青い瞳

影山紫苑

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第8話

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第8話(※軽くBL表現が含まれます。)

昨日、涼花と雪斗が両想いになり、とりあえず色々と落ち着いた頃。今日は大雨で、ものすごい風が窓を打ち付けていた。

1人空き教室に居た私は、昨日見たモノに、心がざわついていた。大笑いしているメンバーの中に1人、寂しそうな顔を浮かべていた人間………。それは昴だった。そして、その目線の先にいたのは蒼だったのだ。
何故。一体どういうことなのか。深く考えなくても、その答えはわかっている。
昴はきっと…蒼のことが好きなのだ。もちろん「友人として好き」の「好き」という訳ではないだろう。

「…コウ。は、昴のことだったんだ。」

昴に相談を受けたときに話していた「コウ」とは、昴のことだろうと、私は確信していた。「昴」という字は、「スバル」と読むが、「コウ」とも読む。あくまでも自分のことではないと言うように相談していたが、あれは自分自身が抱える悩みを相談していたのだ。だとしたら全てに説明がつく。
関係を崩したくない親友。それは紛れもなく蒼のことだ。
私が口にした、同性愛者などの言葉に対して過剰に反応したのも、自分が同性愛者の1人だと気付かれるのを恐れていたからなのだろう。もちろん、同性愛に関しての偏見は無いし、昴が同性愛者だとということも受け入れるつもりではいる。昴が誰かを好きでいることに、何かを言う権利は私には無い。
わかっているのに、何故か心がざわついて仕方ないのだ。

「…昴はきっと、蒼に自分の気持ちを伝えるつもりはない。だとしたら、このまま黙って終わりにするの…?それでいいの…?」

こんなことを考えること自体、間違っているかもしれないし、お節介だろう。しかし、放っておくこともできない。
真実を知ったうえで彼のことを考えると、いても立ってもいられない。理由はわかっていた。あの時…、…あの顔を見てしまったからだ。昴のあんな顔を見たのは初めてだった。「叶わない恋をしている」という諦めの気持ちに押しつぶされそうになりながらも、密かに抱き続けてしまう、消えてくれない気持ちに葛藤している。寂しそうで悲しい、切ない顔。
…一体彼はいつからその気持ちに苦しんで来たのだろうか。
ただでさえ、周りにはあまり受け入れられていない恋愛観を自分は持っていて、恋をした相手は自分の親友だ。
それに気づいたとき、彼はどれだけ苦しんだだろう。今現在、彼はどれだけ苦しんでいるのだろう。いつも表情何一つ変えないような昴が、あんな表情を浮かべるなんて。わからない。私には絶対わかることのできないことなのだ。

「…どうすればいいの…?どうすることが正解なの…?
何も知らないフリをして、黙って見過ごせばいいの?
それとも、気持ちを伝えるべきだと言ったほうがいいの?
でも、そんなこと言ったりしたら、昴はもっと閉じこもってしまうかもしれない…。」

自分の中で色んな気持ちが交差する。どうすればいいのかがわからない。何もしないことが正解だとしても、黙って見てるだけではいられない。けど、彼に色々なことを言ってしまったら、私どころか、皆のそばから離れていってしまうかもしれない。自分の気持ちに蓋をしてしまうかもしれない。
だとしたら…

「だとしたら…、どうすれば昴は苦しまなくて済むの…?」

「随分と大きな独り言だね。優美。」

「ゆ、雪斗…!?」

教室に入ってきたのは雪斗だった。その顔に笑顔は無く、彼は私の前の席に座ると、大きなため息をついて、私に話しかけた。

「…独り言の内容からして、昴のことだよね。
気づいちゃった?っていっても、なんとなくわかっていたんだよね?昴がどういう状況にいるのか。…何を思って、いつも過ごしているのか。」

「……雪斗、どこまで知ってるの?」

「全部じゃないよ。でもほとんどだ。」

「…昨日、昴はすごい寂しそうな顔をしてた。それである方向を、ずっと見つめてたの。その目線の先にいたのは……、蒼だった。」

「…その理由は、もうわかってるんでしょ?」

雪斗の言葉に、私は頷いた。すると、雪斗は私を見つめると、いつもの笑顔を浮かべた。

「…昴は、蒼が好きだ。でも昴は、その気持ちを伝えるつもりはないと思う。」

「…それでいいの?何もしないままで。」

「…迷ってるから、俺達に相談したんじゃない?」

雪斗の声はひどく優しい。でもそれはきっと、私がまたお節介を焼くことを止めようとしてるからなのだと、私は気づいていた。

「…黙って見てろって言うの?」

「俺達には、見守ることぐらいしかできないよ…わかるだろ?昴がどうして、蒼に気持ちを伝えないのか。」

「……でも、」

「昴は、俺達との関係を崩したくないんだよ。それに、優美が蒼のことを好きなのを、昴はわかってる。だから余計に、昴は言うのをやめようとしてるんだ。もちろんそれで、優美が自分のせいだと思う必要はない。だから、昴の為にも…、俺達は黙って見守ろう。」

雪斗の言葉の意味と、昴のことを考えると、私はどうしても、そこで頷くことしかできなかった。


_________________________

「…優美、ちょっといいか。」

次の日、たまたま理科室に1人で居た私に話しかけてきたのは、昴だった。昨日の雪斗との話もあって、昴の顔を見るのがとても気まずい。

「うん、大丈夫だけど…。どうかしたの?」

「こないだの、コウのことなんだけど…。やっぱり、気持ち伝えるのはやめるって。」

「……それで後悔しないって?」

「あぁ。もう諦めるんだと。」

昴が蒼に気持ちを伝えることを諦める。本当にそれでいいのか。私の中で押さえ込んだ葛藤が、また込み上げる。

「あれ、2人とも居たんだ?」

入ってきたのは雪斗だ。タイミングが良いようで悪い。
どうすればいいのか、私は頭の中で色々と混乱していた。

「雪斗、…あいつ、やっぱり諦めるって。」

「……そっか。それが答えなら、俺は反対しないよ。ね、優美。」

雪斗に名前を呼ばれて、返事をすることができない。
お節介を焼くのはやめようと決めたのに、私達に気を遣って無理ばかりする昴を黙って見守ることが、私にはどうしてもできない。私の中に溢れる気持ちが止まらず、とうとう私は口を開いてしまった。

「諦めちゃダメ。」

「…え?」

「諦めちゃダメだよ。絶対後悔する。」

「優美、これはコウ君が決めたことなんだから、もう俺達がやってあげられることは…」

「だって!無理する必要なんてないじゃない!
確かに、伝え辛いことかもしれない。普通に異性に告白することより、何十倍も、何百倍も緊張して、怖いことかもしれない。私にはわからないことばかりだと思う。でも、だからといって、自分の気持ちに蓋をして苦しんで欲しくなんてない。今まで頑張ってきたなら尚更よ。これ以上辛い思いをしてほしくないの!」

私は思わず、昴の肩を掴んだ。昴は、今までに見たことがないぐらい驚いた様子で私を見ている。

「昴。コウって人に伝えて。自分の気持ち伝えた方がいいって。怖いことだらけかもしれないけど、伝えないまま終わりにしてないでって。」

「…でも、もう、決めたんだよ…」

「諦めて気持ちは晴れるの?忘れられるの?伝えないから、ずっと苦しんでるんじゃないの?本当にそれでいいの!?幸せになれるの!?」

私の言葉に、昴は答えない。雪斗も私達の間に割り込むことはなく、黙って見守り続けている。俯いたまま何も言わない昴に、私は「昴!本当にそれでいいの!?」と声をかけた。
すると、昴が私の手を振り払い、「うるせぇんだよ!」と怒鳴り散らした。

「お前に何がわかる!?叶わない恋してたってな、いいことなんて1つもねぇんだよ!わかんねぇだろ?どうせ気持ちワリィって思ってんだろ?男が好きな俺のことなんてよ!」

「そんなこと思う訳ないじゃない!どれだけ一緒にいると思ってるの!?私は!昴に苦しんで欲しくないの!昴はもうたくさん我慢して、無理して、辛い思いしてきたじゃない!もう気持ちを伝えるべきよ。蒼なら、きっと受け入れてくれる。昴の気持ち、ちゃんと受け止めてくれるから!」

「言えるわけねぇだろ!言ったってどうせ叶わないんだ。それがわかってて気持ち伝えるなんて、後悔するだけなんだよ!諦めて、自然にこの気持ちが消えるのを待ってれば、それで終わるんだ。もう、いいんだよ…!俺は、蒼にひかれたくない、気持ち悪いって拒絶されんのが!1番怖いんだよ!」

そう言い放った昴の方は、大きく上下していた。
そして大きく息を吐くと、とても小さい声で、冷たく呟いた。

「…そんなに俺に告白させたいのかよ。」

「…ッそれは…」

「そうしたら、お前のライバルは居なくなるもんな。」

昴の言葉に、背筋が凍りついた。私は「どういうこと?」と震えた声で聞き返す。

「蒼が好きなお前は、早くライバルの存在を消したいんだろ?俺が告白したところで、あいつにフラレるのは目に見えてる。だから、とっとと俺に失恋させて、蒼を自分のモノにしたいんじゃねぇのか。」

「…昴、何言ってるの?」

「…俺なんかの恋が実る筈ないって、心のどこかで笑ってるんだろ?男同士の恋愛なんて、気持ちワリィもんな。こんな俺とは、一緒にいたくなんかねぇんだろ。俺なんかが友達で、迷惑だって思って…」

その言葉が言い終わる前に、私は昴の頬を叩いていた。
昴は驚いた様に私を見つめていたけど、私の視界は涙で滲んで、彼の顔はよく見えなかった。

「……そんなこと、思う筈ないじゃない…。昴は、私のことを何だと思ってるの?私のこと、親友として思ってくれてるって、信じてたのに…。」

「優美…」

私が涙を流している様子をみて、昴は驚きを隠せないようだった。何か言いたいのに、言葉が出てこない。というように見える。私は頬に流れる涙を拭って、大きく息を吐いた。

「……なんて、昴は悪くないのにね。ごめん、叩いたりして。私がお節介だったんだよね。雪斗とね、ちゃんと話したの。昴のこと見守ろうって…。でも、やっぱり黙ってみてることなんて出来なかった。でも…、私にわかる訳ないよね。それなのに、偉そうに「気持ち伝えなよ。」だなんて。…やっぱり私ダメだね。いつもいつも、余計なことばっかりしちゃって…」

話している最中に、拭ったばかりの涙が頬に流れた。私がここで泣くなんて、お門違いにも程がある。私が勝手にお節介を焼いただけだ。私が悪くて、昴に嫌な思いをさせて、何をしているのか。自分がとても情けなかった。

「…昴。昴が後悔しないなら、伝えなくてもいいと思う。でもね、きっと今の昴なら、伝えないほうが後悔すると思うの。蒼なら、昴の気持ち受け止めてくれる。だって、2人は親友でしょ?私言ったじゃない。気持ち伝えて壊れちゃうような関係じゃないんだから、男らしく伝えてみなよ。って…。」

「…お前…、」

「ごめんね。初めて相談されたときから、気づいてたの。でも知らないフリをしてた。さっきは勢いで色々言っちゃったけど、ホントはね?昴が私のこと嫌いになっちゃうかもって思ってたから、言わないようにしてたの…。でも、我慢できなかった。そのうえ叩いちゃったし、…私最低だね。嫌われて当然だよ。」

昴から目線を外して雪斗を見ると、雪斗はどこなく寂しそうな顔をして、何か言いたそうにしていた。そんな彼に私はぎこちなく微笑む。きっと、酷い顔をしているだろう。でも笑わなきゃ。笑え。笑え。心の中で何度も自分に呼びかける。けど、私はもう、この場にいることに耐えられなかった。
2人に背を向け、ドアに手をかけながら話しかける。

「…雪斗もごめんね。結局ダメだった。2人ともホントにごめん。もう…何もしないから。」

それだけ言い残し、私はその場から立ち去った。後ろでドアの閉まる音を遠くに感じながら、私はそのまま階段を駆け上がり、4階の空き教室に駆け込んだ。そうして窓際の1番後ろの席に座って、顔を伏せて静かに泣いた。自分のお節介な所には、ずっと嫌気が差していた。それなのに、何もしないで見守ることがどうしても出来ない。でも皆は、そんな私を、いつも優しく受け止めてくれた。だからこそ、自分のことをあまり責めることもなかった。けど今は、何にでもお節介を焼いてしまう自分のことが、とてつもなく嫌いだった。


 午後3時。静まることのない強風と、勢いだけが強くなる雨は、私を孤独な世界へと連れ込んだ。



第8話 終



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