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本編
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しおりを挟むとまりそうにもない言い合いにため息をつきながら傍観していると、控えめに部屋の扉が3回叩かれた。
すると2人ともぴたりと言い合いをやめ。一瞬だけ目を合わせると、サディアが短くため息を吐いてから立ち上がり、扉に近づいていく。
この場合は父上が対応するものだと思うのだが…。そう思って父上を見上げると、俺の視線に気づいてか、甘く微笑まれた。
父親と息子だったときには見たことのない表情に、胸の奥がきゅんきゅんする感覚に陥り思わず心臓当たりの洋服を鷲掴んだ。
冷静になろうと深呼吸をしていると、父上が洋服を掴んだままの俺の手を絡め取る。
抵抗や抗議の声を上げる前に指同士が絡み、所謂恋人繋ぎのようになって。そのまま、まるで見せつけるように絡んだ手を目の前に翳されると、くるりとひっくり返され手の甲に口付けを落とされた。
「‼︎」
それは情事の際にもされた、愛撫の行為そのもので。昨夜の行為がありありと脳裏に浮かんでしまい、一気に顔が熱を持つ。
昨夜、あんなに愛されたのに。もう、朝を過ぎて昼頃のはずなのに。愛されている実感が湧き上がるのと同時に、じわじわと身体の奥でまた熱が燻り始める。
息が上がってしまいそうになるのを抑えていると、態とらしい盛大なため息が聞こえた。
「あのですね、まだ僕いるんですが」
一瞬存在を忘れていたサディアに背後から声をかけられて、身体がビクリと跳ねた。
冷や汗が吹き出る俺を他所に、父上は苦言を呈するサディアに向かって軽く笑い声を上げた。
「はは、いいだろう?お前もそろそろ刻限のようだしな。俺たちは想いを通じ合わせたばかりだ、大目に見ろ」
「もう充分大目に見ていますが。……仕方ありません。刻限なのは事実ですし、僕はこれでお暇させてもらいます」
「あぁ、さっさと出ていけ。もうここには来るなよ。……二度目は、ない」
「承服しかねます。時と場合によりますから。貴方が兄様に害をなさなければここに来る必要もありませんし」
「…ほぅ?」
「…何か?」
まだバチバチと火花を散らしていそうな2人の言い合いを、俯いたまま存在を消すように大人しく聞いていると、区切りがついたのか「兄様」とサディアから柔らかく声をかけられた。
応えないわけにもいかず、おずおずと顔を上げ振り向くと、苦笑をしたサディアがいて。そこに拒絶の色はなくて、ほっ、と息を吐いた。
「兄様。起き掛けからお騒がせしてしまい、申し訳ありませんでした。僕はこれでお暇させていただきますが、このクソのことで相談があればいつでも言って下さい。必ず時間取って話を聞きますから」
「あ、ありがとう」
「ーーもし断罪するようなことがあれば、まず僕に。容赦なくいきますから」
「あ、あぁ…うん、そうする…よ」
とてもイイ笑顔で、親指を立てた手を逆さまにし、自分の首の前でクイックイッと左右に動かすサディアには妙な威圧があった。
そんなことはないと思うーーとは言えず、とりあえず曖昧に頷いておいた。
だが、そんな俺の反応に満足したようで。サディアはいつもの穏やかな笑顔で一つ頷くと、そのまま部屋を出て行った。うーん、あまりにも不敬。父上の器が大きくて良かったな。
「さて。ようやく邪魔者がいなくなったな」
そう呟いた父上は、膝上の俺を抱き直すと軽々と立ち上がった。
突然の浮遊感に、目の前の首にしがみ付けばくつくつと笑う声と振動が伝わってきた。
「…父上?」
「さぁ、テオン。もう一度お前を愛でさせてくれ」
「え⁉︎」
アタフタする俺を抱えたまま父上が歩き始め、ようやく意図がのみ込めたときには、もう既に優しく寝台に押し倒された後だった。
「ち、父上‼︎もう、もう昼なのですよ…?朝食どころか昼食もまだですし…それに、それに……‼︎」
「そうだな、きちんとした昼食は後で持って来させよう。軽くつまめる物はこの部屋に用意してある、心配するな」
「そ、そういうことでは………‼︎」
「ーーテオン」
ぐるぐるする頭で考えた言い訳をさらりと躱されて強く名を呼ばれた。
ぐ、と言い詰まる俺を、窓から漏れる陽射しに照らされて艶めく黒髪を揺らし、黄金を蕩かして、父上は甘く見つめる。
「こうなると踏んでいたから、昨夜はだいぶ我慢をした。もう邪魔をする者はいないからな、心ゆくまでお前を堪能させてくれ」
「⁉︎」
我慢⁉︎昨夜の行為が、『だいぶ我慢』⁉︎
恐ろしい発言に硬直する俺の身体の線をなぞる様に父上の手が這う。
それだけでゾクゾクとした感覚が背中を駆け、息が上がり始める俺の抵抗なんてあってないようなもので。軽々と制しながら、父上は極上の笑みを浮かべて俺の唇を貪った。
「ーーやっと手に入れた。大事にするから、ずっと俺の腕の中にいて、愛でさせてくれ」
「……あ…っ‼︎」
洋菓子よりも甘い、愛情と欲情を孕んだ言葉を囁かれて。日中なのに、とか、ふしだらだ、とか、倫理観なんてもう吹き飛んでしまった。
そもそもの話だ。俺と目の前のこの人は血が繋がった親子で、この行為は到底許される行いではないだろう。
でも、仕方がない。だって、心が求めてしまったのだから。相手も俺を求めてくれていると、知ってしまったのだから。
もう神にだってこの気持ちは変えられない。いずれ天から罰せられる日がくるとしても、俺はその瞬間まで幸せだろう。
恋焦がれた人と、愛を交わせたのだから。
「………っ、テオドール、さま…」
「…ふ、良い子だ。受け入れてくれるな?」
「はい…、ぁっ……もちろんです。…愛しています、テオドール様…」
「……あぁ。俺も愛しているよ、テオン」
今までも、これからも、ずっと愛している。
最愛の人から、最高の愛の言葉をもらって、嬉しさに涙を零しながら、俺も笑って愛を囁いた。
***
これにて、本編は完結となります。
最後まで読んでくださった方々、ありがとうございました。
番外編なども考えておりますので、またお付き合いいただけると嬉しいです。
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