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本編
【小話】15.5 衣装部屋にて
しおりを挟む『衣装部屋に服を用意してある。好きなものを着て来なさい』
「………ここが衣装部屋…」
部屋に入ったときの死角にまるで壁と同化するように存在する俺よりも大きいその扉を開けると、左右の壁にズラッと服が吊るされていた。
細長い部屋の正面の壁には大きめの姿見まで用意されている。その横に台も置かれていて、身支度を整える道具が綺麗に並べられていた。…なるほど、ここで全て出来るようになっているんだな。
ザッと見た限り、服は正装から普段着、寝巻までほぼ全てが揃っている。……何故か使用人用の男女それぞれの制服も置いてあった。予備を置いてあるのか…それとも、これだけの数だし紛れてしまったのか?
「………まぁいいか」
置いてある服の系統はそれぞれ違えども、基本的な色は似たり寄ったり。大体が黒地に金色の差し色が入っているものが多く、もしくはその逆の色合いが殆ど。
…どうしても父上が思い浮かんでしまう配色だ。俺の発想がおかしいのか、わざとこの色ばかりなのかは定かじゃないけど…。
「………うーん…」
俺の髪色はこの国の庶民にも良くある、栗色で、少し茶色味が濃い。瞳も父上の煌めく黄金をすっごくくすませた黄色…かな?みたいな色だからな。まぁ…それでもこの系統の瞳の色は王族の血を引かない限りは産まれないらしいから、俺が今ここにいるのだが。
サディアの暖かな橙色もいいけど、やっぱり父上の陽の光が当たると煌めく黄金色が何よりも綺麗だ。
…一目惚れしたときも、陽の下だったし。
「はっ、思考が逸れてた。早く着替えないと。父上とサディアを待たせてしまう」
俺はどちらかというと、濃いはっきりした色よりは白とか暖色が合うから、なるべくそっち系統で簡素なものをーー…。
…ふと思ったが、元々王妃の部屋のはずなのに、どうして俺の寸法の物があるのだろう。…………いや、とりあえず今考えるのはやめよう。踏み入れてはいけない領域に入ってしまいそうだ。
「…よし、これにしよう」
襟と袖に金色の刺繍が入っている、白に黄色を混ぜような象牙色の上着と、裾に似たような金色の刺繍がある黒色の下履き。…これなら変ではないだろう。
姿見の前で身体に服を当てながら全体的に自分を見て一つ頷いた。正装ではないし、これなら人の手を借りずとも一人で着れると、袖を通した。
が、
「……あ、あれ?」
上着が大きくて、思わず声を上げてしまった。姿見をよく見ると、俺の肩幅よりも明らかに大きい上着が少しズレていて。腕を見ると、袖が手の甲を覆い尽くし指先しか出ていなかった。…どうやら色の配色に注視をしていて寸法が違うことに気づけなかったみたいだな。
明らかに俺の寸法ではない。どちらかというと、父上の……そういえば、幼い頃、父上の服を遊んで着たときはこんな風になったな。
まぁあのときは父上の上着なんて、腕の長さも胴の長さも足りなかったから、身体全部がすっぽりと隠れてしまったけど。でも服から父上の香りがして、ドキドキと心臓が強く鼓動するのを止められなかった。
動悸をおさめている間に父上に見つかって、本物はこっちだぞってぎゅうぎゅうに抱きしめられたっけ…。
「はっ。また思考が…っ、浮かれているのか…情けない……」
確か服は何着かあったはず。寸法が合うのもあるはずだ。早く探して着替えよう。
「ーーよし、これでいいな」
身支度を整え、服を着替えたあと変なところがないか、姿見の前でクルクルと角度を変えながら確認する。…うん、寝癖もないし、服も変なところはないな。
思ったよりも時間をかけすぎたかもしれない。早く2人のところに行こう。
***
その後部屋に行った時の2人の反応↓
テオドールの場合
「……うん」
「?」
「(あぁやはり黒地のものは着てくれなかったか。でも逆の色合いもまた似合っている。テオンは濃いはっきりした色は似合わないと言うが、色を間違えなければそんなこともない。いつかテオンに合う黒色を見つけなければ…。テオンに着せたいものを収集したあの部屋が陽の目を見る日が来ただけで感無量だが、せめて一回だけでも全てのものに袖を通してもらって……そういえば、一時期ハマってうっかり上等な布で仕上げた使用人の制服もあそこに収納したままだったが、見てしまっただろうか。テオンのことだから紛れてしまったのだろうとか、自己完結していそうだな。そうだ、仕置きにそれを着て奉仕させるのもいいな。男女どちらの制服でもいいが、女物を着て恥じらっている姿も捨て難い…あぁ、テオンが首を傾げている、可愛い。何でそんな顔をしているのかと疑問に思っているな。誤魔化す為にも撫でておこう………うっとりしている、可愛い。あ、サディアのことを思い出して気を引き締めてしまった。切り替えが早いのは良いことだ…俺としてもまだテオンを愛でたりないし、さっさとサディアを追い出そう)」
サディアの場合
「兄様。おはようございます」
「おはようサディア。待たせてしまってごめん」
「(あぁ兄様。朝から眩しい…その笑顔だけで数時間このクソの顔を見続けてまで粘った甲斐が………ちょっと待って下さい、兄様。その身に纏っている衣服の色、このクソの色じゃないですか‼︎あ、ヤバい。一瞬顔に出てしまった。兄様が違和感を持つ前に修正しなければ…。よし、誤魔化せたな。というか兄様、まだ少し気怠げな感じが抜けていないのですが。昨夜はお楽しみでしたね、みたいなの筒抜けですよ。…まぁこのクソが囲っている限りは、この姿を見る奴なんて僕以外いないだろうけど。でも、兄様知らないだろうな。婚約者はあのゴミ女だったし、実の父親は兄様を性的に見る変態だから、知る機会がなかったともいうけど。自分の髪と瞳の色の服を贈ることは求婚とほぼ同義で。そしてそれを受け取って身に纏うことは承諾の意になるってこと。クソが兄様に害をなさない限りは静観するつもりだけど、このクソはかなり前から拗らせてるから…きっと兄様はこれから先大変だろう。……よし、何かあったときのために相談には積極的にのって信頼度を上げておこう。このクソとの関係も公には出来ないし、頼れるのは僕ぐらいだしね)」
2人とも、多分1秒にも満たない間で思っていることです。
2人のテオンに対する想いの強さたるや…。
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