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独立
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伸一は悦子に話していた独立の草案を纏めていた。
理由は幾つかある。
やはり、自分で何かしてみたいという気持ちと、3人の生活を成立させるため。
そしてより稼ぐためだ。
まず、不景気にも左右されないもの。
そして、競合があまり手を出さない分野。
出来れば富裕層を相手にしたかった。
広く庶民相手でねいいのだが、それだと景気の動きでガタついてしまう。
そした10年先を見つめて動く必要がある。
規模はそんなに大きくなくていい。
不景気の先には新しいものが必ず出てくる。
だが何をするのか?何がしたいのか?が今一つ固まらずにモヤモヤしていた。
仕事から帰り、悦子と晴美もいつもの出迎えがあり、晩御飯を食べている時だった。
「伸一さん、ちょっと問題が…」
悦子が珍しく困った顔をしていた。
「どうしたの?」
「実家から電話があって、なんか改築するらしいんですけど、荷物を預かってくれないかって言われたんです」
「荷物?」
「はい、改築の間はマンションに住むみたいですけど、手狭らしくて…なんとかタンスとか食器棚とかが置けないって」
「えっ…余裕ないよな」
「はい、まぁムリって断ったんですけど…」
「あの…私がしばらく実家に戻りましょうか?」
「それはしなくていいわ、晴美のせいじゃないからね」
「でも…」
「晴美は家族なんだから、出て行く理由は無いよ、安心して!」
「はい…すいません」
「どうする?」
「明日、断ります!物置でもあればいいですけど、ここにはそんな場所無いですからね」
「そうだな」
「全く…改築なんてしなくてもいいのに…」
悦子は怒り気味で、伸一と晴美はそれが可笑しかった。
「あ…」
「はい?」
「物置…場所…スペース……そうかぁ!」
「ん?」
悦子と晴美がポカンとした。
「どうしたんですか?」
「なるほど!それだ!悦子!」
「は…い?」
「ありがとう!閃いたよ!」
伸一は、そのまま寝室に入っていった。
「なんだろ?」
「分からないわ…」
金曜日の夜。
「悦子、ボンボン連中と会いたいんだが」
「それって前に言ってた話しですか?」
「あぁっ!閃いたよ。自分の独立で何がいいのかさ!」
「えっ!独立?」
初めて聞く晴美は口を開けたままだった。
「分かりました」
土曜日の夜。
バー〈サンタモニカ〉に5人が集まった。
「お久しぶりです!山咲さん」
「こちらこそ、あの時はありがとう」
タク、コータ、ナオヤ、シンジ、ケンヤもそれぞれ大人の顔になっていた。
悦子と晴美も参加している。
「オイオイ、悦子も晴美もすげーキレイになったよね?」
「あら…ケンヤもそういう事言えるようになったのね」
「晴美ちゃん、久しぶり!」
「コータくんも変わったね。なんかカッコよくなってる」
「影山の時のような興奮が中々無くて…」
シンジの言葉にタクが止めた。
「あっ…ごめん!」
晴美が微笑んで、頭を深々と下げた。
「あの時は本当にありがとうございました。みんなのおかげで、影山から離れられただけでなく、立ち直る事も出来ました。ホントに感謝してます。お礼が言えないままで、ごめんなさい…」
「いいよ、俺らも影山は嫌いだったからね」
ナオヤがフォローした。
「で、話って何ですか?」
「実は独立を考えています」
「ええっ!山咲さん会社辞めるんすか?」
「まだ、何もしていません。頭の中の構想です。皆さんに聞いてもらい感想を聞きたい」
「どんな事業を?」
「倉庫事業です」
「倉庫?」
「はい、分かりやすく言えば貸し倉庫です」
「え…そんなの需要あります?」シンジが不思議な顔をした。
タクは黙って聞いていた。
「東京は密集地で、土地の余裕がありません。これは会社然り、一般家庭然り…そこでそれらの保管しておきたいモノを預かる貸し倉庫業を考えました」
コータが質問した。
「でも、倉庫も場所がいるでしょ?」
「場所は必要です」
「そうそう開いてる土地なんて無いんじゃないかな?それに駅近は高いですよ?」
「その通りです。場所は必要ですが新たには建てません」
「じゃあ、どうやって?」
「空きビルを使うんです」
「なるほど!その手がありましたか!」
黙ってたタクが理解した。
「どーいうこと?」
ケンヤは理解していない。
「今は不況です。倒産ばかり出てきます。貸しビルや空きビル、廃墟でもいい。それらを改造して倉庫にするんです」
「分かった!それを企業や家庭に貸し出す」
コータも理解した。
「それだけじゃなく、東京だけではなく千葉、埼玉、神奈川も視野に入れて展開する。そこは空き地もあるはずです。だから、そこには倉庫を建てます」
「設備投資が大変でしょ?」
「いえ、そこにはビルは建てません」
「えっ何を建てるんですか?」
「古くなったコンテナです」
「コンテナ?」
「はい、輸入や輸出で使うコンテナですよ。あれを改造して物置程度のスペースを作るんですよ」
「それはすごい案ですね。それなら投資も少なくて済む…」
この時代、コンテナ倉庫はまだ無かった。
「メリットは何ですか?」
1番冷静なタクがズバッと聞いた。
「競合が無いことです。それと景気に左右されにくいのも魅力です」
「確かにウチの会社も書類の保管に、中野に借りてたなぁ…」
「細かい所はこれから考えますが、これを独立の事業にしようかと思います」
ここでナオヤが手を上げた。
「で、俺たちは何を?」
「そこです。皆さんをお呼びした理由は…」
みな黙った。
「出資をお願いしたい!」
「えっ?」
「はっ?」
「出資?」
「マジ?」
タクだけが無反応だった。
「皆さんには株主になっていただきたいのです」
「俺たちが?」
カバンから書類を取り出した。
人数分ある。
「この中に事業計画が記してあります。これで出資してもらえるか判断をお願いします」
「すげぇ…こんな…」
「実は、この事業を成功させるには皆さんの力もお借りしたい」
「と言うと?」
「ここにおられる方は銀行、広告代理店、不動産、建築、そして自動車販売の息子さんです。この会社の力と情報網、人脈をお借りしたいのです」
タクがゆっくり発言した。
「つまり、我々も協力する事で株主の利益に跳ね返ってくる…しかも、うまく行けば皆んなの利益にも繋がる…という事ですね」
「はい」
「タク、ちゃんと説明しろよ。皆んなの利益って?」
「シンジがさっき言ってたろう…わざわざ遠い場所で保管してるって。それが近くにあれば、お前の会社にも悪い話じゃ無いはずだ」
「あっ、そーか!」
「それに会社によっては倉庫を自社で所有してるとこもある。あれは意外に負担なんだよ。利益を生まないからな…保管を外注に任せて保管料さえ払えばそれだけで済む。固定資産税より安く済む場合もあるんだ」
「なるほど」
タクが続けた。
「この不況で、空きビルなんて山ほどある。その情報は銀行や不動産業界から分かるし、空いてる土地も分かる…それに宣伝も広告代理店があれば、どんな方法でも可能だ」
「その通りです」
タクが改めて事業計画を見た。
「これから初期投資も安いし、土地やビルオーナーも賃料が入る、しかも不動産を持たないから、山咲さんの会社も税金が抑えられるって事ですよね」
「はい。検討してもらえませんか?」
「これは価値ありますよ」
「来週末に返事を聞かせてくれませんか?」
「分かりました!」
悦子も晴美も伸一の構想に驚いた。
5人もみな、引き込まれているのが分かった。
これが伸一の魅力かも知れない。
たった2回程度の面識の相手を巻き込む発送は、2人の付き合ってきた男達には無いだろう、と思っていた。
実は1番面白みを感じてたのなタクだった。
父親は日東銀行の頭取であり、創始者は祖父である。
帰って父 雄三に概略を話した。
「ふむ、面白い話だな」
「需要あると思う?」
「派手さは無いが、 個人と企業のどちらも顧客相手になるし、確かにその手の話は聞いた事ないな…」
「競合が居ないなら、ウチがバックアップすれば伸びる可能性があると思う」
「で、お前が出資するのか?」
「うん、株主になってくれと言われてる」
「中々のやり手だな…山咲という男は」
「なんで?」
「たぶん、お前に目をつけたんだろう。頭取の息子を株主にしておけば、資金を調達しやすくなる…」
「でも、それだけではムリだよね」
「もちろんだ。事業そのものに魅力が無ければ、完全にアウトだからな」
「どうだろうか?」
「企業融資は、どこもかしこも不良債権に変わって、疲弊してるのも事実だ。ウチも同じだよ。だが、企業融資は枯渇させてはならない。これからは、なぁなぁよりこういう先のある事業に投資は必要だ。再来週の役員会で概略を話してみるか…」
「本人に来てもらう?」
「いや、まだいい。ファイオスを辞めていないんだろう?先走ってもいかんよ」
「分かった」
雄三の言う通り、タクに事業の魅力を伝える事が大事だった。
伸一は、タクや日東銀行が乗ってきたら、退職するつもりでいた。
電話が鳴り悦子が出た。
「はい、山咲です。あっ…タク?うん、ちょっと待ってくれる?」
「伸一さん、タクです」
「もしもし…あーどうも。はい…分かりました。では、お待ちしてます」
悦子と晴美が心配そうに見ていた。
「日東銀行の役員会で、頭取が提案してみるそうだ」
「ホントですか?」
「スゴイ!」
「まだ何も決まってないよ。もし、役員連中が食いついてきたら、退職して本格的に動こうと思う」
悦子も晴美も笑顔で、共に支える決心を新たにした。
2ヶ月後。
伸一は日東銀行の役員会控室にいた。
本来、一個人の事業プランを役員会で説明するのは異例である。
企業融資セクションの部長辺りが説明するのが筋道だが、なんせ他に無い事業の為、判断しづらいとタクが提案したものである。
かなり強引だが、創業者一族ならではの特権とも言えた。
控室と言えど、重厚な作りに歴史の重みがある。同伴した悦子はかなり緊張していた。
これから、総勢17名の役員連中に対してのプレゼンが始まる。
ボンボン連中のくれた情報を元に、事業計画の内容と展開、数字予測の推移を説明した。
そして、株主のメンバーにタクを始めとする各業界の有名のボンボンがいる事も大きなインパクトになった。
「いずれ、会社が拡大していけば御行にも株主として出資をお願いする計画もあります」
一通りの説明が終わり質疑応答に入る。
悦子から見ても、伸一は緊張が見られない。
悦子の背中は汗だらけだった。
「どうかね?質問ある方は?」
1人が手を挙げた。
「この計画では、不動産を借りて始めるとありますが、自社で所有するのもあるのですか?」
「はい、それは安定してから考えてます。その場合は、土地は借りて上物を自社で建てる構想です」
「でも、どこに土地があります?」
「候補はあります…」
「この東京にですか?」
「はい、今は眠ってますが、これから10年先には間違いなく活性化する場所があります」
ザワザワし出した。
「何処ですか?」
「…湾岸地域です!」
「えっ、湾岸?」
「はい、都市博が潰れたお台場地域は、間違いなくこれから新しく開発される場所です」
「根拠は?」
「もはや、内陸は再開発から始めないと大きな土地は望めません。つまり、土地買収から始めるワケですが、時間も効率も悪い…しかし、一面平たい土地が埋め立て地があるのは台場地域です。条件は揃ってます」
「これから日本国内には、新たな事業が生まれて経済を活性化させるでしょう。今まで牽引してきた重工業関連は伸び悩みます。コンビニがいい例です。24時間営業で、定価で売ってるにも関わらず、売上はかなりの伸びがあり、小売業界では、スーパー以上に出店しています。これまでの常識を覆す事業が産声を上げます。この貸し倉庫業は、まだ手付かずです。今しかチャンスがありません。あらゆる業界と繋がります。土地の無い東京だから、物置を借りるという発想が成り立ちます」
誰もが黙った。
「資金はどの位を見てますか?」
「ハッキリ申し上げて3億です」
「3億…」
「はい、既に品川にある貸しビルオーナーと川崎にある廃ビルのオーナーからは、丸ごと借りてくれる条件でオーケーを貰ってます」
「もう、そこまで…」
「はい、これもお願いですが…御行のお付き合いのある企業様にもご紹介頂きたく思います」
「おいおい、営業までやれと言うのかね?」
「いえ、手助けだけです。ただ、御行の名前にキズを付けない程度に活用させてもらいますが…」
「経理統括の岬さんは?」
「私だが…」
雄三の左隣の男が手を挙げた。
「経理部では、証憑と伝票類の保管が義務付けですよね?」
「まぁ、そうだな」
「そのためにわざわざ中野まで、書類と取って探さなきゃならない。しかも書類保管にシステムを作る余裕も無い…ですよね?」
「…そうだ」
「それを外注したら?もっと効率は良くなりませんか?例えば、欲しい書類を我々が届けるとか、そういうサービスがあればどうでしょうか?」
「まぁ、確かに…」
「このように書類保管にお金を使うのは何処の企業でも優先順位として低いものです。経理関係でも証憑類は最低でも5年間は保管しなければならない。その不動産を持ち続けても利益は出ません。ならば、賃貸にして有効に活用した方がいいのでは?」
雄三が再び質問した。
「どうだろう?私は彼の提案は良いものだと思う。誰も目を付けてない新たな事業だと思うし、伸びる可能性が大きく思うのだが…」
誰も反対意見は出なかった。
「では、よろしいかな?」
ほとんどが首を縦に振った。
「山咲くん、我が日東銀行はこの事業を支援させてもらう!」
悦子とタクの顔も緊張がほぐれた。
「山咲さん、やりましたね」
「いや、タクさんの支援あっての事です」
「いやぁ、緊張しましたね」
「これからが勝負だよ」
「厳しく見てきますよ」
「それは覚悟してるよ、よろしくお願いします」
握手で別れた。
「悦子もありがとう…」
「惚れ直しました…すごいプレゼンでしたね」
「これからが大変ですね」
「負担かけてすまない!」
「いえ、大丈夫です、どんと来い!です」
三年後。
伸一の会社〈SEH Corporations 〉は波に乗って拡大路線を歩んで、既に売上は200億を超えていた。
SEHは伸一、悦子、晴美の頭文字から付けた。
その年、伸一達は引越しをした。
悦子に男の子が授かったためである。
悦子と晴美の希望で、お台場の新築タワーマンションに入った。
ここは、かなり広い間取りで、近所ともあまり顔を合わせないので都合が良かった。
予想通り、台場には徐々に新しい建物が建設され、地価もうなぎ登りになった。
タクは将来の頭取修行の為、雄三からの希望で伸一の会社に役員として出向していた。
翌年。
晴美にも女の子が産まれた。
夫1人に妻が2人。この非常識な関係も年を重ねると日常的になる。
ワザと1年ずらしたのは、伸一の負担を減らす目的だった。
男の子は〈潤〉女の子は〈瞳〉と名付けた。
どちらも健康に産まれ、スクスクと育った。
そして、妻が2人いればストレスもそれほど堪らない。
3人の親は分け隔てなく、等しく愛情を注いだ。
平穏な日々が流れ5年が過ぎた。
理由は幾つかある。
やはり、自分で何かしてみたいという気持ちと、3人の生活を成立させるため。
そしてより稼ぐためだ。
まず、不景気にも左右されないもの。
そして、競合があまり手を出さない分野。
出来れば富裕層を相手にしたかった。
広く庶民相手でねいいのだが、それだと景気の動きでガタついてしまう。
そした10年先を見つめて動く必要がある。
規模はそんなに大きくなくていい。
不景気の先には新しいものが必ず出てくる。
だが何をするのか?何がしたいのか?が今一つ固まらずにモヤモヤしていた。
仕事から帰り、悦子と晴美もいつもの出迎えがあり、晩御飯を食べている時だった。
「伸一さん、ちょっと問題が…」
悦子が珍しく困った顔をしていた。
「どうしたの?」
「実家から電話があって、なんか改築するらしいんですけど、荷物を預かってくれないかって言われたんです」
「荷物?」
「はい、改築の間はマンションに住むみたいですけど、手狭らしくて…なんとかタンスとか食器棚とかが置けないって」
「えっ…余裕ないよな」
「はい、まぁムリって断ったんですけど…」
「あの…私がしばらく実家に戻りましょうか?」
「それはしなくていいわ、晴美のせいじゃないからね」
「でも…」
「晴美は家族なんだから、出て行く理由は無いよ、安心して!」
「はい…すいません」
「どうする?」
「明日、断ります!物置でもあればいいですけど、ここにはそんな場所無いですからね」
「そうだな」
「全く…改築なんてしなくてもいいのに…」
悦子は怒り気味で、伸一と晴美はそれが可笑しかった。
「あ…」
「はい?」
「物置…場所…スペース……そうかぁ!」
「ん?」
悦子と晴美がポカンとした。
「どうしたんですか?」
「なるほど!それだ!悦子!」
「は…い?」
「ありがとう!閃いたよ!」
伸一は、そのまま寝室に入っていった。
「なんだろ?」
「分からないわ…」
金曜日の夜。
「悦子、ボンボン連中と会いたいんだが」
「それって前に言ってた話しですか?」
「あぁっ!閃いたよ。自分の独立で何がいいのかさ!」
「えっ!独立?」
初めて聞く晴美は口を開けたままだった。
「分かりました」
土曜日の夜。
バー〈サンタモニカ〉に5人が集まった。
「お久しぶりです!山咲さん」
「こちらこそ、あの時はありがとう」
タク、コータ、ナオヤ、シンジ、ケンヤもそれぞれ大人の顔になっていた。
悦子と晴美も参加している。
「オイオイ、悦子も晴美もすげーキレイになったよね?」
「あら…ケンヤもそういう事言えるようになったのね」
「晴美ちゃん、久しぶり!」
「コータくんも変わったね。なんかカッコよくなってる」
「影山の時のような興奮が中々無くて…」
シンジの言葉にタクが止めた。
「あっ…ごめん!」
晴美が微笑んで、頭を深々と下げた。
「あの時は本当にありがとうございました。みんなのおかげで、影山から離れられただけでなく、立ち直る事も出来ました。ホントに感謝してます。お礼が言えないままで、ごめんなさい…」
「いいよ、俺らも影山は嫌いだったからね」
ナオヤがフォローした。
「で、話って何ですか?」
「実は独立を考えています」
「ええっ!山咲さん会社辞めるんすか?」
「まだ、何もしていません。頭の中の構想です。皆さんに聞いてもらい感想を聞きたい」
「どんな事業を?」
「倉庫事業です」
「倉庫?」
「はい、分かりやすく言えば貸し倉庫です」
「え…そんなの需要あります?」シンジが不思議な顔をした。
タクは黙って聞いていた。
「東京は密集地で、土地の余裕がありません。これは会社然り、一般家庭然り…そこでそれらの保管しておきたいモノを預かる貸し倉庫業を考えました」
コータが質問した。
「でも、倉庫も場所がいるでしょ?」
「場所は必要です」
「そうそう開いてる土地なんて無いんじゃないかな?それに駅近は高いですよ?」
「その通りです。場所は必要ですが新たには建てません」
「じゃあ、どうやって?」
「空きビルを使うんです」
「なるほど!その手がありましたか!」
黙ってたタクが理解した。
「どーいうこと?」
ケンヤは理解していない。
「今は不況です。倒産ばかり出てきます。貸しビルや空きビル、廃墟でもいい。それらを改造して倉庫にするんです」
「分かった!それを企業や家庭に貸し出す」
コータも理解した。
「それだけじゃなく、東京だけではなく千葉、埼玉、神奈川も視野に入れて展開する。そこは空き地もあるはずです。だから、そこには倉庫を建てます」
「設備投資が大変でしょ?」
「いえ、そこにはビルは建てません」
「えっ何を建てるんですか?」
「古くなったコンテナです」
「コンテナ?」
「はい、輸入や輸出で使うコンテナですよ。あれを改造して物置程度のスペースを作るんですよ」
「それはすごい案ですね。それなら投資も少なくて済む…」
この時代、コンテナ倉庫はまだ無かった。
「メリットは何ですか?」
1番冷静なタクがズバッと聞いた。
「競合が無いことです。それと景気に左右されにくいのも魅力です」
「確かにウチの会社も書類の保管に、中野に借りてたなぁ…」
「細かい所はこれから考えますが、これを独立の事業にしようかと思います」
ここでナオヤが手を上げた。
「で、俺たちは何を?」
「そこです。皆さんをお呼びした理由は…」
みな黙った。
「出資をお願いしたい!」
「えっ?」
「はっ?」
「出資?」
「マジ?」
タクだけが無反応だった。
「皆さんには株主になっていただきたいのです」
「俺たちが?」
カバンから書類を取り出した。
人数分ある。
「この中に事業計画が記してあります。これで出資してもらえるか判断をお願いします」
「すげぇ…こんな…」
「実は、この事業を成功させるには皆さんの力もお借りしたい」
「と言うと?」
「ここにおられる方は銀行、広告代理店、不動産、建築、そして自動車販売の息子さんです。この会社の力と情報網、人脈をお借りしたいのです」
タクがゆっくり発言した。
「つまり、我々も協力する事で株主の利益に跳ね返ってくる…しかも、うまく行けば皆んなの利益にも繋がる…という事ですね」
「はい」
「タク、ちゃんと説明しろよ。皆んなの利益って?」
「シンジがさっき言ってたろう…わざわざ遠い場所で保管してるって。それが近くにあれば、お前の会社にも悪い話じゃ無いはずだ」
「あっ、そーか!」
「それに会社によっては倉庫を自社で所有してるとこもある。あれは意外に負担なんだよ。利益を生まないからな…保管を外注に任せて保管料さえ払えばそれだけで済む。固定資産税より安く済む場合もあるんだ」
「なるほど」
タクが続けた。
「この不況で、空きビルなんて山ほどある。その情報は銀行や不動産業界から分かるし、空いてる土地も分かる…それに宣伝も広告代理店があれば、どんな方法でも可能だ」
「その通りです」
タクが改めて事業計画を見た。
「これから初期投資も安いし、土地やビルオーナーも賃料が入る、しかも不動産を持たないから、山咲さんの会社も税金が抑えられるって事ですよね」
「はい。検討してもらえませんか?」
「これは価値ありますよ」
「来週末に返事を聞かせてくれませんか?」
「分かりました!」
悦子も晴美も伸一の構想に驚いた。
5人もみな、引き込まれているのが分かった。
これが伸一の魅力かも知れない。
たった2回程度の面識の相手を巻き込む発送は、2人の付き合ってきた男達には無いだろう、と思っていた。
実は1番面白みを感じてたのなタクだった。
父親は日東銀行の頭取であり、創始者は祖父である。
帰って父 雄三に概略を話した。
「ふむ、面白い話だな」
「需要あると思う?」
「派手さは無いが、 個人と企業のどちらも顧客相手になるし、確かにその手の話は聞いた事ないな…」
「競合が居ないなら、ウチがバックアップすれば伸びる可能性があると思う」
「で、お前が出資するのか?」
「うん、株主になってくれと言われてる」
「中々のやり手だな…山咲という男は」
「なんで?」
「たぶん、お前に目をつけたんだろう。頭取の息子を株主にしておけば、資金を調達しやすくなる…」
「でも、それだけではムリだよね」
「もちろんだ。事業そのものに魅力が無ければ、完全にアウトだからな」
「どうだろうか?」
「企業融資は、どこもかしこも不良債権に変わって、疲弊してるのも事実だ。ウチも同じだよ。だが、企業融資は枯渇させてはならない。これからは、なぁなぁよりこういう先のある事業に投資は必要だ。再来週の役員会で概略を話してみるか…」
「本人に来てもらう?」
「いや、まだいい。ファイオスを辞めていないんだろう?先走ってもいかんよ」
「分かった」
雄三の言う通り、タクに事業の魅力を伝える事が大事だった。
伸一は、タクや日東銀行が乗ってきたら、退職するつもりでいた。
電話が鳴り悦子が出た。
「はい、山咲です。あっ…タク?うん、ちょっと待ってくれる?」
「伸一さん、タクです」
「もしもし…あーどうも。はい…分かりました。では、お待ちしてます」
悦子と晴美が心配そうに見ていた。
「日東銀行の役員会で、頭取が提案してみるそうだ」
「ホントですか?」
「スゴイ!」
「まだ何も決まってないよ。もし、役員連中が食いついてきたら、退職して本格的に動こうと思う」
悦子も晴美も笑顔で、共に支える決心を新たにした。
2ヶ月後。
伸一は日東銀行の役員会控室にいた。
本来、一個人の事業プランを役員会で説明するのは異例である。
企業融資セクションの部長辺りが説明するのが筋道だが、なんせ他に無い事業の為、判断しづらいとタクが提案したものである。
かなり強引だが、創業者一族ならではの特権とも言えた。
控室と言えど、重厚な作りに歴史の重みがある。同伴した悦子はかなり緊張していた。
これから、総勢17名の役員連中に対してのプレゼンが始まる。
ボンボン連中のくれた情報を元に、事業計画の内容と展開、数字予測の推移を説明した。
そして、株主のメンバーにタクを始めとする各業界の有名のボンボンがいる事も大きなインパクトになった。
「いずれ、会社が拡大していけば御行にも株主として出資をお願いする計画もあります」
一通りの説明が終わり質疑応答に入る。
悦子から見ても、伸一は緊張が見られない。
悦子の背中は汗だらけだった。
「どうかね?質問ある方は?」
1人が手を挙げた。
「この計画では、不動産を借りて始めるとありますが、自社で所有するのもあるのですか?」
「はい、それは安定してから考えてます。その場合は、土地は借りて上物を自社で建てる構想です」
「でも、どこに土地があります?」
「候補はあります…」
「この東京にですか?」
「はい、今は眠ってますが、これから10年先には間違いなく活性化する場所があります」
ザワザワし出した。
「何処ですか?」
「…湾岸地域です!」
「えっ、湾岸?」
「はい、都市博が潰れたお台場地域は、間違いなくこれから新しく開発される場所です」
「根拠は?」
「もはや、内陸は再開発から始めないと大きな土地は望めません。つまり、土地買収から始めるワケですが、時間も効率も悪い…しかし、一面平たい土地が埋め立て地があるのは台場地域です。条件は揃ってます」
「これから日本国内には、新たな事業が生まれて経済を活性化させるでしょう。今まで牽引してきた重工業関連は伸び悩みます。コンビニがいい例です。24時間営業で、定価で売ってるにも関わらず、売上はかなりの伸びがあり、小売業界では、スーパー以上に出店しています。これまでの常識を覆す事業が産声を上げます。この貸し倉庫業は、まだ手付かずです。今しかチャンスがありません。あらゆる業界と繋がります。土地の無い東京だから、物置を借りるという発想が成り立ちます」
誰もが黙った。
「資金はどの位を見てますか?」
「ハッキリ申し上げて3億です」
「3億…」
「はい、既に品川にある貸しビルオーナーと川崎にある廃ビルのオーナーからは、丸ごと借りてくれる条件でオーケーを貰ってます」
「もう、そこまで…」
「はい、これもお願いですが…御行のお付き合いのある企業様にもご紹介頂きたく思います」
「おいおい、営業までやれと言うのかね?」
「いえ、手助けだけです。ただ、御行の名前にキズを付けない程度に活用させてもらいますが…」
「経理統括の岬さんは?」
「私だが…」
雄三の左隣の男が手を挙げた。
「経理部では、証憑と伝票類の保管が義務付けですよね?」
「まぁ、そうだな」
「そのためにわざわざ中野まで、書類と取って探さなきゃならない。しかも書類保管にシステムを作る余裕も無い…ですよね?」
「…そうだ」
「それを外注したら?もっと効率は良くなりませんか?例えば、欲しい書類を我々が届けるとか、そういうサービスがあればどうでしょうか?」
「まぁ、確かに…」
「このように書類保管にお金を使うのは何処の企業でも優先順位として低いものです。経理関係でも証憑類は最低でも5年間は保管しなければならない。その不動産を持ち続けても利益は出ません。ならば、賃貸にして有効に活用した方がいいのでは?」
雄三が再び質問した。
「どうだろう?私は彼の提案は良いものだと思う。誰も目を付けてない新たな事業だと思うし、伸びる可能性が大きく思うのだが…」
誰も反対意見は出なかった。
「では、よろしいかな?」
ほとんどが首を縦に振った。
「山咲くん、我が日東銀行はこの事業を支援させてもらう!」
悦子とタクの顔も緊張がほぐれた。
「山咲さん、やりましたね」
「いや、タクさんの支援あっての事です」
「いやぁ、緊張しましたね」
「これからが勝負だよ」
「厳しく見てきますよ」
「それは覚悟してるよ、よろしくお願いします」
握手で別れた。
「悦子もありがとう…」
「惚れ直しました…すごいプレゼンでしたね」
「これからが大変ですね」
「負担かけてすまない!」
「いえ、大丈夫です、どんと来い!です」
三年後。
伸一の会社〈SEH Corporations 〉は波に乗って拡大路線を歩んで、既に売上は200億を超えていた。
SEHは伸一、悦子、晴美の頭文字から付けた。
その年、伸一達は引越しをした。
悦子に男の子が授かったためである。
悦子と晴美の希望で、お台場の新築タワーマンションに入った。
ここは、かなり広い間取りで、近所ともあまり顔を合わせないので都合が良かった。
予想通り、台場には徐々に新しい建物が建設され、地価もうなぎ登りになった。
タクは将来の頭取修行の為、雄三からの希望で伸一の会社に役員として出向していた。
翌年。
晴美にも女の子が産まれた。
夫1人に妻が2人。この非常識な関係も年を重ねると日常的になる。
ワザと1年ずらしたのは、伸一の負担を減らす目的だった。
男の子は〈潤〉女の子は〈瞳〉と名付けた。
どちらも健康に産まれ、スクスクと育った。
そして、妻が2人いればストレスもそれほど堪らない。
3人の親は分け隔てなく、等しく愛情を注いだ。
平穏な日々が流れ5年が過ぎた。
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