魔王を倒した直後に仲間に裏切られ、殺されかけた勇者は、復讐なんてせず、のんびり旅に出た

歌音

文字の大きさ
8 / 11
序章/裏切られた勇者は…

8.勇者はかつての仲間と再会しました。でも…

しおりを挟む
『ジーくんへ 貴方のギネヴィアより』

文字通り、どこからともなくヒラヒラと降ってきたのは、昔の仲間からの手紙。

ルクと双女王もそれをマジマジと見ている。

ジークが生きている事を知っているのは、ここにいる魔王ルクレッツァ=スルトとエレンシア双女王クローディア・セレスティア、そしてドワーフの国・ダイナストの王女イヴの四人だけ。

細心の注意を払い、四人はジークの存在を隠していたのだが…四人は納得する面もある。

『この稀代の大魔導師・・・・・・・が本気になれば自分達の匿いなど、筒抜け』
 
ギネヴィア=M=エレンシア…どんな系統であろうと、魔術を扱う者で彼女の名前を知らない者はいない。

エレンシアの皇女でありながら、白魔術・黒魔術の深奥を極め、ありとあらゆる『血統魔術』を解析・習得し、次代の魔王候補の一人である・・・・・・・・・・・・・大魔導師。

「…まったく、ギネヴィアめ。私達の動きを監視しておったな」

「ギネヴィア様は抜け目ないですからねぇ~」

「まったく、魔王が乱立している・・・・・・・・・のに、なんで魔王になってないんだか…」

偽物の可能性をジークは考えたが、手紙に施されている封蝋シーリングワックスに印璽で押されているのは過去にギネヴィアがジークをイメージして描いたものだ。

「…はぁ~」

ジークは一息吐いて、

「生きてて良かったぁ」

心の底から安堵の言葉を出す…そして、心を引き締める。

生きていたのはともかく、現われたのはこの『手紙』だけ。

もしかしたら…考えたくもないが、現国王であるリュート、妹であるセルフィに追われて、自分に助けを求める手紙かもしれない。

そう、何一つ油断してはならない。

あの時を繰り返さない為に…

「…開けるよ」

ジークは封蠟をゆっくりと外し、中身を取り出す。

そこには…

「魔法陣…って、うわっ!?」

一枚の紙に描かれていた魔法陣が赤く光り出す。

魔法陣が描かれた紙がジークの手を離れて、空中で飛散すると魔法陣が現れ、徐々に地面に降りる。

魔法陣はさらに赤く輝く。

強烈な輝きにジーク達が眼を閉じ、再び眼を開けた時、一人の女がいた。
 
艶のある美しい黒髪を持つ美女で、魔術師が好んで着用する帽子をかぶっている。

男を魅了する肉付きの言い肢体にぴったりとした黒い毛皮付きの黒いローブ纏い、手には細部まで魔導文字が施された杖を持っている。

そして、全身には持っている者に力を与えるが、見合った実力がないと逆に命を奪われるという諸刃のような雰囲気を発している金銀細工をジャラジャラ付けていた。

ジーク見つめる妖艶な瞳、魅了する唇…

女はジークに柔らかくほほ笑むと、そのまま拝跪する 。

「偉大なる大魔王様に恐れ多くも拝謁いたします」

彼女は己の杖をジークの前に差し出す。

それは、完全に服従を示す証しだった。

「我が名は『ヘラ』…分不相応にも『魔導女帝』の称号を冠しております」

『ヘラ』の体の服が透き通るように消えていく。

「此度、大魔王様に我が力、我が叡智、そして我が全てを献上したくまいりました。どうか…大魔王様の下僕に…」

「突然現れて何やってんのギネヴィア!?」

「あっらぁ、ジーくんたらノリ悪い~♪」

妖艶な雰囲気とは打って変わっておっとりとした表情を見せて、立ち上がる。


たゆんっ


揺れるふたつの果実。

「服着て!服!」

「んもう、相変わらずねぇジーくん♪私はいつでもオッケイなのに~♪ほぉら、」


たゆんたゆん


「美味しいから、い・た・だ・き・ま・す・は♬」

「やめんか、後輩!」

「きゃんっ!」

ルクの後頭部ヘッドバッドにより目に火花が飛ぶ『ヘラ』。

「久しぶりじゃの~、我が軍を焼き尽くしたり、凍てつかせたり、雷撃落としまくった憎たらしい魔女ギネヴィア。てかいつの間に『魔王』になったんじゃ!?」

「あらぁ、魔王ちゃん、久し振り…ん~、今は先輩ちゃんって呼んだほうがいい♪」

「ふん、魔王のひとりになった・・・・・・・・・・か…しかも、あの数百年間領主が不在だった『死者の大地ヘルヘイム』を領地としたのか」

ルクは目をパチクリさせて、

「何もあんな辺鄙な所の領主にならんでも」

「ん~、燃え盛る大地ムスペルヘイムを領地にした先輩ちゃんに言われたくないの~♪」

呆れた顔のルクに柔らかく微笑みながら、ギネヴィアは今度は双女王にニッコリ笑う。

「あらぁ、先輩ちゃんもちんちくりんだけど、女王様達もちんちくりんねぇ~♪そんなんじゃ『おっぱい魔人』のジーくんは靡かないわよ♪」

「なっ!?」

「むぅっ!?」

たゆんと揺れるギネヴィアの乳房に目が鋭くなる二人。

「言っとくがな!これは魂を分けているからで実際はナイスバディーなのだぞ!」

「そうですわ!それにこの姿でも私の美しい肌は健在ですの!」

「ふふん、負け犬の遠吠えねぇ♪」

これ見よがしに寄せて上げるギネヴィア。

「ギ、ギネヴィア…」

「ん?どうしたのジーくん。顔真っ青にして?」

「ま、魔王って…?」

それを聞くとギネヴィアは今度は子供っぽくニンマリと笑って、

「そう♪私、ジーくんのお嫁さんに相応しいように、『魔王』になっちゃいました♬」




勇者はかつての仲間と再会しました。でも…その仲間も魔王になってました。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...