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第1章―放課後のログイン―
セーフゾーンの灯かり
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スライムを倒し終えた三人は、草原をしばらく歩き続けた。
空は現実よりも濃い群青色で、太陽は見えないのに不思議と視界は明るい。風は柔らかく、木々のざわめきさえ妙に鮮明に聞こえる。
「……疲れたな」
陽斗が大剣を背負い直しながら大きく伸びをした。
普段ならサッカー部の練習後に「疲れた」と口にするのは軽口に過ぎない。だが今は、体の芯からエネルギーを削られる感覚に近かった。
「わたしも……。ヒールを使うと胸がドキドキして……体力を吸われてる気がする」
美咲が自分の胸元を押さえる。その頬はほんのり赤く、息も少し荒い。
「休める場所を探そう。幸い、草原を抜ければ何かがあるはずだ」
蓮は冷静に言いながらも、額ににじむ汗を拭った。
頭の中では《戦況解析》が作動を続け、周囲の地形や仲間の疲労度を数値として浮かび上がらせている。それは便利だが、常に情報を浴び続ける感覚は、頭痛の種にもなっていた。
やがて、視界の先に小さな灯りが見えた。
それは篝火のようにゆらめき、一定のリズムで瞬いている。
「……あれ、なんだ?」
「村の明かり……? まさか、NPCがいるのかな」
美咲の声に、一瞬だけ三人の心が軽くなった。
近づいてみると、そこには石造りの小さな建物が数軒並んでいた。
その中央には「掲示板」のようなものが立っており、そこから柔らかな光があふれている。
——【セーフゾーン:ルーンの集落】
「……セーフゾーン……」
陽斗が呟くと同時に、体の奥から力がふっと抜けていくのを感じた。
まるでゲームセンターの休憩所に腰を下ろしたような安堵感。
「体力バーが……自然回復してる」
美咲の声には驚きと喜びが混じる。
確かに彼女のHPバーが少しずつ回復していた。
村の入り口には、粗末な服を着た老人が立っていた。
顔の皺や白髪の一本一本まで緻密に描かれている。——まるで生身の人間。
「ようこそ、旅人たちよ」
その声は重々しく、しかしどこか機械的な抑揚を含んでいた。
NPCだ。そう思い込もうとした瞬間、蓮の背筋が冷たくなった。
(……声が“生きてる”。これは録音や合成音じゃない。本当に、この世界で生きて喋ってるみたいだ)
老人は微笑み、掲示板を指さす。
「冒険を望むならば、この地で休み、力を蓄えるとよい」
その瞬間、掲示板に新しいクエストが浮かび上がった。
——【サブクエスト:夜を越えろ】
——【報酬:休息と次の道標】
陽斗が目を丸くした。
「夜を……越えろ? ただ寝るだけか?」
美咲は不安げに周囲を見回す。
「……でも、夜って、この世界でどうなるんだろう」
蓮は二人に向き直り、静かに告げた。
「休息をとるのは正解だ。ただ……油断は禁物だ。セーフゾーンがどんな意味を持つのか、まだ俺たちは知らない」
三人は顔を見合わせ、小さく頷いた。
そして、灯りに包まれた「ルーンの集落」へ足を踏み入れる。
——そこで待つのは、本当に休息か。それとも新たな試練か。
空は現実よりも濃い群青色で、太陽は見えないのに不思議と視界は明るい。風は柔らかく、木々のざわめきさえ妙に鮮明に聞こえる。
「……疲れたな」
陽斗が大剣を背負い直しながら大きく伸びをした。
普段ならサッカー部の練習後に「疲れた」と口にするのは軽口に過ぎない。だが今は、体の芯からエネルギーを削られる感覚に近かった。
「わたしも……。ヒールを使うと胸がドキドキして……体力を吸われてる気がする」
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「休める場所を探そう。幸い、草原を抜ければ何かがあるはずだ」
蓮は冷静に言いながらも、額ににじむ汗を拭った。
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やがて、視界の先に小さな灯りが見えた。
それは篝火のようにゆらめき、一定のリズムで瞬いている。
「……あれ、なんだ?」
「村の明かり……? まさか、NPCがいるのかな」
美咲の声に、一瞬だけ三人の心が軽くなった。
近づいてみると、そこには石造りの小さな建物が数軒並んでいた。
その中央には「掲示板」のようなものが立っており、そこから柔らかな光があふれている。
——【セーフゾーン:ルーンの集落】
「……セーフゾーン……」
陽斗が呟くと同時に、体の奥から力がふっと抜けていくのを感じた。
まるでゲームセンターの休憩所に腰を下ろしたような安堵感。
「体力バーが……自然回復してる」
美咲の声には驚きと喜びが混じる。
確かに彼女のHPバーが少しずつ回復していた。
村の入り口には、粗末な服を着た老人が立っていた。
顔の皺や白髪の一本一本まで緻密に描かれている。——まるで生身の人間。
「ようこそ、旅人たちよ」
その声は重々しく、しかしどこか機械的な抑揚を含んでいた。
NPCだ。そう思い込もうとした瞬間、蓮の背筋が冷たくなった。
(……声が“生きてる”。これは録音や合成音じゃない。本当に、この世界で生きて喋ってるみたいだ)
老人は微笑み、掲示板を指さす。
「冒険を望むならば、この地で休み、力を蓄えるとよい」
その瞬間、掲示板に新しいクエストが浮かび上がった。
——【サブクエスト:夜を越えろ】
——【報酬:休息と次の道標】
陽斗が目を丸くした。
「夜を……越えろ? ただ寝るだけか?」
美咲は不安げに周囲を見回す。
「……でも、夜って、この世界でどうなるんだろう」
蓮は二人に向き直り、静かに告げた。
「休息をとるのは正解だ。ただ……油断は禁物だ。セーフゾーンがどんな意味を持つのか、まだ俺たちは知らない」
三人は顔を見合わせ、小さく頷いた。
そして、灯りに包まれた「ルーンの集落」へ足を踏み入れる。
——そこで待つのは、本当に休息か。それとも新たな試練か。
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