世界で一番幸せな呪い

一字句

文字の大きさ
30 / 54
2章:贋作は真作足りえるか

迷いの森へ

しおりを挟む
「おい、いい加減そのにやついた顔をやめないか、うっとうしい!」

リュカに泊めてもらった部屋で、アリスは憤慨した。

「いや、だってお前があんな啖呵を切るなんて意外でさ。論理性も合理性もないあんな宣言をアリスがするなんてちょっとおかしくてなー」

そう言いつつも、クロウはくすすっと笑う。クロウのその笑いは嘲笑ではなかった。クロウはうれしかったのだ。蒼龍退治の時は流れで手伝ってはくれたが、彼女はどこかすべてのことが他人事であった。そんな彼女が誰かのために不器用ながらも立ち上がったことがクロウにはたまらなくうれしかったのだ、彼自身の行く道が他者に肯定されているようで————。

アリスに脛をガシガシと蹴られて

「いたた・・・、ごめんごめん悪かったよ。・・・それでどうするんだ、アリス。あと数日で迷いの森に入って、ティアっていう娘を連れて帰ってもないといけないわけだろう?」

「どうするも何も、行くしかないだろう。言っておくが別に君は着いてくる必要はないぞ、これは私がアンネに勝手に約束したことだ」

アリスが少しだけ、胸を張って言ったようにクロウは感じた。

「何言ってんだよ、アリス。こちとら蒼龍退治で、お前に助けてもらってるんだ、いまさらそんなこと言いっこなしだぜ」

それを聞くとアリスは心なしか、少しほっとしたようで、ふんっ、ならいいがねと言った。

「それよりもアリス、度々話に出てくる迷いの森って何なんだ?」

とクロウはかねてからの疑問をアリスへ尋ねた。

「あぁ、迷いの森というのはだね、高密度の魔素が充満している広大な森のことだよ。高濃度の魔素は、魔族にとって距離間隔や方向感覚を惑わす。だから、“迷い”の森と呼ばれているというわけさ」

「んじゃあ、アンネさんの娘さんがいる館にたどり着けるのか?」

そう聞くと、アリスはにやりと笑い、クロウを指さした。

「そこで君の出番というわけさ。君の力なら、おそらく高密度の魔素の影響を受けることなく、森を進める可能性が高い。だから、君が道を間違えさえしなければ館へとたどり着けるというわけさ」

そこまで聞いて、クロウはあきれ顔になった。

「なんだよ、最初から俺を連れて行く気満々じゃねーか。なーにが君は着いてくる必要はないだよ」

それを聞いたアリスはにやりと意地の悪い笑みを浮かべ

「君曰く、そんなの言いっこなしなんだろう?さて、明日も早いし、早く寝ようじゃないか」

そう言うと、彼女は布団にもぐりこんだ。はぁ、とクロウはため息を吐いた。思えばこの少女と出会ってから、こんなふうなやり取りが日常的になっていた。それはクロウにとって昔の仲間たちとのやり取りを彷彿とさせるものだった。クロウはチクリと刺す胸の痛みに気が付かないふりをして、布団をかぶって寝た。

翌朝、クロウとアリスはリュカにもらったわずかばかりの食料を持ち、出発した。出発の際

「本当にいいのか?迷いの森はその魔素量を目当てとした魔物も多い。見ず知らずの者のために、自らの命を危険にさらすなんてことはアンネも望まないよ」

リュカはそう心配そうな顔で言った。そんなリュカの憂いを払拭するように、アリスは笑いながら言った。

「大丈夫さ、何も私たちは死の行軍をしようってわけじゃない。私たちは生きるために、希望をつなぐために行くのさ。そういう者たちにかける言葉は古来から決まっているだろう?」

それを聞いたリュカは、少しキョトンとした顔をした後、困ったように笑うと、言った。

「あぁ、そうだな。行ってらっしゃい二人とも。無事に帰ってくることを心から願っておるよ」

「「あぁ、行ってきます!」」

クロウとアリスは二人、声を揃えて、迷いの森へと旅立った。クロウはいたずらっぽく笑って、アリスに言った。

「今度はわりかし、かっこよく決まったんじゃないか?」

アリスは唇を尖らせ、足を上げると、思いきりクロウの脛を蹴った。クロウの叫び声があたりの草原へと広がった。そして、アリスは一人でずんずんと進んでいってしまった。クロウは若干足を引きずりながらも、そのあとを小走りで追った。

 そこから、4時間ばかり歩いたところで、迷いの森の入口へと着いた。クロウが隣を歩いているアリスを見ると、玉のような汗を頬にへばりつかせ、肩で息をしていた。

「大丈夫か、アリス。ちょっと休むか?」

「いや、大丈夫さ。ほら急ごう」

アリスは頬の汗をぬぐうと、森へ入ろうと進み始めた。しかし、その肩をクロウはつかんだ。

「いや、一回休もう。こっから先はいつ休めるか分かんないからな」

アリスは何かを言おうとしたが、悔しそうにこぶしを握り締めると、分かったとつぶやいて、近場の石の上に座った。そして、数分後、改めてクロウ達は迷いの森へとはいっていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

辺境で静かに暮らしていた俺、実は竜王の末裔だったらしく気づけば国ができていた

平木明日香
ファンタジー
はるか五億四千万年前、この星は六柱の竜王によって治められていた。火・水・風・土・闇・光――それぞれの力が均衡を保ち、世界は一つの大きな生命のように静かに巡っていた。だが星の異変をきっかけに竜の力は揺らぎ、その欠片は“魂”となって新たな生命に宿る。やがて誕生した人類は文明を築き、竜の力を利用し、ついには六大陸そのものを巨大な封印装置へと変えて竜王を眠りにつかせた。 それから幾千年。 現代では六つの大国がそれぞれ封印を管理し、かろうじて世界の均衡を保っている。しかし各地で異常な魔獣が出現し、封印の揺らぎが噂されはじめていた。 そんな世界を気ままに旅する青年がいる。名はブラック・ドラグニル。三年前からハンターとして魔獣を討伐し、その肉を味わいながら各地を渡り歩く放浪者だ。規格外の実力を持ちながら名誉や地位には興味がなく、ただ「世界のうまいものを食べ尽くす」ことを楽しみに生きている。 ある日、光の王国ルミナリア近郊で王女ユリアナが大型魔獣に襲われる事件が起きる。死を覚悟した騎士団の前に現れたブラックは、その怪物をわずか数十秒で討ち倒す。彼にとっては雑魚同然だったが、その圧倒的な強さは王国中に知れ渡る。王女は自由に生きる彼の姿に心を奪われるが、ブラックは次の目的地へ向かう計画を練るばかり。 だが彼自身はまだ知らない。 自らが竜族の末裔であり、世界を再び“統合”へ導く鍵となる存在であることを。 竜の封印が揺らぐとき、自由を愛する青年は世界の命運を左右する選択を迫られる。 これは、竜の記憶と人の魂が交錯する壮大なファンタジー叙事譚である。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

処理中です...