【完結】俺が一目惚れをした人は、血の繋がった父親でした。

モカ

文字の大きさ
16 / 44
本編

16

しおりを挟む




身支度を整えてから続き扉を3回叩くと、父上が開けて下さった。

そして、


「……うん」

「?」


何故か、俺を見下ろし満足そうな顔をして頷いた。

首を傾げると、前髪を掻き上げるように撫でられて、思わずうっとりとため息を漏らしてしまいそうになり気を引き締めた。

さすがにサディアには見えていないだろうが、2人きりじゃないのだから。

きゅ、と口を引き結んだ俺をどう思ったのか、父上はくすりと一つ笑みを零したあと、部屋へと招いて下さった。

父上の部屋は俺に与えられた部屋よりも一回りほど大きかった。執務も行えるようにか、しっかりとした造りの机や椅子などがあり、そこから少し離れたところに応接用に長椅子と背の低い机も置かれていた。

向かい合うようにして置かれているそれの片方に、サディアがしっかりとした装いを身に纏い、座って紅茶を啜っていた。


「兄様。おはようございます」


だいぶ待たせてしまったにも関わらず、父上譲りの黒髪を揺らし、橙色の瞳を細めて微笑んでくれたサディアは、先程の様子が嘘かと思えるほどに穏やかだった。…俺を見たとき一瞬顔を顰めたような気がしたけど…気のせいか。

なんだかホッとして、無意識に口元が緩むのを止められず、笑って挨拶を返す。


「おはよう、サディア。待たせてしまってすまない」

「いいえ、兄様は何も悪くありませんよ。全部このクソの所為ですから」


ピシリ、と空気が凍った。

サディアの表情は変わらない。相変わらず穏やかに微笑んだまま、父上を、この国の王を『クソ』呼ばわりした。

思わず頬が引き攣ったが、父上は特に何も言わずにため息をついてサディアの対面の長椅子に腰をかけた。

このままなかったことにするのが良いのかとサディアの隣に腰を下ろそうと足を踏み出すと、後ろから腕を引かれて体勢を崩し、父上の膝の上に着地してしまった。


「ち、父上⁉︎」


咄嗟に立とうとしたが腰にガッチリと腕を回されて阻止され、ジタバタと抵抗する俺の頬をするりと撫でた父上は、取り繕うこともせずに妖艶に微笑んだ。


「…何故アレの隣に座ろうとした。最低でも俺の隣だろう?まだ自覚がないようだから、今日はこのまま横抱きで許してやる」

「…なっ、」


サディアが居るのに。顔を赤くしたり青くしたりする俺に、今度はサディアがため息をついて「兄様」と声をかけてきた。


「大丈夫です、兄様。僕は兄様たちの関係を、反対も軽蔑もしていません」


その言葉に振り返ると、サディアは呆れた顔で俺たちを見ていたが、確かにその橙色に冷たい色はなかった。


「…と、いうか。このクソに至っては僕に隠す気もありませんでしたから。もっと前から知ってましたよ、兄様をそういう目で見ているということは」

「え、」

「あぁ、安心して下さい。僕以外は気付いていませんよ。そのクソにも分別はありますから。……まぁ僕としては、顔と身分以外はゴミのあの女よりはマシなので、妥協という形ですかね」

「ごみ……」

「えぇ。兄様という素晴らしい婚約者を得ておきながら不貞を犯すような見る目のない女は、ゴミでしょう?」

「………いや、」


そんな、当たり前じゃないですか、というようなきょとりとした顔をされても…。俺はどんな反応をしたらいいんだ。…というか、父上も頷かないで下さい。選んだのは父上なんですよ。





しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【完結済】「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

処理中です...