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第6話
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第6話
強風に煽られながら旧校舎へ向かい、
生ぬるい空気を感じながら旧校舎の理科室に入ると、そこには昴が1人でボーッとしていた。
「おはよう昴。早いね。」
「…はよ、思ったよりも早く着いたわ。」
「急な連絡だったのにね。」
私は昴と言葉を交わしながら、背負ってきた大きなカバンを床におろした。私の言葉に昴は苦笑いを浮かべながら「まぁな。」と言った。
「でも、なんとなく予想出来てたっていうのもあるな。今日が台風だっていうニュース見たときから。」
「あ、ほんとに?ならよかった。」
昴は窓を開けると、外を見ながらまたボーッとし始めた。
いや、何か考えている顔と言う方が正しいかもしれない。
「何かあったの?」
そう聞きながら私が昴の隣に並ぶように近づくと、昴は「へ?」と気の抜けたような返事をした。
「昴がそういう顔するってことは、何かあったってことかなって思って。」
「…お前に隠し事は出来ねぇな。」
「なに、悩みごと?」
「まぁ、そんなとこだ。」
昴は机の上に座り足を組むと、深く息を吐き、重く閉じた口を開いた。
「…俺の知り合いにコウって奴がいるんだけど、そいつに…その、好きな奴がいるみたいで、相談に乗ってんだけどよ。その…、、なんていうか、」
「…好きになっちゃいけない人を好きになった。的な?」
「いけないって訳じゃないけど、まぁ、言いづらいっていうのはあると思う。」
「じゃあ、同性愛的な方か。」
私の言葉に驚いたのか、昴は「なんで…、」と小さく呟いた。でもそれは、私の口からその言葉が出てきたことに驚いているのと同時に、何か怯えているようにも見えた。
「んー、なんとなくかな。いけない訳じゃないけど言いづらいっていうからね。」
「…そ、そうか。」
昴は強張った表情のままだったが、気持ちを落ち着かせるようにまた深く息を吐いた。
「それで、そいつは男が好きなんだけど、まぁ、相手は普通に女が好きだから、やっぱり気持ちは伝えられないって言うんだよ。いつも一緒にいる親友だからこそ、関係を崩したくないっていうのもあるみたいで…」
「なるほどね。まぁ、そうなっちゃうよね。わかるよ。
私も同性愛者の子に告白されたことあるし。」
昴は私の言葉にさっきよりも驚いた様子で「は!?」と声をあげた。私は苦笑いを浮かべながら、壁に寄り掛かった。
「その子はね、中学のときの友達で、すごく仲がよかったの。ものすごく可愛い女の子で男の子にモテモテだったから、まさか同性愛者だとは思ってなかったけど、私に対する態度とかで何となくそんな気はしてたし、別にそういうのに対して偏見とかなかったから一緒に居たくないなんて思わなかった。
…でも、ある日その子に告白されてねー、嫌とは思わなかったけんだけど、その子は友達のままでいいって言うから、友達のままでいるってなったんだけど…」
「けど?」
「その子が私に告白してた所を、私のことが好きだった男の子が見ててね、その子が酷いイジメにあっちゃったの。守ろうと思った、でも、優美はあの女に近づかないほうがいい。って皆が私とあの子をそばに居させてくれなかった。結局その子はその年に転校しちゃって、連絡先を聞こうと家に行ったんだけど、その子の両親が、あんたのせいでこの子はイジメられたんだ。って怒ってたから、私は何も出来ないままあの子と別れちゃった。」
私は昴の横に座り、天井を見上げた。
昴はそのまま黙り込んでいる。
「言ったら後悔するかもしれない。でも、言わないのも後悔する。自分の気持ちを伝えるときはその2つがいつもついてくる。だからこそ自分がどうしたいかっていうのが大事なんだと思うの。そういうのって難しいよね。でも、どちらかを選ぶ時はいずれくるから、自分のしたい通りにするのが1番だと思うな。」
「…そうか、そうだよな。」
「でもきっと、あんたの気持ちを伝えたぐらいで変わるような関係じゃないんだから、男らしく伝えてみろ!って、言うのも伝えといて。」
「あぁ、サンキューな…」
昴は軽く微笑むと、机から降りて窓の外を見つめ始めた。
私はその後ろ姿がなんだか寂しそうに見えたけれど、あえて何も言わなかった。
「ちょっと優美~?いきなり家出って連絡するなんて何考えてるんよ~?まだ学校は夏休み入ってないんやで~?」
そう言いながら理科室に入ってきたのは涼花だった。
その隣には雪斗がいる。
「おはよう優美。突然のお誘いありがとうね。」
「おはよう2人共。用意バッチリだね。」
なんだかんだ2人も大きな荷物を用意してきていた。
後来ていないのは蒼1人だけだ。
「蒼はまだ来てへんの?」
「うん、まだ来てない。あ、でも家出たっていうLINEは15分前に来てるよ。」
「変だね。蒼の歩くペースだったらもう着いてもいい位なのに。」
「…念の為行くか。」
昴が理科室を出ていくと、その後に雪斗が続いて出て行った。もちろん私と涼花も一緒についていく。
「…蒼のことだから心配はないとは思うけど、、」
「でも最近あいつの周りをうろついてる人間が増えてるって話だぜ。」
私は雪斗と昴の会話を聞きながら不安になっていた。
最近、蒼は不良達と喧嘩することが増えてきている。
蒼が喧嘩に負けたことはないけど、昴の言うとおり、蒼の周りにうろつく人間がどんどん増えている。このまま増えれば蒼1人では手に負えなくなるだろう。
「…もしかして、あれか?」
「…あの、わらわら群がってるやつ?」
私達が足を止めた場所は、学校のすぐそばにある公園だった。公園内を見ると、いかにも不良らしい人間がたくさん群がっていた。うごめいている所を見ると、あの中心では殴り合いが行われているに違いない。
「あの中心に蒼がいるっていうんか?」
「たぶんね…さぁ、どうしようか。」
「そんなのやるっきゃねぇだろうがよ。」
「そんな簡単なことやないやろ!なぁ優美…って優美!?ちょ、どこ行くん!?」
あの中心に蒼がいる。そう思った私は居ても立ってもいられなくなり、群がる人混みへと駆け出した。
私1人が突っ込んだところで、殴り合いをしている人間への注目はやまない。私は人混みを掻き分けながら蒼がいるであろう中心部へと進んだ。
「優美!おい優美!危ねぇから戻ってこい!」
昴の声がかすかに聞こえたが、それに足を止めることは無く、私はそのまま進んでいった。するとようやく、殴り合いをしている人間が見えた。5人いるうちの1人はやはり蒼だった。5人とある程度距離を取りながらも周りを囲い込み、蒼が逃げれないようになっている。
「蒼…ッ、」
私の声は男達の叫び声によってかき消され蒼には届かない。
どうにか最後の人混みを掻き分けようと思ったが、強い力に押し戻されてしまう。すると後ろから力強く肩を掴まれ振り返ると、昴達が居た。
「お前はいつも1人で突っ走るなってのに!」
「優美はいつもそうやから慣れてるけどなぁ!もうちょい後のこと考えて行動しぃや!」
「今蒼の所に行っても何も出来ない、1回外れてから…」
「そんな暇ないの!今じゃないと蒼が…!」
すると周りの男達が雄叫びをあげたので何事かと思い、昴の腕を振り払いまた前に向き直すと、蒼が1人の男に後ろから捕まり、もう1人の男が蒼の前でバットを掲げていた。
「…蒼!!」
私は最後の人混みを抜け、蒼の方へと走った。
そしてそのまま蒼の前に立っているバットを持った男に体当たりをし、後ろにいる男も蒼から引き剥がした。
男達の雄叫びが止まり、視線が私の方へと向けられる。
「優美…!?」
「蒼!蒼大丈夫!?」
「おま…っ、なんでここに!」
「おー!これはこれは!誰が俺を突き飛ばしたのかと思いきや、1匹狼が唯一心を許したと言われている女、瀬戸内優美さんではないですかぁ!とうとう愛しの彼を助けに来たんですかい?相変わらずお美しい方だ。今からその顔を傷つけるのはとても心が痛い!」
私が突き飛ばした男が、砂を払いながら起き上がり、またバットを振りかぶる。「優美!」と動こうとした蒼に、また先程の男が後ろからしがみついた。バットで殴られると思い目をつぶったが、殴られた衝撃は来なかった。おそるおそる目を開けると、私の前で雪斗が振りかぶられたバットを手で抑えていた。
「やぁどうも、その物騒な物はしまって貰ってもいいかな。」
笑顔の雪斗から強烈なパンチが飛び、男は呆気なく地面にのびてしまった。蒼の後ろにいた男は昴に蹴りを入れられ、その場で痛みにうずくまる。
「…ったく、本当にお前等は…、もうちょい後のことを考えてから動けってのに…」
「ホントに!危ないやんか!」
動きが止まった人混みから抜けてきた3人が私と蒼の元へ駆け寄ってくる。周りの不良達は雪斗と昴が出てきたことで焦りを感じたのか、ざわざわとし始めた。
「あれ、是永雪斗と中村昴だろ…?」
「やべぇよな、あいつら2人だけで100人やったって話だぜ。」
「…ッチ、ずらかるぞ!」
先程まで1人だけを相手していたからなのか、相手が増えたことに慌てて、勢いづいていた不良達は呆気なくその場から走り去って行った。
「蒼!大丈夫なの!?怪我は…」
「…別に、どうってことねぇよ」
蒼の唇は、端が切れていて血が出ていた。その他にも色々な所に痣が出来ている。
「…なんで来たんだよ。」
「…なんでって、心配だったからに決まってるでしょ?最近喧嘩が増えてきてるし、蒼の周りをうろついてる不良達がどんどん増えていってるのも知ってる。だから皆で蒼を助けに来たの。」
「…別に、俺1人でも…」
「もう蒼1人で相手しきれるレベルじゃない。蒼が強いのはわかってるけど、喧嘩に強くなったって、それはどんどん自分を追い込むだけよ。」
私の言葉にもう少し噛み付いてくるかと思ったが、蒼は何も言わずに黙り込んだままだ。その様子を見ていた雪斗が声をかける。
「まぁとりあえず、旧校舎に戻ろう。雨は夕方からって言ってたけど、今にも降りそうな感じだし。」
「そうやねぇ、ってもう少しで学校始まるやん!急ごいそご!」
時計を見て慌てた涼花は「ほら行くで!」と私達をせかした。
蒼の方を見ると、ちゃんと荷物は持ってきているようで、背中に背負うと、涼花達についていった。私も行こうと思い歩き始めたとき、後ろから強い視線を感じた。足を止め振り返ると、そこには誰もおらず、気のせいか。と思い、また学校への帰り道を歩き始めた。
_________________________
旧校舎に着いた私達は、私と蒼だけが旧校舎に残り、あとの3人は教室に向かった。今傷だらけの蒼が教室に行ったら面倒くさいことになるだろうと思い、怪我の手当てもしなければ行けないので、私と蒼は旧校舎で3人が帰ってくるのを待つことにしたのだ。
「蒼、ちょっとここに座って。」
私が救急セットが入ったポーチを漁りながら蒼を呼ぶと、蒼は静かに私の前に座った。
「んー、顔はそこまで酷くないかな…」
私が消毒液を綿に染み込ませ、蒼の唇の切れたところに当てると、蒼の肩が一瞬あがった。やはり染みるのだろう。消毒し終わった傷口に絆創膏を貼り、次に湿布、ガーゼ、包帯を取り出した。
「…お前はドラえもんか、」
「しかも超現実的なドラえもんでしょ?これ全部怪我したときに使う物だしね。」
私は蒼の肘に消毒液をかけガーゼで抑えると、また新しいガーゼを貼って包帯を巻いた。足首には湿布を貼って手当ては終わり。「おしまい。」と言って、私はポーチの口を閉め、バックの中に放り込んだ。すると蒼が、私の肩に顔を埋めて呟いた。
「…もう、そろそろ限界が来てるかもしれない。」
「…うん。」
「でも、俺はお前達を巻き込むことだけはしたくない。だから、お前達は何もしなくていい。俺1人でなんとかする。」
「なんとかするって…、一体どうするの?もう止められないのが現状なのに、1人で何が出来るの?」
「1度死ぬ気でやるか、ボコボコに負けるか。どっちかだな。」
蒼は顔を上げ、私の目を見つめた。これは私を言い負かそうとするときの蒼だ。いつもは負けてしまう私だが、今回は負けない。そう思いながら、私は蒼の目を見つめた。
「負ける?あいつ等に好き放題やらせて、自分は何もしないっていうの?そんなんであいつ等が終わるわけない。きっと何か仕掛けてくるに決まってる。そんなの危なすぎて首を縦に振ることなんて絶対出来ない。死ぬ気でやるっていったって、その1回目に勝ったとしても、あいつ等はバカの1つ覚えみたいにどんどん人数を増やすはずよ。どっちにしろ危険でしかない。冷静に考えて、無謀すぎるわよ。」
「でも方法はこれしかねぇんだ。お前達を危険に巻き込む訳にはいかない。俺はどうなったっていい。でもお前達だけは…」
「私はあんたがどうなったっていいなんて思ってないわ!なんでそれがわからないの?いつもいつも、私がどれだけ心配してると思ってるの?あんたが傷1つ作ってくることに、私が何も思わないとでも思ってるの!?」
「優美、そんなに怒ると美人が台無しだよ。」
不意に聞こえた声に言葉を止める。理科室に入ってきたのは雪斗だった。
「ごめんね。盗み聞きするつもりじゃなかったんだけど、優美がめずらしく大きな声出してるからさ。
で、その蒼の話だけど。俺は優美の言うとおりだと思うよ。それは蒼もわかってると思うし、俺達のことを巻き込みたくないってのもわかる。でも、俺達からしたら、大事な友達が1人で危険な目に合うのは黙って見てることはできない。俺達だって生半可な気持ちでお前と一緒に居たわけじゃない。覚悟ぐらいできてるさ。だから蒼、少しは俺達を頼ってもいいんじゃないかな。」
「……でも、」
「それに、俺達と離れて行動するより、一緒に固まってたほうが絶対良いと思うんだけど?もしもの話だけど、優美が蒼の知らないところで誘拐でもされたらすぐ助けに行けないよ?それでも1人でやるって言うのか?」
雪斗の言葉に完全に押され、蒼は何も言わなくなった。
そんな蒼の肩に雪斗が手を置く。
「ま、今すぐにじゃなくてもいいから。この話の結末はまた後々決めるとして、それよりも、台風の影響で3日は休校になるらしいよ。どの教科からも課題が出るって言うから、それを片付けよう。たぶんもうすぐ、昴達が2人の分の課題を持ってきてくれると思うし。」
雪斗が蒼の肩から手を離すと、蒼は「あぁ。」と小さく呟いた。外から生ぬるい風が吹き、カーテンが揺れる。
外を見ると、黒い空の向こうで雷が光っていた。
第6話 終
強風に煽られながら旧校舎へ向かい、
生ぬるい空気を感じながら旧校舎の理科室に入ると、そこには昴が1人でボーッとしていた。
「おはよう昴。早いね。」
「…はよ、思ったよりも早く着いたわ。」
「急な連絡だったのにね。」
私は昴と言葉を交わしながら、背負ってきた大きなカバンを床におろした。私の言葉に昴は苦笑いを浮かべながら「まぁな。」と言った。
「でも、なんとなく予想出来てたっていうのもあるな。今日が台風だっていうニュース見たときから。」
「あ、ほんとに?ならよかった。」
昴は窓を開けると、外を見ながらまたボーッとし始めた。
いや、何か考えている顔と言う方が正しいかもしれない。
「何かあったの?」
そう聞きながら私が昴の隣に並ぶように近づくと、昴は「へ?」と気の抜けたような返事をした。
「昴がそういう顔するってことは、何かあったってことかなって思って。」
「…お前に隠し事は出来ねぇな。」
「なに、悩みごと?」
「まぁ、そんなとこだ。」
昴は机の上に座り足を組むと、深く息を吐き、重く閉じた口を開いた。
「…俺の知り合いにコウって奴がいるんだけど、そいつに…その、好きな奴がいるみたいで、相談に乗ってんだけどよ。その…、、なんていうか、」
「…好きになっちゃいけない人を好きになった。的な?」
「いけないって訳じゃないけど、まぁ、言いづらいっていうのはあると思う。」
「じゃあ、同性愛的な方か。」
私の言葉に驚いたのか、昴は「なんで…、」と小さく呟いた。でもそれは、私の口からその言葉が出てきたことに驚いているのと同時に、何か怯えているようにも見えた。
「んー、なんとなくかな。いけない訳じゃないけど言いづらいっていうからね。」
「…そ、そうか。」
昴は強張った表情のままだったが、気持ちを落ち着かせるようにまた深く息を吐いた。
「それで、そいつは男が好きなんだけど、まぁ、相手は普通に女が好きだから、やっぱり気持ちは伝えられないって言うんだよ。いつも一緒にいる親友だからこそ、関係を崩したくないっていうのもあるみたいで…」
「なるほどね。まぁ、そうなっちゃうよね。わかるよ。
私も同性愛者の子に告白されたことあるし。」
昴は私の言葉にさっきよりも驚いた様子で「は!?」と声をあげた。私は苦笑いを浮かべながら、壁に寄り掛かった。
「その子はね、中学のときの友達で、すごく仲がよかったの。ものすごく可愛い女の子で男の子にモテモテだったから、まさか同性愛者だとは思ってなかったけど、私に対する態度とかで何となくそんな気はしてたし、別にそういうのに対して偏見とかなかったから一緒に居たくないなんて思わなかった。
…でも、ある日その子に告白されてねー、嫌とは思わなかったけんだけど、その子は友達のままでいいって言うから、友達のままでいるってなったんだけど…」
「けど?」
「その子が私に告白してた所を、私のことが好きだった男の子が見ててね、その子が酷いイジメにあっちゃったの。守ろうと思った、でも、優美はあの女に近づかないほうがいい。って皆が私とあの子をそばに居させてくれなかった。結局その子はその年に転校しちゃって、連絡先を聞こうと家に行ったんだけど、その子の両親が、あんたのせいでこの子はイジメられたんだ。って怒ってたから、私は何も出来ないままあの子と別れちゃった。」
私は昴の横に座り、天井を見上げた。
昴はそのまま黙り込んでいる。
「言ったら後悔するかもしれない。でも、言わないのも後悔する。自分の気持ちを伝えるときはその2つがいつもついてくる。だからこそ自分がどうしたいかっていうのが大事なんだと思うの。そういうのって難しいよね。でも、どちらかを選ぶ時はいずれくるから、自分のしたい通りにするのが1番だと思うな。」
「…そうか、そうだよな。」
「でもきっと、あんたの気持ちを伝えたぐらいで変わるような関係じゃないんだから、男らしく伝えてみろ!って、言うのも伝えといて。」
「あぁ、サンキューな…」
昴は軽く微笑むと、机から降りて窓の外を見つめ始めた。
私はその後ろ姿がなんだか寂しそうに見えたけれど、あえて何も言わなかった。
「ちょっと優美~?いきなり家出って連絡するなんて何考えてるんよ~?まだ学校は夏休み入ってないんやで~?」
そう言いながら理科室に入ってきたのは涼花だった。
その隣には雪斗がいる。
「おはよう優美。突然のお誘いありがとうね。」
「おはよう2人共。用意バッチリだね。」
なんだかんだ2人も大きな荷物を用意してきていた。
後来ていないのは蒼1人だけだ。
「蒼はまだ来てへんの?」
「うん、まだ来てない。あ、でも家出たっていうLINEは15分前に来てるよ。」
「変だね。蒼の歩くペースだったらもう着いてもいい位なのに。」
「…念の為行くか。」
昴が理科室を出ていくと、その後に雪斗が続いて出て行った。もちろん私と涼花も一緒についていく。
「…蒼のことだから心配はないとは思うけど、、」
「でも最近あいつの周りをうろついてる人間が増えてるって話だぜ。」
私は雪斗と昴の会話を聞きながら不安になっていた。
最近、蒼は不良達と喧嘩することが増えてきている。
蒼が喧嘩に負けたことはないけど、昴の言うとおり、蒼の周りにうろつく人間がどんどん増えている。このまま増えれば蒼1人では手に負えなくなるだろう。
「…もしかして、あれか?」
「…あの、わらわら群がってるやつ?」
私達が足を止めた場所は、学校のすぐそばにある公園だった。公園内を見ると、いかにも不良らしい人間がたくさん群がっていた。うごめいている所を見ると、あの中心では殴り合いが行われているに違いない。
「あの中心に蒼がいるっていうんか?」
「たぶんね…さぁ、どうしようか。」
「そんなのやるっきゃねぇだろうがよ。」
「そんな簡単なことやないやろ!なぁ優美…って優美!?ちょ、どこ行くん!?」
あの中心に蒼がいる。そう思った私は居ても立ってもいられなくなり、群がる人混みへと駆け出した。
私1人が突っ込んだところで、殴り合いをしている人間への注目はやまない。私は人混みを掻き分けながら蒼がいるであろう中心部へと進んだ。
「優美!おい優美!危ねぇから戻ってこい!」
昴の声がかすかに聞こえたが、それに足を止めることは無く、私はそのまま進んでいった。するとようやく、殴り合いをしている人間が見えた。5人いるうちの1人はやはり蒼だった。5人とある程度距離を取りながらも周りを囲い込み、蒼が逃げれないようになっている。
「蒼…ッ、」
私の声は男達の叫び声によってかき消され蒼には届かない。
どうにか最後の人混みを掻き分けようと思ったが、強い力に押し戻されてしまう。すると後ろから力強く肩を掴まれ振り返ると、昴達が居た。
「お前はいつも1人で突っ走るなってのに!」
「優美はいつもそうやから慣れてるけどなぁ!もうちょい後のこと考えて行動しぃや!」
「今蒼の所に行っても何も出来ない、1回外れてから…」
「そんな暇ないの!今じゃないと蒼が…!」
すると周りの男達が雄叫びをあげたので何事かと思い、昴の腕を振り払いまた前に向き直すと、蒼が1人の男に後ろから捕まり、もう1人の男が蒼の前でバットを掲げていた。
「…蒼!!」
私は最後の人混みを抜け、蒼の方へと走った。
そしてそのまま蒼の前に立っているバットを持った男に体当たりをし、後ろにいる男も蒼から引き剥がした。
男達の雄叫びが止まり、視線が私の方へと向けられる。
「優美…!?」
「蒼!蒼大丈夫!?」
「おま…っ、なんでここに!」
「おー!これはこれは!誰が俺を突き飛ばしたのかと思いきや、1匹狼が唯一心を許したと言われている女、瀬戸内優美さんではないですかぁ!とうとう愛しの彼を助けに来たんですかい?相変わらずお美しい方だ。今からその顔を傷つけるのはとても心が痛い!」
私が突き飛ばした男が、砂を払いながら起き上がり、またバットを振りかぶる。「優美!」と動こうとした蒼に、また先程の男が後ろからしがみついた。バットで殴られると思い目をつぶったが、殴られた衝撃は来なかった。おそるおそる目を開けると、私の前で雪斗が振りかぶられたバットを手で抑えていた。
「やぁどうも、その物騒な物はしまって貰ってもいいかな。」
笑顔の雪斗から強烈なパンチが飛び、男は呆気なく地面にのびてしまった。蒼の後ろにいた男は昴に蹴りを入れられ、その場で痛みにうずくまる。
「…ったく、本当にお前等は…、もうちょい後のことを考えてから動けってのに…」
「ホントに!危ないやんか!」
動きが止まった人混みから抜けてきた3人が私と蒼の元へ駆け寄ってくる。周りの不良達は雪斗と昴が出てきたことで焦りを感じたのか、ざわざわとし始めた。
「あれ、是永雪斗と中村昴だろ…?」
「やべぇよな、あいつら2人だけで100人やったって話だぜ。」
「…ッチ、ずらかるぞ!」
先程まで1人だけを相手していたからなのか、相手が増えたことに慌てて、勢いづいていた不良達は呆気なくその場から走り去って行った。
「蒼!大丈夫なの!?怪我は…」
「…別に、どうってことねぇよ」
蒼の唇は、端が切れていて血が出ていた。その他にも色々な所に痣が出来ている。
「…なんで来たんだよ。」
「…なんでって、心配だったからに決まってるでしょ?最近喧嘩が増えてきてるし、蒼の周りをうろついてる不良達がどんどん増えていってるのも知ってる。だから皆で蒼を助けに来たの。」
「…別に、俺1人でも…」
「もう蒼1人で相手しきれるレベルじゃない。蒼が強いのはわかってるけど、喧嘩に強くなったって、それはどんどん自分を追い込むだけよ。」
私の言葉にもう少し噛み付いてくるかと思ったが、蒼は何も言わずに黙り込んだままだ。その様子を見ていた雪斗が声をかける。
「まぁとりあえず、旧校舎に戻ろう。雨は夕方からって言ってたけど、今にも降りそうな感じだし。」
「そうやねぇ、ってもう少しで学校始まるやん!急ごいそご!」
時計を見て慌てた涼花は「ほら行くで!」と私達をせかした。
蒼の方を見ると、ちゃんと荷物は持ってきているようで、背中に背負うと、涼花達についていった。私も行こうと思い歩き始めたとき、後ろから強い視線を感じた。足を止め振り返ると、そこには誰もおらず、気のせいか。と思い、また学校への帰り道を歩き始めた。
_________________________
旧校舎に着いた私達は、私と蒼だけが旧校舎に残り、あとの3人は教室に向かった。今傷だらけの蒼が教室に行ったら面倒くさいことになるだろうと思い、怪我の手当てもしなければ行けないので、私と蒼は旧校舎で3人が帰ってくるのを待つことにしたのだ。
「蒼、ちょっとここに座って。」
私が救急セットが入ったポーチを漁りながら蒼を呼ぶと、蒼は静かに私の前に座った。
「んー、顔はそこまで酷くないかな…」
私が消毒液を綿に染み込ませ、蒼の唇の切れたところに当てると、蒼の肩が一瞬あがった。やはり染みるのだろう。消毒し終わった傷口に絆創膏を貼り、次に湿布、ガーゼ、包帯を取り出した。
「…お前はドラえもんか、」
「しかも超現実的なドラえもんでしょ?これ全部怪我したときに使う物だしね。」
私は蒼の肘に消毒液をかけガーゼで抑えると、また新しいガーゼを貼って包帯を巻いた。足首には湿布を貼って手当ては終わり。「おしまい。」と言って、私はポーチの口を閉め、バックの中に放り込んだ。すると蒼が、私の肩に顔を埋めて呟いた。
「…もう、そろそろ限界が来てるかもしれない。」
「…うん。」
「でも、俺はお前達を巻き込むことだけはしたくない。だから、お前達は何もしなくていい。俺1人でなんとかする。」
「なんとかするって…、一体どうするの?もう止められないのが現状なのに、1人で何が出来るの?」
「1度死ぬ気でやるか、ボコボコに負けるか。どっちかだな。」
蒼は顔を上げ、私の目を見つめた。これは私を言い負かそうとするときの蒼だ。いつもは負けてしまう私だが、今回は負けない。そう思いながら、私は蒼の目を見つめた。
「負ける?あいつ等に好き放題やらせて、自分は何もしないっていうの?そんなんであいつ等が終わるわけない。きっと何か仕掛けてくるに決まってる。そんなの危なすぎて首を縦に振ることなんて絶対出来ない。死ぬ気でやるっていったって、その1回目に勝ったとしても、あいつ等はバカの1つ覚えみたいにどんどん人数を増やすはずよ。どっちにしろ危険でしかない。冷静に考えて、無謀すぎるわよ。」
「でも方法はこれしかねぇんだ。お前達を危険に巻き込む訳にはいかない。俺はどうなったっていい。でもお前達だけは…」
「私はあんたがどうなったっていいなんて思ってないわ!なんでそれがわからないの?いつもいつも、私がどれだけ心配してると思ってるの?あんたが傷1つ作ってくることに、私が何も思わないとでも思ってるの!?」
「優美、そんなに怒ると美人が台無しだよ。」
不意に聞こえた声に言葉を止める。理科室に入ってきたのは雪斗だった。
「ごめんね。盗み聞きするつもりじゃなかったんだけど、優美がめずらしく大きな声出してるからさ。
で、その蒼の話だけど。俺は優美の言うとおりだと思うよ。それは蒼もわかってると思うし、俺達のことを巻き込みたくないってのもわかる。でも、俺達からしたら、大事な友達が1人で危険な目に合うのは黙って見てることはできない。俺達だって生半可な気持ちでお前と一緒に居たわけじゃない。覚悟ぐらいできてるさ。だから蒼、少しは俺達を頼ってもいいんじゃないかな。」
「……でも、」
「それに、俺達と離れて行動するより、一緒に固まってたほうが絶対良いと思うんだけど?もしもの話だけど、優美が蒼の知らないところで誘拐でもされたらすぐ助けに行けないよ?それでも1人でやるって言うのか?」
雪斗の言葉に完全に押され、蒼は何も言わなくなった。
そんな蒼の肩に雪斗が手を置く。
「ま、今すぐにじゃなくてもいいから。この話の結末はまた後々決めるとして、それよりも、台風の影響で3日は休校になるらしいよ。どの教科からも課題が出るって言うから、それを片付けよう。たぶんもうすぐ、昴達が2人の分の課題を持ってきてくれると思うし。」
雪斗が蒼の肩から手を離すと、蒼は「あぁ。」と小さく呟いた。外から生ぬるい風が吹き、カーテンが揺れる。
外を見ると、黒い空の向こうで雷が光っていた。
第6話 終
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SHIN
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ただし、作者は木綿豆腐メンタルです。
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