魔王を倒した直後に仲間に裏切られ、殺されかけた勇者は、復讐なんてせず、のんびり旅に出た

歌音

文字の大きさ
3 / 11
序章/裏切られた勇者は…

3.勇者は復讐をそそのかされました。でも…

しおりを挟む
魔王の脅威が襲い、人々の平和を脅かしていたある日、エクセリア皇国から正義の女神・アテネス様の加護を受けた六人の勇者と一人の従者が旅立ちました。

皇国の白百合・姫騎士セルフィリス。

皇国の黒薔薇・魔術姫ギネヴィア

白銀の聖騎士・聖剣の勇者リュート。

鋼の拳を持つ格闘王・拳王グランドマスターグラム。

美しき女傭兵・戦乙女ヴァルキュリアエルス。

神技の弓手・弓聖アーラシュリッカ。

そして…従者サーヴァント・ジークが共に旅立ちました。




六勇者と従者は共に苦難を乗り越え、魔王城に辿り着き、魔王を打倒しました。

しかし、魔王を倒した直後、六勇者に更なる魔の手が!

なんと従者が六勇者を恐ろしい闇の力で襲いかかったのです。

六勇者は驚愕しました。

自分達に優しかった従者・ジークの正体は魔王すらも支配する、恐怖と絶望の象徴である、『大魔王』だったのです。

『大魔王』は今までに何度も六勇者達の道中をばれないように困難に陥れ、魔王との戦いで疲弊した六勇者にトドメを刺そうという卑劣な手段を用いました。

魔王との戦いで疲弊した六勇者に容赦無く暴虐の限りを尽くす『大魔王』。

女神アテネスの加護を受けた聖ナイフが輝き、『大魔王』を弱らせ、勇者リュートの聖剣の一刀が『大魔王』を倒しました。

こうして世界の平和を取り戻した六勇者はそれぞれの故郷に帰り、幸せに暮らしました。





「幸せに暮らしました♪」

「………」

神妙にして微妙な顔をしながら無言で『絵本:六勇者の魔王退治』を読んでいるジークをニマニマしながら見て、自身も朗読する魔王。

「いやぁ、ちょっとでも罪悪感ってものがあるなら、せめて勇者として私と相打ちってことにするのに、これはないわー、ニンゲン怖いわー」

読み終わったジークは巻末を見ると『エクセリア皇国発行 監修:リュート=ブレイブハート』と書いてある。

双女王はハラハラしてジークの様子を窺っている。

「もう、死んだと思ってるモノだからヤリタイ放題よね。自分達じゃ到底敵わない魔王わたしを相手させて、相打ち狙ってたのに勇者ちゃんが勝っちゃうものだから疲労で弱ってる勇者ちゃんをグサッ…と、まあ、あの『クッコロ』が似合いそうなお姫様ったら名役者よねぇ」

さらに追い打ちをかける魔王。

「落ち着けジーク。人生そんなに悪い事ばかりではないぞ」

「そ、そうですの。これからのあなた様次第ですの」

慰めようとする双女王の言葉を聞いて、ジークは少しの間目を瞑って、

「……もう驚かないし、沈まないよ。まったく、リュートの奴、徹底してるね」

ジークは絵本を再び読み返して考える。

「聖剣の勇者が……リュート?」

確かにエクセリアが待ち望んだ聖剣の勇者・・・・・・・・・・・・・・・・はリュートだった。

しかし、建国の聖剣『カレトヴルッフ』が選んだのは山奥で厳しい『母親』と共に修行していたジークだった。

魔王討伐の為に、城で封印を解かれた『建国の聖剣カレトヴルッフ』をリュートが授かろうとした瞬間、カレトヴルッフは光り輝き、流星のように自分の元に向かった。

それを使って僕は魔王軍の幹部の一人を薙ぎ払った事が、冒険の始まりだった。

その時、『建国の聖剣カレトヴルッフ』を追ってきたセルフィとリュートに僕は出会った。

(よく考えなかったけど、リュートはどんな気持ちだったんだろう。出会ったあの時から…始まっていたのかもな)

「ふふっ、モノは考えようよ、勇者ちゃん……いえっ」

突然、小さな魔王はその姿に似合わない真剣な顔をして、勇者の前に頭を垂れる。

「我を屠った、最も強き力を持つ、偉大なる勇者」

「………」

真剣な瞳で魔王を見るジーク。

すると二頭身だった魔王が少しずつ大きくなり、いつの間にか戦った時の姿に戻っている。

「人間共に裏切られ、しかも真名と誇りを貶められ、あなたは人間にとって最大の『悪』となった。今こそ、卑劣なる人間共に裁きの鉄槌を下す時です」

魔王はジークの瞳を真っ直ぐ見つめ、両掌を上げると、魔王の手に一本の剣が現れる。

「この魔王『黒炎の皇女』、真名『ルクレッツァ=スルト』。勇者ジーク様…いえ、『伝説の邪竜ファフニール』から全てを受け継ぎし、大魔王『ジークフリート=ファフニール』様」

魔王はにっこりと笑い、

「今この時より、我は大魔王様の忠実な僕となり、お仕えいたします。さあ、我が魔剣『獄炎の庭園レーヴァテインをお受け取り下さい。そして、大魔王様の覇道の第一歩として、人間共への復讐をいたしましょう」

魔王の言葉に双女王は顔を歪ませる。

事前に三人の中にはある程度の話し合いがあった。

魔王があからさまにジークを闇に堕とそうとしているのは双女王は反対しているが、『人間共への復讐』に関しては大いに賛成している。

いにしえからの『呪縛』により、誰も助けてくれなかった自分達の運命・・・・・・を、己の命を賭してまで救ってくれた誰よりも優しく、そして愛しい勇者ひとを人間共は利用するだけ利用して殺そうとした。

この15年、何食わぬ顔で国交を求める裏切り者にんげん共の罪を責めたかった双女王にとって、ジークの今後は彼の意志一つだ。

いや、彼は復讐するだろう。

彼を自分に置き換えて考えると、己は怨嗟の想い抱き、全てを灰燼に帰すまで…根を絶やすまで恨みを持つだろう。

それをわかっていて、魔王はジークの声を待っている。

そして、それは双女王も…

しかし、当人のジークはキョトンとして、

「えっ?復讐なんて別にしないよ」

『へっ?』




勇者は復讐をそそのかされました。でも断りました。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...