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本編
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しおりを挟む「ーーそれで、お前の想い人は誰だ?」
その、突拍子もない言葉に返す言葉が見つからなかった。
いま、そんな話は全くしていなかったのに。どうして、そんなことを…?それに想い人って…。
「ち、父上…?あの、話が全く見えないのですが…何故そんなことをお聞きになるのですか?」
「とぼけても無駄だ。どこぞの馬の骨と結ばれたいがために、あの婚約者をこんな大事になるまで泳がせていたんだろう?」
「……、気付いていたのですか…」
どこか確信めいた表情で俺を見る父上に、少し恥ずかしくなって俯いた。
すべて見透かされていたなんて…。じゃあさっきまでのやり取りはこんなことを引き起こした理由を知るため…。
分かった上だったのなら、俺の態とらしい演技はさぞ滑稽に映っただろうな…。穴があったら入りたいとは、こんな気持ちなのだろうか。
それでも、婚約者とのことはあくまで自然にこうなったように事を運んだつもりだったのに。やはり父上はとても素晴らしい為政者だ。
「…その、父上…」
けど、想い人云々はどうにかして誤魔化さなければ。
「なんだ、馬の骨の名前を言う気になったか?」
「そ、その馬の骨ってなんの話ですか?ただあの令嬢と俺に非がない形で婚約を白紙にしたかっただけかもしれないじゃないですか」
「もしそうだったとして、何故お前の望みが王太子位の返還になる。婚約をなかったことにしたいだけならば、そこまでする必要はないだろう」
「…うっ、」
その通りだ。だって、俺はこの計画を通して、王太子位の返還と、これから婚約者を作らなくて済む理由作りを目的にしていたのだから。
「婚約がなかったことになり、その上であの望みを言うということはつまり。お前は、もう婚約者を作らなくていい状況を望んでいたわけだ。王太子となれば、どんな理由があろうと後継が必要だからな、そういうわけにはいかない」
「…………」
「もう言い逃れはできないな、テオン。さて、お前の想い人は誰だ?もう既に婚約している令嬢か?それとも既婚者か?庶民か?ーーそれとも、男か?」
「!」
思わぬ選択肢を挙げられ、思わずビクリと身体が反応してしまった。
「ーー…そうか、相手は男か」
その声に、怒りが滲んでいるような気がして、反射的に距離を取ろうとして失敗した。
加減なんてされていない力で腕を掴まれて父上に引き寄せられ、逆の手で顎を掴まれて有無を言わさずその黄金の瞳と目を合わさせられた。
久しぶりに間近でみた黄金は、どこか仄暗い闇を灯してながらも煌めいていた。
「……テオン。良い子だからその相手を俺に教えなさい。大丈夫、そこまで酷い事はしないよ。……でも。もし俺が知っている王城の者なら暇を出さなければならないな。その者が俺の視界に入るだけで何をしてしまうか分からない。庶民の者なら王城に招いてお前との馴れ初めと、お前をどう思っているのか聞かねばならないな。そのあとどうするかは話を聞いてからでないとないも言えないが。…あぁ、学園で知り合った可能性もあるな?貴族なら婚約者の有無を調べないとな。もしいるのにも関わらずお前を誑かしたのなら、そんな者は俺が統治するこの王国には必要ない。それ相応の処罰をしなければ」
「…………ち、ちちうえ…」
何故だろう。なんでこんなにも怒っているのだろう。俺が責任感のないことをしたからだろうか。でも父上は分かっていたのだから、途中で俺を諌めればよかっただけの話で…。
ーー駄目だ、頭が回らない。
父上に注意されたことはあっても、こんなふうに怒られた事は一度もない。今まで親子喧嘩というのもしたことがないし、俺は父上によく見られたくて、好奇心が疼いてもしてはいけないことはしてこなかった。
もちろんそんな俺を叱る人も周りにいなかったし、学園に通い始めてもそれは変わらなくて…だからつまり、俺には耐性がない。
こんなとき、どうすればいいのか、分からない。
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