魔王を倒した直後に仲間に裏切られ、殺されかけた勇者は、復讐なんてせず、のんびり旅に出た

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序章/裏切られた勇者は…

5.勇者は右腕の行方を知りました。でも…

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「さてと、いうわけで今後どうするかはまず置いといて…まずは現状確認ですね」

一通り落ち着いたジークは、ちょっと一息吐いて、ゆっくりと沈思した。

「まず、この『右腕』なんですけど、これは?」

エルフの双子女王は目を光らせる。

「気にするな。結納の代わりだ」

「私達と『イヴ姫』からですの」

「イヴ姫様も?」

「その腕は、かつてその色香で伝説を築いた数代前の女王であるシャーロッテ様が、あらゆる『ワザ』を使って籠絡した『雷神・トール』から貢がせたエレンシアの最秘宝『雷光の戦槌ミョルニル』を!」

「お姉様の灼熱魔法で溶かし、イヴ姫によるドワーフ族の秘術で精巧な義手に形作り、元の形に戻ろうとする『雷光の戦鎚ミョルニル』を私の『聖蔓の戒め』で封じたものですの!」

伝説級レジェンドどころか神話級マイソロジーものだった。

「な、何と恐れ多い…って今結納って…」

二人の『コトワッタラ、アンタヲコロシテ、ワタシモシヌ』という目を見て、外堀を埋められていることを感じながら、ジークはひとまず置いておくことにして、

「僕の『元の右腕』って、付いてました?」

「いいえ、右腕はありませんでしたの」

「それはもう見事に肩から綺麗になかった」

「ふむ…魔王知らない?」

「うーん、それに関しては私はノータッチ。勇者の右腕なんて貰ったら彷徨う特大腕魔人創ってるわ

ジークは三人が自分の本来の右腕の行方を知らないのを確認すると、意識を失う寸前の記憶が間違いではない事に確信を持つ。

「やっぱり、リッカが解体ナイフ(食肉用)持ってたのは、僕の右腕を切り落とす為か~…」

ジークは目を再び閉じて、沈思…

「………」

沈思…

「…一体、なんで?」

「そんな事もわからないの?大魔王様はアッポケねぇ~」

「………」

謂れのない暴言にちょっとショックを受けるジーク。

「そんなのエルフちゃん達も気づいてるわよねぇ~」

「まあ、なぁ」

「一つしか考えられませんですの」

この中で自分だけが解からない事を知って、ジークは自分はアッポケなのかと疑い始める。

「うふふ、大丈夫ですわジーク様。今回ジーク様がアッポケなのはアッポケなほどの優しい発想と女っ誑ししかできないアッポケ脳のせいですの。ジーク様がアッポケな訳ではありませんですの」

白い雪のような肌のエルフ女王の真っ黒い口撃に本格的なショックを受けながらも、素直に教えを乞うポーズを取るジーク。

「ふふっ、ジーク様はホントにダメダメで仕方ありませんですの~。私がいないとホントダメダメなんですから、私から離れちゃいけませんですのよ~」

優しい笑顔と妙な台詞で、宙に浮いてジークの頭を優しく撫でる妹を見て、『愛が歪んでおるのぉ』と心から思う姉黒エルフ女王。

「いいですのジーク様。ヒントはこの絵本ですのよ」

「絵本?」

「ほら、ココですの?」

「うん?『勇者リュートの聖剣の一刀が『大魔王』を倒しました。』?」

ジークは再び沈思する。

「リュートが聖剣カレドヴルッフを使える?」

ジークもそれは疑問にを持っていた。

自分が死んだからといって、リュートが建国の聖剣カレドヴルッフを使える理由はない。

リュートが何度も隠れて建国の聖剣カレドヴルッフを使おうと振るっていたのは知っている。

でも、現実は非情で、建国の聖剣カレドヴルッフは反応しなかった。

しかし、絵本を読む限り、リュートは建国の聖剣カレドヴルッフを使い手になっている。

「ねえ、今のリュートって建国の聖剣カレドヴルッフを使える?」

「小さな式典でもこれ見よがしにいちいち天に向かって聖光ひかりを放っておるぞ」

「大安売りですの」

ジークは顔を真っ青にして

「…魔王?ドン引きな事浮かんじゃったんだけど…」

「うん、地獄の苦しみを味わう上に、副作用を伴う定期処理をすれば『右手』付け替えて、聖剣騙せるわよ」

ジークは目の前が一瞬だけ真っ暗になり、

「…ごめん、僕の事より、あいつらの事教えてください」



勇者は右腕の行方を知りました。でも…自分よりもかつての仲間が心配になりました。
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