29 / 33
番外編
9
しおりを挟む「父上にされて嫌なことなんて、ありません」
本来なら叶うどころか、想いを告げることすら許されないこの、気持ちを。
父上は受け入れてくれた。
息子としてだけでなく、恋人としても愛してくれた。それがどれだけ奇跡的なことなのか、俺は分かっているつもりだ。
それに父上はこの関係を隠したり、終わらせることより、継続することを第一に考えてくれて、その為に色々と尽力してくれている。
ーーそんな貴方にされて嫌なことなんて、なにもない。
そう改めて思うと、先程とは違う熱が身体の中で燃え上がるのが分かった。
「………分かっていないだろう」
きっぱりと言い切った俺を見下ろして、父上は顔を顰めた。いつもは感情を読めない黄金に、呆れを滲ませて。
「俺は…、もしお前が逃げ出そうとしたなら、足の腱を躊躇なく切り、その上でお前を誑かした奴も嬲り殺す」
空いている方の掌が内腿から脚首まで、じっくりとまるで掌で味わうかのように撫でた。
行き着いた先の脚首をくるくると摩られて、初めて身体を重ねた日のことを思い出して頬が熱くなる。
やたらと踵の上の部分を摩るのは、足の腱を探しているのだろうか。父上が望むのなら、なんだって構わないけれど。
「…仮に今後、俺の持てる全てを使ってもどうしようもならない事態になったら、お前を殺して俺も死ぬ。
お前だけでも生き延びてほしいなんて殊勝なことは思えないし、我慢ならない」
そして、脅すように両手が俺の首に添えられる。
「…こんな男は、恐ろしいだろう?」
欠片も力の入っていないその掌も、昏く澱んだ黄金を不安げに揺らす父上も、全く怖くなかった。
むしろ、俺の身体の中で燃え上がる感情が湧き上がってくるばかりだった。
「ーーいいえ、テオドール様」
拘束を解かれた両手を伸ばし、あの夜のように引き寄せて軽く触れるだけの口付けをした。
そのときと同じく目を見開いて固まる父上に、俺は笑いかけた。
「確かに、俺はテオドール様の愛情の大きさを理解できていませんでした。…ですが、それはテオドール様も同じです」
「…俺、も?」
思ってもいないことを言われたと瞬く父上は、どこか可愛らしく見えて思わずふふ、と笑いが溢れた。
父上を引き寄せたときに素早く首から外された手を取って、俺の心臓の上に置く。
「聞こえますか?」
「…あ、あぁ…………早いな」
どくどくといつもよりも早く脈打つ心臓に、父上は驚いたようにそう言う。…俺の言いたいこと、分かっていないな。
「テオドール様、俺たち…想いが通じたことに浮かれて、大事なことを話し合っていませんでしたね。
……だから、まずは俺の話を聞いてくださいますか?」
応援ありがとうございます!
21
お気に入りに追加
345
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる