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番外編
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しおりを挟むすぐに終わる話ではないと分かったのか、父上はどこかぎこちなく執務を切り上げてくれた。
動揺していたのだろうか、と思ったけど、指示を出しているうちに普段の調子に戻ってしまったので、問う機会を逃してしまった。…まぁ、今重要なのはそこじゃないし、気にするのはやめよう。
そういえば、と。昼食を食べに行ったまま帰ってこなかった側近を思い出して父上に聞くと、「もう帰っている」と言われて驚いた。
「……執務を急ぐ必要があったから、根を詰めていたのではないのですか?」
「…そう、だな」
色々とあって忘れていた、俺が執務室に訪れた原因になったことを曖昧に誤魔化した父上にため息をついた。
この件についても、何か目的があったのだな。もしかしたらあの状況を作り出す為だったかもしれないし、だとしたらもう済んだことだ。
…でも今後は、周囲になるべく負担を掛けないようにお願いしよう。
執務を切り上げると告げた父上に、微かに安堵の表情を浮かべた執事長を見てそう思った。
流れるように離宮の父上の部屋に通されて、軽装に着替えてから長椅子に対面で座ろうとする父上に、駄目元でお願いしてみることにした。
「あの…父上」
「…どうした?」
部屋に入って、また少し硬い表情をしていた父上が微笑を浮かべて返事をしてくれる。
それに僅かばかり安堵して、でもこれからお願いすることに不快感を示されないかまた不安になりながら、それでも黄金を見上げて言葉にした。
「…その、はしたないと、思われるかもしれませんが、なるべく自然体でお話をしたいので…お茶を入れてもらって、それから、寝台の上でお話ししませんか?」
「………寝台の、上で?」
父上がよく分からないというように言葉を繰り返すのを、したことがないのだなと思い、先程の不安はどこかへ吹き飛んで笑みを浮かべながら寝台へと手を引いた。
「…向かい合って話すと緊張するので……それに、これから話すことは、俺にとっては…少し恥ずかしいことでもあるので…」
顔を見ながらよりは、きちんと話せる気がするから。
そう言う俺に、父上は釈然としない表情を浮かべながらテオンが望むならと許可を出してくれた。
それから従者にお茶を頼み、茶呑みを一式お盆に乗せてもらったのを受け取り、人払いをした。
寝台の背凭れに枕を敷き詰め、凭れかかるように胡座をかいた父上の膝の上に座って、もう人目はないからと父上の掌を揉みほぐしながら遊んでいると背後から不服そうな声が聞こえたが、話が終わるまで好きにさせてくれるつもりなのか咎められることはなかった。
「……では、まず誤解から解こうと思うのですが…」
時折り詰まりながらも、俺の想いと計画のことを話した。
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