安心して下さい。私の幸せは貴方じゃありません!

minmi

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 バカ共が我が家に謝罪に来て早一時間。
 と言っても謝罪は前半10分ほどで、あとは殆どがお父様による説明と説教である。
 お父様が私の代わりに話してくれたため助かったが、バカはその言葉だけで相手を疲れさせる能力を有していたようだ。
 つまり……疲れた。

 「………」

 チラリと隣りのお父様を見ると、ソッと少しだけお父様に近付く。
 ピタリとくっつくことしないが、心持ち近くなった距離に元気が出た。へへへ。

 「(は、鼻がっ)」

 いや、メアリー貴方どれだけ興奮してるのよ。
 視界の端で真っ赤な顔で鼻を押さえている姿が目に入り苦笑いする。
 そしてーー

 「もう少し待っていてね」

 …………ヤバっ、私も鼻血が出すとこだった!
 そんなイケメンの微笑みと共に垂れていた横髪をそっと耳にかけられたら……ヤバいからっ!惚れちゃうでしょ!いや、もう惚れてたわ。
 あ、メアリーが倒れた。
 うんうんと頷きメアリーを連れ出す使用人たちに、どうやら彼らの中では何かを分かり合っているらしい。

 「トーマス君、随分落ち込んでいるようだがどうしたんだい?これは全て君が望んだことだろう?」
 
 不思議そうに笑うお父様に、ぽけっと顔を上げたトーマスはバカ丸出しだった。
 ここまで来ると笑いより憐れみしかないわ。

 「君が言っていたんじゃないか。全てを捨ててもいいと思えるほどの素晴らしい女性なんだと。素敵だね」

 良かったねとまるで子を褒めるような笑顔だが、私は知っている。
 これはつまり「死ぬまで地獄を味わえ」という意味だと。
 ここまでしてやったんだから感謝しろと言わんばかりに笑みが絶えない。
 お父様の調べによってバカがバカほど熱を上げていた相手が男爵位だということは聞いていた。
 しかも彼女には兄が2人おり、勿論彼らのどちらかが将来家を継ぐ。
 さぁ、これから2人はどうなってしまうのか……
 
 「良かったですわね。容姿も心根も美しい方なんでしょう?一生を添い遂げたいと思える方なんですよね?まさに、ですわね」

 素晴らしいわぁと1ミリも思ってない笑顔でトーマスに告げれば、再び涙を流し謝罪し始めた。
 うぜぇからやめろ。

 「そうだな。とても羨ましいよ。まさに全てを捨てて愛する人と手と手をとり合い困難に立ち向かう。まるで物語りのようだね」

 見守っているよとそれそれは素晴らしい笑顔のお父様。
 ここで応援するよと言わないところは流石。
 何があっても愛する人がいればそれでいいなんて夢物語りだ。
 そのためには絶え間ない努力と苦労を有し、それをこのバカが出来るはずがない。
 そんなことが出来たら婚約破棄するなどと愚かな考えするはずがないのだから。
 あ、私は将来のためとやってますよ?もう一生結婚せず、お父様と一緒に暮らしていけるぐらいには稼いでいますもの。そこのクズに違って。
 
 「もうその女性とは話しはお済みで?申し訳ありませんが、このようなことがあった以上結婚式には参列出来ませんのでご了承下さい」

 「ああ、頑張りたまえ」

 話しは終わり早く出てけとばかりに視線を向けるが、未だ放心冗談の彼らはピクリとも動かない。

 「お父様、もしかしたらトーマス様は嬉しさのあまり動けないのかもしれません。馬車までお連れしては?」

 最後まで迷惑をかけることしか出来ないなんて……この人たち本当に成人してるのかしら?

 「………仕方ない。誰か彼らを馬車までお連れしろ」

 「かしこまりました」

 晴れ晴れとした表情で執事が部屋を出て行く。
 彼は元々この婚約には反対していたのでよほど嬉しいのだろう。
 年齢的にも彼にとって私は孫のような存在らしい。

 「お父様、この後一緒にお茶でも?」

 「喜んで付き合おう」

 仲良し親子は今日も元気です!!
 
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