天界アイドル～ギリシャ神話の美少年達が天界でアイドルになったら～

第三章 デビュー編

第7話‐2 音楽の神アポロンと美少年達

ガニュメデスはスタッフから渡されたタオルで汗を拭きながら、ふぅと息をついた。
アドニスはペットボトルの水をゴクゴクと飲み干し、ナルキッソスも水を飲んで一息ついていた。


そんな中、ヒュアキントスだけが、まだ興奮冷めやらぬ様子で頬を紅潮させていた。
そして彼は、おもむろに口を開いた。

「すごかったね！みんなかっこよかったね！」

ヒュアキントスは本当に感動した様子で目を輝かせながら言った。その無邪気な様子にアドニスとガニュメデスも思わず笑みが溢れてしまった。


そしてヒュアキントスは、昨日マスターからアドバイスをもらったことを思い返していたーー

***

「いいかい？君たちはこれからアイドルになるんだ！アイドルっていうのはね、歌って踊って人を魅了して楽しませるんだ。そして…私からアドバイスを授けよう。アイドルというのは、プロのダンサーや歌手には実力では及ばない。そして音楽家や演奏家とも違う。それらとアイドルとの違いは何だと思うかい？」

「うーん……わからないです……」
「そうか……じゃあヒントをあげよう！アイドルとはね、『夢』を見せるんだ！つまりお客さんを楽しませるということさ！！」

「夢を……見せる……？」
「そうだよ！！歌や踊りはもちろん大切だよ？でもそれだけじゃダメなんだ！歌や踊りで魅了して、楽しませること。そして元気を与えるのがアイドルだ。ファンはアイドルから元気をもらいたくて応援するんだよ」
「元気……」


「そうだ。そして…これが重要だ。ただ良いパフォーマンスを披露すればいいだけじゃないのだよ。君たち、ライブ演習のノルマをこなして気付いたことはないか？」
「気付いたこと……レッスンを受けてる時は誰に向かって踊ったり歌ってるかわからなかったけど…ライブ演習をしてる時は、お客さんの顔が見えて、反応がわかったかも」

ヒュアキントスは、少し考えてそう答えた。


「そう！！いいね、ヒュアキントス君。100点満点だ。つまりだ。アイドルのライブというのは、鑑賞だけじゃない。アイドルと観客とのコミュニケーションの場でもあるんだよ」
「コミュニケーション……」

「そのステージの間だけ、お客さんの恋人でいる。そのくらいの気持ちが大事だ。積極的にこちらからお客の目を見て、目が合ったら微笑みかける。そんなコミュニケーションを意識的にしてほしい」


***

そんなやり取りをしたことをヒュアキントスは思い返していた。

(ライブ演習の100回ノルマなんて無茶苦茶だと思ってたけど…マスターさん、僕たちのことを考えてくれてたんだな)

ヒュアキントスはデビューライブのことを振り返り、改めてそう思った。


その頃、アポロンはヒュアキントスに恋してしまった瞬間のことを思い、浸っていた。

「あの子と目が合って、私に微笑みかけてくれた、あの屈託のない笑顔を見た瞬間・・・私はどうしようもなくあの子に恋に落ちたんだ」
「…………」

(私も、その子と目が合ったし、微笑んでくれたけど……。それは言わないであげておこう)
ヘルメスは心の中でそう呟いた。


アポロンはすっかりヒュアキントスに心を奪われてしまっていた。

それからというもの、アポロンはずっとヒュアキントスのことを考えて過ごしていた。
仕事中も食事中でも入浴している時でさえ、ふとした瞬間に彼の顔を思い浮かべた。彼に会いたくて堪らなかった。


そんな日々が続いたある日のことーー
彼はついに決心し行動を起こすことにしたのだった。