見捨てられた男達

ぐう

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番外編

逞しい女 2

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「あら~サラじゃないの。結婚するんですってね。ウィルの事諦めたの?」

 いつのまにかカミラが男の腕を離して、サラ達の席の横に来ていた。

「カミラ 相変わらずね。私の家にはあなたの実家のゴルド花園の力は効かないわよ。あなたに偉そうに言われる謂れは無いわよ」

 サラが言い返してる。

「あら だって 私が取っちゃって悪いことしたなーと思っていたのよ。サラがウィルを好きだったなんて。結婚前に知ってたら遠慮したかもよ」
 
 そう言ってクスクス笑い、嫌味な言葉を発するカミラは見た目は綺麗なのにとても醜かった。レイチェルはあの時見た大人しそうなお嬢さんの実像がこれかとウィルに少し同情した。出て行きたいがここで目立つような行動は取りたくない。カミラと男が出て行ったらそっと出て行こうと盗み見るのを止めてテーブルに俯いて代金をハンドバックから出して用意をした。

「でもサラにしてはいい男に嫁入りするみたいだけど、結婚式に行ったら私が花婿を誘惑してあげるわよ。どんな男でも私が言い寄れば……」

「鏡を見たら?あんたがお金で男を買ってるのみんな知ってるわよ。あの男だってチケット買ってもらうためにあなたと寝ているって有名よ」

 サラが最後まで言わせずに言葉をぶつけた。そう言うとカミラの顔が歪んだ。

「ウィルを私に取られたから負け犬の遠吠えね!覚えてなさいよ!父さんに言い付けてやるんだから!」

 カミラは一緒にいた男を置いて一人で代金も払わずに飛び出して行った。男の方も慌てて出て行こうとして店員に止められていた。
 サラの友達がサラを心配しているようだった。

「サラ 大丈夫?」

「家は金物屋だし嫁入り先は登録所の書記官だもの。カミラの実家の花園とはなんの関係もないわ」

「自分の実家がどれだけ偉いと思ってるのかしらね。さあ サラのお祝いを買いに行くために来たのだから気分を変えてもう行こう」

 サラは友達と店を出て行った。

 レイチェルは少し間を開けてそっと店を出た。サラがウィルを好きだった事を知って、サラを恨んでいた気持ちが少し薄くなった。ゼロにはならないけれど、好きな気持ちって切ないなと思った。
 自分がアルベルト達と関係を持ったのはウィルを見返したい一心だったけれど、それは裏返すとウィルが好きだったと言う事なのかなと思いながら帰路に着いた。


 
 滋養薬はアンによく効いて、体調は上向いてきてレイチェルはほっとした。
 それでも思い悩むことがあるらしく、いつも口数も少なかった。
 レイチェルは気になったけれど、どうしようも無く、自分は自分のできる事をしようと思った。
 まず職を探し始めた。学院の二年間で読み書き計算はできるようになり、知識もそこそこあるようになったので、何か固い職に付いて母を養いたかった。でも職業斡旋所に行って知ったことは、固い職には職に付いている保証人がいると言うことだ。読み書きの試験を受けて合格しても保証人がなければ採用してもらえなかった。


 思い悩んだレイチェルはもうこれしかないと、突飛な行動に出た。多分だめだろうけれど何もしないよりましだと思っていた。

 数ヶ月後ある人が訪ねて来た。

「やあ 元気かい?」

「私は反省のない馬鹿娘なので元気ですが、母さんが今にも消えそうです」

「アンは?」

「奥の自室で横になってます」

 その人は慌てて中に入って行った。

「クラウス様!」

「アン!」

 お互い叫びあってその後は声が聞こえなかった。レイチェルは馬に蹴られたくないので、台所で職業斡旋所の募集一覧をチェックしていた。
 数時間経ってから、クラウスが台所にやってきた。

「レイチェル アンが同意してくれた。来てくれるか?」

 クラウスと客間に行くと、泣き腫らした目をしたアンがいた。

「レイチェル クラウス様に手紙を書いたの?」

「だって 母さん クラウス様恋しさのあまり死にそうじゃないの。駄目で元々と思って手紙を書いたの。クラウス様が母さんの事忘れてなかったら私が書いた条件でなんとかならないかなぁて」

 クラウスが心配そうにレイチェルを見た。

「本当にいいのか?」

「クラウス様 かあさん 私もう成人してます。一人暮らししてもいい年でしょ。平民には戸籍が無いから、アンの娘レイチェルが消えても問題は無い。代わって両親無くしたレイチェルが一人暮らしして働いて生きて行く。だからアンの娘レイチェルは死んだ事にして。何かいい名前ないかな?母さん名付けてくれる?」

 アンはまた泣いている。その肩を抱いたクラウスが封筒をレイチェルに手渡した。

「わかった。アルベルト様は王族から離れたし、レイチェルの件は学院では素行不良で放校と記録されている。娘を亡くしたアンを私の妾に戻しても問題ないだろう。それとレイチェルが望んだ就職の際の保証人は別邸の執事に話を通して書いてもらった。別邸で過ごした明るいレイチェルに好感を持っていたそうだ」

「ありがとう!これで私は新しいレイチェルで生きていくよ。それでここ一人では広いからクラウス様にお返しします」

「治安の良い場所にアパートを借りようか?」

「はい。あと、もう着ない貴族のお嬢様のドレスや大きい宝石が付いた装身具を売りたいのですが、若い女が持っていくと足元見られるので誰か付いて行ってくれませんか?」

「じゃあ 別邸の執事にそちらも頼むよ」

「ね 母さん 幸せになって。私が邪魔してしまったけれどこの先は別々に幸せになろう」

「レイチェル 親娘の縁を切るのは辛いわ」

「大丈夫 手紙書くから。このために学院行って読み書き習ったのかもよ」


 そしてヒューゲルト家から譲渡された家を出ていく日になった。迎えの馬車の前でアンがレイチェルを抱きしめている。

「手紙ちょうだい。私はクラウス様に書いてもらうわ」

「絶対書くから」

 遠ざかる馬車にずっと手を振っていたレイチェルは小さいトランク一つ持って、自分の新しい棲家に歩いて行った。
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