転生男爵令嬢のわたくしは、ひきこもり黒豚伯爵様に愛されたい。

みにゃるき しうにゃ

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伯爵様サイド

その3

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 顔合わせの日はあっという間にやって来た。

 あれから毎日貰った絵姿を眺めて、耐性をつけてきたつもりだ。それでも本物の彼女に会うと思うと緊張する。

 あの日から、縁談を受けてしまった事を後悔したり、いやこれで良かったんだと思ったり。

 父上は、断り続けていた縁談を突然勝手に決めてきたのにも関わらず、喜んでくれた。最近は諦めて縁談を勧めてくる事もなかったから尚更だ。

「これで孫が抱ける」

 そう笑った父上の顔を見て、苦い思いが走った。父上には悪いが、彼女には指一本触れないつもりだ。

 彼女が他の男に抱かれるのは許せない。かといって子供を作るわけにはいかないのだから。もちろん他の女に触れるつもりもない。ただでさえ彼女を悲しませるだろうに、それ以上傷つけるつもりはなかった。



 深呼吸をし、覚悟を決めて彼女の待つ部屋へと向かう。

 部屋に入ると彼女は慌てて立ち上がり、礼をした。

 その美しい瞳とパチリと目が合ってしまう。永遠とも思える瞬間。息が止まりそうになって、慌ててくるりと背を向ける。

 はああああ。かわいいーっ。絵姿なんてメじゃないホド本物かわいいーっ。うわー。生きてる。動いてるっ。え? どうしよう。彼女が俺の奥さんになるの? マジ?

 いや、落ち着け俺。結婚しても指一本触れないってさっき心に誓ったばっかじゃんか。あーでもそばにいてくれるだけでも嬉しいっっ。一緒に食事したり一緒に散歩したり……。

 ああっ、だから落ち着け俺! 冷静になれ俺!

 何度か深呼吸して、もう一度覚悟を決めて、彼女の方を向く。だけど直視はしない。見たら可愛すぎて顔がニヤける事間違いなし。だから出来るだけ見ない。あー、それでも目の端っこに映る彼女、かわいい。

 俺はとにかくニヤケないよう、顔を引き締める。

「はじめまして、メリル嬢。この度我々は縁を結ぶ事になったわけだが、その前に少し確認しておきたい。良いか?」

 そうだ。結婚するにしても彼女には可哀想な事をしてしまう。予め説明しておかなければ。

「存じておるかもしれないが、私はパーティー等の賑やかな場所が好きではない。そなたがパーティーに出る分は止めはしないが、私は付き添わないし我が家でパーティーを開くことも禁じる」

 言いながらふと、目の入ってきた彼女がうつむき若干瞳が潤んでいる事に気がついた。

 え? 何? まだ泣くような内容じゃ……。あ、俺の態度や声が怖かったの? そうなのか?

 慌てて最後の方は、努めて優しい声を出すように気を付けた。と言ってもそんな急に変えるのも変なんで、若干優しくなったかなってくらいだろうけど。

「よろしいか?」

 確認の為にそう言うと、彼女が顔を上げ、こちらを見た。その上目遣いが! めっちゃ可愛いんですけど?!

 慌てて目を逸らす。あー可愛い。なんで俺こんな可愛い子にこんな酷い事言ってるんだろう……。でも、誘惑に負けるわけにはいかない。

 そんな事を考えていたら、メリル嬢の健気な声が聞こえてきた。

「わたくしも、そこまでパーティーが好きなわけではありません。お友達に誘われれば行きたい時もあるでしょうが今もそう頻繁には行っておりませんから。……エスコートしていただけないのは、少し残念ですけれど」

 最後のひと言が! ちょっぴり淋しさを含んだひと言が健気で可愛くて守ってあげたくて!

 微笑みかけて「君が望むならエスコートくらい幾らでも……」と言いそうなのをぐっとこらえて彼女に背を向ける。それでもやっぱり、言わずにはいられない。

「そちらにはそちらの矜持があるだろう。……年に一度で良ければ、そなたをエスコートしよう」

 さすがに幾らでも……とは言えなかった。

 それにしても俺はなんて酷い事を言っているんだろう。そしてもっと酷い事を言わなくちゃならない。

 幾らか冷静さを取り戻して彼女を見ると、彼女はなんと! こんな俺に笑顔を向けてくれた!

「ありがとうございます。楽しみにしております」

 天使か! ここにいるのは天使なのか!

 赤くなる顔を見られまいと、再び顔を背ける。

 ああでも、俺は肝心な事を言っていない。

「それから……」

 深呼吸して覚悟を決める。

「酷なことを言って申し訳ないが、君との間に子供を作るつもりはない」

 本当に悪い。でも。

 どうしても俺はサンローズが、俺の娘が不幸になるところは見たくはなかった。


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