思っていた跡取りの座は弟に移り、絶対結婚すると思っていたライラも手の内から抜け落ちて行った。
領地での暮らしは悪いものではなかった。父は宰相として王都を離れることができないので、代官として領地を治めている者の補佐として仕事をこなせばよかった。将来は代官をすることになるだろう。元々文官になる予定だったので仕事もそう難しいものではない。
暮らしも領地の邸で領主の一族として丁重に扱われている。辺境の地に行かされたグスタフ、アルベルトに比べて軽い罰だ。
それでも思う。自分はどの時にあんな事をしなければこんなふうにならなかったのかと。
ライラの好意に胡座をかいて好き放題したことが間違いだったのか。ライラの気持ちは絶対だと思って結婚前から愛人を持とうとしたことが間違いだったのか。
結局自分はライラをどう思っていたのだろう?安全牌それだけだったのだろうか?
そんな風に思いながら淡々と日常が過ぎた。その間に弟が文官として王宮に上がり父の下に付いたと聞いた時は流石に動揺した。幼い頃からそこは自分の位置だと思っていたからだ。それでも諦めるしかないと傷を舐めて何とか気持ちを修めた。
弟が婚約者と結婚した後カイにも領地の貴族では無いけれど、長く領地の邸に勤めて来た者の孫娘との縁談が持ち上がった。
一度会えと父に言われて会った。可憐で笑顔の可愛い少女だった。でもライラではなかった。カイはここに来て自分の気持ちに気がついた。ライラが好きだった。自分に向ける笑顔が好きだった。彼女と結婚できる未来が待ち遠しく思っていた。どこで何を勘違いして何とも思ってないなどと思ったのだろう。
結局その少女とは結婚はしなかった。心の中にライラがいる限り自分は一人でいいと思い父に断りを入れた。父は哀れみの籠もった目でカイを見つめ、ライラがユール王国に留学し、結婚して戻って来た事を教えてくれた。思わず動揺したが自分にその資格が無いことに思い至り、ライラが人妻になっても自分は一人でいる事を選ぶと父に伝えた。
そして今日もカイは淡々と日常の仕事をこなしている。最大の後悔を抱きながら。
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