青い瞳

影山紫苑

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第7話

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第7話

「不良の皆さんはこちらですか~?」

明るいテンションで理科室に入ってきたのは、涼花だった。後から昴が入ってきたが、彼はたくさんのプリントを持っていた。

「涼、お前少しは持てよ。」

「えー、かよわい女子にそんなの持たせようとするなんて酷い男やなぁ。もう着いたんだからえぇやんか。」

昴はたくさんのプリントを机の上に置くと、「これがお前達の分な。」と、私と蒼の前にプリントを置いた。

「すごい量だね…。」

「どうせ答えとか無いんだろ…めんどくせぇ」

「まぁ、いつもどおりやろう。」

いつもどおりとは、皆がそれぞれ得意教科の問題を解き、終わったらそれを写し合うという、なんともいえない作戦でやることだ。国語は私、数学は蒼、英語は雪斗、理科が昴で、社会は涼花だ。

「じゃあ、始めよう。」

「「了解。」」

雪斗の合図で、全員が一斉に問題を解き始める。得意教科ということもあって、誰にも相談せず黙々と勧めていき、
理科室には問題を解き進めるペンを走らせる音だけが響いていた。

_______________________


「とりあえず、半分は終わったね。」

あれから2時間。なんだかんだ半分まで課題を終わらせることが出来たが、ぶっ通しで解き続けたからなのか、やはり皆疲れている様子だった。

「私飲み物買ってくるよ。」

「あ、俺も行く。一人だと大変だろ?」

「ありがとう雪斗。じゃあ、行ってくるね。」

「「行ってらっしゃい」」

雪斗と2人で廊下に出ると、生ぬるい風が通った。
空は厚い雲に覆われているため、真っ暗に近い。まだ午前10時とは思えない明るさだ。
しばらく無言のまま歩いていると、雪斗が声をかけてきた。

「…優美さ、昴からなんか相談されなかった?」

「されたけど、なんで…?」

「いや、俺もあいつから相談されてたんだけど、まともなアドバイスしてやれなくてさ、優美は何て言ったのかなって思って。」

「…、言って後悔することもあるけど、言わないほうが後悔することもあるし、それは本人の選択次第だけど、気持ち伝えて壊れる関係じゃないんだから、男らしく伝えてみるのもありなんじゃない。的なことを言ったけど、」

雪斗は表情を暗くして、何か考えているようだった。
何かまずいことを言ってしまったのかと思い雪斗に聞こうとしたが、声をかけても返事がなく、肩を叩くと、「あ、ごめん。」と言って、表情に柔らかさが戻った。

「雪斗は…何か知ってるの?」

「いや、そういう訳じゃないよ。ただ、優美も昴に相談されたんだな。って思っただけだから。変なこと聞いてごめんな。」

雪斗は誤魔化すように笑って、自動販売機の前に立った。
でも、昴が私に相談したことを雪斗にも相談しているなら、きっと、私が知らないことを彼は知っているだろうし、それを言うつもりは無いのだろう。だからといって、聞くつもりはないし、聞かなくても何となくわかっている。それに、聞いたら、知らなくてもいいことまで知ることになりそうだ。
私は話題を変えようと、雪斗の横に立って話しかけた。

「雪斗は好きな子いないの?」

「いきなりだね。急にどうしたの?」

「いやー、そういえば、雪斗に彼女がいるとことかみたことないなー。って思って。そういう話も聞かないし。」

「彼女は作ったことないからね。恋愛に興味がない訳じゃないけど、機会がなかったかな。俺あんまりモテないし、女の子とも、優美と涼以外とは関わらないから。」

雪斗は自動販売機で飲み物を買うと、5本まとめて腕に抱えた。私は慌ててそこから2本取ると、歩きだした雪斗の後を付いて歩いた。

「今は?好きな子いないの?」

「…いるっちゃいるけど」

「いるの!?誰!?」

「優美なら、…たぶんわかるよ。」

雪斗は少し頬を赤らめながら、微笑んでいる。
私はドキドキしながら、思いつく相手の名前を言った。

「え、それって、涼…だったりする?」

「…まぁ、でも涼は他に好きな男がいるから、叶わないよ。」

いや、涼の好きな人は雪斗だよ…!って言いたくてたまらなくなったけど、ここは黙って見守ることにした。
私が言ってしまったら意味がないと思ったし、それこそお節介だろう。

「それ涼から聞いたの?」

「いや、聞いてないけど、なんとなくわかるんだよ。」

「それで諦めるの?まだわからないじゃない。
叶えたいなら、今動かなきゃ。それとも、雪斗はこのまま涼に何も伝えないまま終わっていいの?もしかしたら思いが伝わるかもしれないんだよ?」

雪斗にどうにか動いてほしくて、私は言葉をかけた。
彼は歩きながら、難しい顔をしている。
そしてしばらくするとその場に立ち止まって、
閉じていた口を開けた。

「…可能性、あるかな、」

「あるある!絶対ある!あるに決まってるじゃない!」

雪斗が涼花に想いを伝えたら、涼花は絶対に喜ぶに決まってる。涼花が雪斗のことを好きなのは知ってたけど、まさか雪斗も涼花が好きだったなんて、こんなことあるだろうか。
まさに運命。これは結ばれるべき。と私は強く思った。

「でも、どうしたらいいかわかんないし、」

「大丈夫!いつもどおりの雪斗でいいんだよ。でも、涼鈍感だから、ちゃんと気づくようにするのも効果大!」

「…それがわかんないんだけど…」

「大丈夫だって、なんとかなるから。」

「…お、おう、」

雪斗は不安そうな顔のまま、先を歩いて行った。
いつもは冷静に落ち着いている雪斗が、顔を赤くして悩んでいる。いつもどおりで大丈夫だとは言ったが、多分変に意識して、いつもどおりが出来なくなってしまうだろう。しかし、雪斗にうまくできなくても、涼花からもアピールすれば、2人のゴールインは目前だ。ただ、明らかにやり過ぎると違和感がうまれてしまうので、さりげなく手伝う程度でやっていくのがいいだろう。うまくいくかわからないが、その先は、とりあえず涼花に話してみてから考えることにした。

________________________

午後1時。雨が降る前に、男子達がコンビニに食べ物や飲み物を買いに行ったので、私は涼花を、4階の空き教室に呼び出した。

「優美、急にどしたん?こんな所に呼び出して…」

「涼さ、雪斗のこと好きだよね?」

「ふぇっ…!?いや、な、なにを言うてるんよ…!
うちが、ゆ、ゆ、雪斗を…、えぇぇぇ!?」

突然聞かれたからとはいえ、ものすごい動揺している所をみると、涼は本当に雪斗のことが好きなようだ。
「涼、落ち着いて。」と声をかけると、「え、あ、うん。」と涼は椅子に座った。

「急で悪いとは思ってるんだけど、そろそろ雪斗に気持ち伝えた方がいいんじゃないかな。って思うんだけど…」

「えぇ!?な、なんで?だってうちは別に…」

「雪斗モテるしなぁ~…、優しいし、カッコイイし、頭もいいし、他の女の子に取られちゃうかもなぁ?」

「え、嘘!雪斗って女の子にモテるん!?」

「モテるよぉ~、このままだと雪斗は、他の女の子と付き合うことになっちゃうかもな~。」

涼花は焦ったように「どーすればえぇの!?」と私の肩を掴んできた。この作戦、我ながらうまくいったなと思いつつ、私は微笑んで、涼花の手をとった。

「他の女の子が雪斗に告白しちゃう前に、涼が自分の気持ちを伝えればいいんだよ。今週はずっとここで過ごすんだから、いいチャンスじゃない?このチャンスを逃したらもうチャンスはないかも…」

「今週のどっかで告白すればえぇんよね…。
でもでもでも!それって普通に恥ずかしいやつやん!
告白してもしフラレたら、うち立ち直れへん…!」

「涼の気持ちは、絶対雪斗に届くよ。私わかるの。
きっとうまくいく。あとは涼が覚悟を決めるだけ。」

「……うん、そうやね。優美が言うなら大丈夫な気がしてきた!うち雪斗に告白する!うちの気持ち、ちゃんと伝えるんや!」

涼花は気合いを入れるように頬をパチンと軽く叩くと、
勢い良く立ち上がり、私の方へ体を向けた。

「でも、どうすればえぇの?」

「んー、イメチェンとか、色々な方法はあるよね。」

「イメチェンか…、で、いつ告白すればえぇんかな?」

「…涼がしたいときでいいと思うよ。自分の気持ちを伝えたい。ってときで。」

涼花は顔を赤くして俯いてしまった。しかし、しばらくするとまた顔を上げて、「今日。」と呟いた。

「今日。今日したい。」

「え、そ、そんな急で大丈夫なの?」

予想外の言葉に、私も驚きを隠せなかった。
しかし涼花は、さっきの戸惑っていた様子とは嘘のように落ち着いていた。力強い眼差しで私を見ている。

「確かに、最初は告白するつもりはなかった。優美にそうやって言われたからっていうのもあるけど、雪斗への気持ちが、好きって気持ちが、溢れて止まらへんの。今しかない。今を逃したら、またいつ覚悟を決められる日が来るかわからへん。
勢いやない。やけくそやない。今、心の底から、雪斗に告白したいねん。」

涼花の言葉に、私は何も返せなかった。
けど、ここまで気持ちを固めているのなら、何も返す必要はないだろう。私は、涼花のサポートをするだけだ。

「そういうことなら協力するぜ。」

「「あ、蒼!?」」

突然聞こえた声に驚いて振り返ると、そこには蒼が立っていた。私は慌てて蒼の元へ駆け寄る。

「え、ちょ、ここに来てるの蒼だけだよね…!?」

「心配すんな。俺だけだよ。買い物から帰ってきたから呼びに来たんだけど、2人の話がたまたま聞こえてきてな。」

蒼は軽く微笑むと、涼花の前に立った。

「雪斗に告白すんだろ?」

「…うん、」

「雪斗は今、昴と理科室にいるけど、どうする?」

「い、今すぐは無理や!ちゃんと、伝えたいことを考えてからやないと…」

涼花は顔を赤くして、首を振った。
そのとき、私の頭の中に、1つの作戦が思い浮かんだ。
涼花にバレないように、蒼を教室の外に呼び出す。

「とりあえず私は涼と作戦会議をするから、蒼はさりげなく理科室には雪斗1人の状態にして。昴にも事情を伝えてね。
その後、私は理科室で色々と仕掛けてくるから。」

「わかった。行ってくる。」

蒼はその場から離れ、階段を降りていったので、
私は教室の中に戻り、涼花と作戦会議?を始めた。

「とりあえず、涼をイメチェンする所からだね。
はい、まずそのスカートの下に履いてるジャージは脱いで、
髪の毛も整えるから、」

「え、そ、そんなことするん?」

「当たり前でしょ?雪斗に、かわいいって思ってほしくないの?」

「かわいくないよりは、かわいいの方が…えぇかな。
うん。よし、わかった。」

涼花はジャージを脱ぐと、スカートの丈を膝上まで戻し、
下げていた靴下も膝まで上げると、それだけで、いつもの涼花とは全然違う雰囲気になった。

「涼の髪ってずっと短いよね。伸ばさないの?」

「なんかめんどくさいから、あんま伸ばしたくないねん。」

「なるほどね~」

私は涼花の髪を軽く編み込んで、今日たまたまつけていた、ピンクのヘアピンを差した。

「よし!おっけー!涼、すごくかわいい。」

「そ、そうかなぁ?そうでもないと思うねんけど…」

「自信持って!雪斗に告白するんでしょ?」

「…うん。おーきに。」

涼花は少し頬を赤くしながら、小さく頷いた。
すると、さっき下に降りた蒼が、昴と一緒に教室に入ってきた。ということは、今理科室にいるのは雪斗だけ。
蒼はうまくやってくれたようだ。

「どう?イメチェンした涼は?かわいいでしょ?」

「全然雰囲気違うな…、いいと思うぜ。な、昴?」

「あぁ。涼って案外可愛くなるんだな。」

「案外とはなんや!うちだって女子や!」

涼花と昴は相変わらずだが、それでも、涼花は2人に褒められて嬉しそうにしていた。私はその場を静かに離れ、理科室で待つ雪斗の元へと向かった。

「…あれ、優美。皆はどこにいるの?」

理科室には、雪斗が1人、買ってきた物を整理していた。
私は雪斗の元へ駆け寄り、彼の肩を掴んだ。

「雪斗、涼に告白しよう。」

「え、きゅ、急にどうしたの?今日の優美はやけに積極的?だね…。」

「涼、色んな男子に告白されてるの。」

私のその言葉に、苦笑いを浮かべていた雪斗の表情は強張った。私はそのまま雪斗に言葉をかけ続ける。

「今告白しなきゃ、雪斗の思いは伝わらないまま終わっちゃうよ?それでもいいの?」

「…涼が、幸せになるなら、それでもいいと思うよ…」

「なに情けないこと言ってるのよ。雪斗はずっと涼のことが好きだったんでしょ?伝えなくていいの?昴には色んな恋愛のアドバイスしてる癖に、自分の恋からは背を向けるの?逃げて終わりにしちゃうの?」

私の問いかけに、雪斗は言葉を返さない。ただ口を閉じて、私の目を見ている。雪斗の肩を掴む手に、自然と力が入った。

「雪斗。今しかないよ。可能性あるかな、って動こうとしてたじゃない。もう諦めるの?後に回して、いいことがあると思ってるの?頭のいい雪斗なら、…ううん。涼のことをずっと考えてきた雪斗なら、今何をするべきかわかるばすよ。」

雪斗は暫く黙ったままだったが、覚悟を決めたのか、ずっと閉じていた口を開け、「告白するよ。」と力強く答えた。

「俺も男だ。好きな子にだって告白してみせるさ、他の男じゃない。俺を見てほしいから。涼に告白する。自分の気持ちを伝えるんだ。」

「……よかった。そう言ってくれて。じゃあ、ここで待っててね。すぐ来るから。」

「え、まさか、…」

「うん。そのまさか。てことで!雪斗、頑張ってね♪」

私はそれだけ告げると、理科室を飛び出て、4階の教室で待つ3人の元へと走った。教室には男子2人が、涼花の相談に乗っていて、涼花はとにかく落ち着かない様子だった。

「涼。雪斗、今理科室に居るから。行ってきな。」

「え、も、もう!?」

「するって決めたんでしょ?逃げちゃうの?」

涼花の顔はみるみる赤くなっていく。
しかし、スカートの裾を両手で握りしめると、
俯いていた顔を上げ、「行ってくる。」と笑顔で言うと、
教室を駆けて出て行った。涼花が雪斗の元へ向かったその後ろ姿を見て、蒼が私に問いかける。

「…大丈夫なのか?」

「もちろん。だって、2人とも気持ちを伝えてないだけで、本当はちゃんと両想いだから。」

「ほんと、良い意味で、お前はお節介だよな。」

昴も苦笑いを浮かべながら、私の隣へ来る。
「それじゃ、行きますかね。」と蒼が教室を出ていき、その後ろを私と昴が付いて歩いた。もちろん、向かった先は2人のいる理科室だ。階段を降りていき、1階に着いたとき、蒼が足を止め、「どうしたの?」と聞くと、しっ!と人差し指を立てた。

「…涼がまだ理科室に入ってない。そこの隅に立ってる。」

蒼が指差す方向を見ると、涼花が手を胸に当て、何度も何度も理科室のドアを開けようとしていた。やはり緊張しているのだろう。どうしてもその手でドアを開けることができないのだ。

「…涼、頑張れ。」

思わず、つのった気持ちが言葉に出る。
すると、私の思いが伝わったのか、涼花はとうとう理科室のドアを開けて、理科室の中へと入っていった。理科室のドアが閉まったことを確認して、私達は理科室のドアの前まで行き、耳を澄ませた。

「……涼、どうしたの?いつもと違うね…」

「ゆ、優美に…手伝ってもらったんよ。その、雪斗に、かわいくなった所、見てもらいたくて…」

「……俺に?」

「に、似合わへんかな、やっぱり、、
その、周りの女の子みたいに、かわいくないし、」

聞こえる会話からは、2人の緊張が感じられた。
涼花の声は震えていて、特にわかる。
雪斗もいつもと変わらないように聞こえるが、この状況で緊張しない訳もなく、どことなくぎこちなかった。

「…涼は、いつでもかわいいよ。今も、いつもどおりの時も、俺が出会ってきた女の子の中で、涼が1番かわいい。」

「…そ、それって…、え、その」

「涼。…俺、もうずっと前から、涼のことが好きなんだ。
急で驚くと思うし、涼には、他に…好きな奴がいるかもしれないけど、どうしても伝えたくて…」

今まで聞いたことのない、震えていながらも、真っ直ぐで力強い、優しい雪斗の声。しかし、その言葉に対する涼花の返事がない。どう返したらいいのかわからないのか、今の状況が理解できてないのかはわからないが、涼花は今、雪斗の前で固まってしまっているだろう。しかし、雪斗が心配して涼花に声をかけると、急に涼花が声をあげた。

「………う、うちやて!雪斗のことが好きや!大好きや!
こんなに胸が苦しくて、、苦しくて、辛い気持ちになったのも、好きでたまらなくなる気持ちになるのも!全部ぜんぶ!雪斗のせいやから!だから、だから、!」

「…だから?」

「…せっ、責任とって!うちと付き合ってや!」

涼花の勢い余った告白の後、少し沈黙があったが、すぐその沈黙は破られ、理科室には雪斗の笑い声が響いた。

「な、なんで笑うんよ!」

「…ッごめんごめん。そんな告白初めて聞いたから…ッ。
でも、涼らしいよ。」

「…悪かったなぁ、変な告白で…!」

「涼の言うとおり、ちゃんと責任とるよ。だから俺を、涼の彼氏にしてくれませんか。」

「……当たり前や!」

2人の嬉しそうな声が理科室に響き渡り、
やった!よかった!と私の胸は熱くなった。
横にいる2人も、嬉しそうに微笑んでいる。
私達が立ち上がり、ドアを開けると、2人は驚いた様子でこっちを見ていた。それと同時に、私達も2人を見て驚いた。
なぜなら、雪斗と涼花が、お互いの背に手を回して、抱き合っていたからだ。2人は慌てた様子で離れると、顔を赤くして私達を見つめた。

「わりぃ。邪魔したな。」

「いや、大丈夫だよ。」

「2人ともやっと両想いになれたな。おめでと。」

「なんだかんだ、色々あんがと!昴!それから…!」

涼花は目に涙を浮かべながら、私の方へ駆け寄り、思いきり抱きついてきた。私はそのままの勢いで後ろに尻もちをついてしまったが、そんなことはお構いなしに、涼花は私を抱きしめる。

「優美!ほんまにありがとぉ!優美のおかげや!」

「りょ、涼…、大袈裟だって…」

「俺からも、本当にありがとう優美。優美が背中押してくれなかったら、今も涼に告白できないままだったよ。」

「あれ、雪斗と優美に何か言われたんか?」

「そういう涼こそ…」

2人は何かに気づいたように私を見ると、「まさか…」と声を揃えて呟いた。

「あー、えーっと…、今回は控えようと思ってたんだけどー、
結局お節介焼いちゃった♪」

「「もぉ~優美~!」」

「ごめんって!両想いだったんだからいいじゃん!許して♪」

「「そういう問題じゃない!」」

私が全てを知ったうえで2人に協力していたことが、最初は少し恥ずかしかったようだけど、結局2人は大きな声で笑いだして、それにつられて、私と蒼も笑いだした。

しかし、私はあることに気がついた。いや、気づいてしまったのだ。皆が大笑いしている中、寂しそうに何かを見つめている人間が、1人いることを。そして、その目線の先に誰がいるのかも。そして…、その人間が、どんな気持ちで、その人物を見つめているのかを…。



第7話 終
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