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フェリクスは内心の哀れみを押し込めてエルビスに告げた。
「ご苦労だった。また証言を頼むことがあると思う」
「はっ了解です。失礼します」
エルビスを出入口の同僚が見送った後アランがフェリクスに向き直った。
「あの噂は本当かもしれませんね」
「そうだな。しかし噂は噂だ。真実とは違うかもしれない。次は誰だ」
「失礼します」
ドアの外から声がかかった。
「誰だ」
「近衛第一騎士団所属 エリック・ベンソンであります。」
「なんだ」
「デングラー公爵が到着されて、御令嬢と対面されております」
「そうか 今行く。アラン 後の人物の尋問は後回しだ。デングラー公爵の話を聞く」
アランと護衛を引き連れてフェリクスは保健室に向かった。フェリクス達一行を不躾に眺める貴族子女はいない。だがフェリクス達に常に視線がまとわりつく。まるで監視するかの様に。
「なあ アラン 私達が在学していた頃の学園はもっと明るい雰囲気だったと思うのだが」
アランは侯爵子息でフェリクスの側近候補として三年前にフェリクスと学園で一緒に過ごしていたのだった。第二王子とは三歳違いのため一緒に学園生活を送った事はない。
「そうですね。言葉にし難いのですが暗くて陰鬱な雰囲気が漂っています。こんな事件が起きたせいかとも思ったのですが……それにしても」
「在校生が怯えてる?」
「そうですね。そんな感じです」
フェリクスは立ち止まった。
「アラン 念の為だ。学園を封鎖して在校生を帰すな。教室で待機を申しつけろ。それと近衛の応援を……」
「もう閉鎖してあります。在校生が逃げ帰ろうとしたのも捕まえて教室に押し戻してあります。近衛の増員もそろそろ到着するはずです」
本来なら王族の言葉を遮るなど不敬だが、アランとフェリクスの仲だ。フェリクスは気にしない。ニヤリと笑って
「さすがだな」
と褒めた。
エリックの案内で保健室にたどり着くと、中から低く啜り泣く声が聞こえた。
「エリック以外の護衛は出入口で待て。最後の別れをしている親娘の邪魔を大人数でしてはいけない」
そうフェリクスは目を伏せ、アランに先触れを頼んだ。アランがノックをして先に入って行った。フェリクスの到着を伝えているのだろう。そしてアランがまた出てきた。
「デングラー公爵閣下が申し訳ないがもう少し二人きりにしてほしいとのことです。ただ……」
「なんだ」
「被害者の義弟に当たるエトムント・デングラーの行方を聞かれて私が見聞きした事を伝えておきましたがよろしかったでしょうか」
フェリクスはこいつはとわかってやっているなと思った。
「事実なんだろう?だったら構わないだろう。それで?」
「はい 別れが済んだら自分から殿下が尋問をしていらっしゃるところに参上するので待って欲しいと」
「無駄足か……いやそうでもないか」
フェリクスはそう言うと視線を騒いでいる男に向けた。
「どこだ!どこにいるんだ!マリアは!」
警備に当たっているフェリクスが引き連れて来た近衛騎士に掴みかかる勢いで詰問しているのは第二王子アルベルト。アルベルトの側につかつかと足音を立てて歩み寄った。さすがにフェリクスを視界に入れるとアルベルトは詰問をやめた。
「何を騒いでいる。その保健室にはデングラー公爵令嬢の遺体が安置され公爵と対面中である。静かにしろ。お前は死者に対する哀悼の気持ちすらないのか」
そう言われて少しは怯んだようだが
「でも 兄上!マリアは無罪です!あの女が罪を着せるために自分で落ちたに違いありません!」
大きな声を出して主張する。
「アルベルト」
フェリクスに腹の底からの低い唸るような声で名を呼ばれて、今回はさすがに怯んだ。
「先程から言っている。ここは死者を哀悼しているものがいる場所だ。お前のような愚かものが立ち寄っていい場所でない」
フェリクスは後ろの護衛に顔を向け『連れて行け』と言った。引きずられるように連れて行かれる弟を見てフェリクスは密かにため息をついた。
「愚かすぎて言葉も出ない」
アランについこぼすと、励ますように
「殿下 戻りましょう」
とアランに声をかけられてフェリクスは元来た廊下を戻って行った。
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